六祖壇経 / 行由品第一
明良久,惠能曰:「不思善,不思惡,正與麼時,那個是明上座本來面目?」
新字:明良久,恵能曰:「不思善,不思悪,正与麼時,那個是明上座本来面目?」
書き下し
明良久しくして、惠能曰く、「善を思はず、惡を思はず、正に與麼の時、那箇か是れ明上座の本來の面目」と。
現代語訳
慧明がしばらく黙っていると、慧能は言った。「善も思わず、悪も思わず、まさにそのとき、どれが明上座、あなたの本来の面目か」。
解説
衣鉢を奪おうと慧能を追ってきた僧・慧明が、いざ衣鉢を手にすると持ち上がらず、心を改めて法を求めた。その求めに慧能が返したのがこの一句である。「善を思はず、惡を思はず」——善悪の判断を止めよ。そして「正に與麼の時」、ちょうどそのときに現れているものは何か、と問う。答えを教えず、問いだけを置いた。慧明はこの一言で悟る。禅の問答が公案として立ち上がる原型がここにある。「本來の面目」——生まれつきの、飾らない素顔。日本語の「本来の面目」「面目を施す」の語源でもある。判断を止めた瞬間に何が残っているか、という問いは、いまも同じ形で使える。
この章句が説くこと
不思善不思悪本来面目慧明判断を止める