六祖壇経 / 行由品第一
惠能曰:「人雖有南北,佛性本無南北;獦獠身與和尚不同,佛性有何差別?」 五祖更欲與語,且見徒眾總在左右,乃令隨眾作務。
新字:恵能曰:「人雖有南北,仏性本無南北;獦獠身与和尚不同,仏性有何差別?」 五祖更欲与語,且見徒眾総在左右,乃令随眾作務。
書き下し
惠能曰く、「人に南北有りと雖も、佛性に本より南北無し。獦獠の身と和尚と同じからざるも、佛性に何の差別か有らん」と。五祖更に與に語らんと欲するも、且く徒眾の總て左右に在るを見て、乃ち眾に隨ひて務を作さしむ。
現代語訳
慧能は言った。「人に南北の別はあっても、仏性にはもともと南北はありません。蛮人であるこの身と和尚とは違っていても、仏性に何の差別がありましょうか」。五祖はさらに語り合おうとしたが、弟子たちがみな左右にいるのを見て、そこで慧能を人々に混じって作務に就かせた。
解説
嶺南から来た慧能に、五祖弘忍は「おまえは嶺南の者で、しかも獦獠(南方の蛮人の蔑称)だ。どうして仏になれようか」と言った。当時の差別意識をそのまま口に出した言葉である。慧能の返しがこの一段だ。「人に南北有りと雖も、佛性に本より南北無し」。人には出身の違いがあるが、仏性に出身はない。相手の前提を否定せず、区別が及ぶ層と及ばない層を切り分けてみせる。しかも「獦獠の身と和尚と同じからざるも」——蔑称を自分から引き受けたうえで反論している。五祖はこの一言で見抜くが、周りの目があるので何も言わず、雑用に回した。優れた者を見つけたとき、すぐ引き上げるとは限らないという場面でもある。
この章句が説くこと
仏性に南北なし獦獠五祖弘忍区別の層