臨済録 / 示衆
有時奪人不奪境、有時奪境不奪人、有時人境俱奪、有時人境俱不奪。」時有僧問:「如何是奪人不奪境?」師云:「煦日發生鋪地錦,瓔孩垂髮白如絲。」僧云:「如何是奪境不奪人?」師云:「王令已行天下遍,將軍塞外絕烟塵。」僧云:「如何是人境兩俱奪?」師云:「并汾絕信,獨處一方。」僧云:「如何是人境俱不奪?」師云:「王登寶殿,野老謳歌。」師乃云:「今時學佛法者,且要求真正見解。若得真正見解,生死不染、去住自由,不要求殊勝,殊勝自至。道流!秖如自古先德,皆有出人底路。如山僧指示人處,秖要爾不受人惑,要用便用,更莫遲疑。如今學者不得,病在甚處?病在不自信處。
新字:有時奪人不奪境、有時奪境不奪人、有時人境倶奪、有時人境倶不奪。」時有僧問:「如何是奪人不奪境?」師云:「煦日発生鋪地錦,瓔孩垂髪白如糸。」僧云:「如何是奪境不奪人?」師云:「王令已行天下遍,将軍塞外絶烟塵。」僧云:「如何是人境両倶奪?」師云:「并汾絶信,独処一方。」僧云:「如何是人境倶不奪?」師云:「王登宝殿,野老謳歌。」師乃云:「今時学仏法者,且要求真正見解。若得真正見解,生死不染、去住自由,不要求殊勝,殊勝自至。道流!秖如自古先徳,皆有出人底路。如山僧指示人処,秖要爾不受人惑,要用便用,更莫遅疑。如今学者不得,病在甚処?病在不自信処。
書き下し
有る時は人を奪って境を奪はず、有る時は境を奪って人を奪はず、有る時は人境俱に奪ひ、有る時は人境俱に奪はず」と。時に僧有り問ふ、「如何なるか是れ人を奪って境を奪はざる」と。師云く、「煦日發生して地に錦を鋪き、瓔孩髮を垂れて白きこと絲の如し」と。僧云く、「如何なるか是れ境を奪って人を奪はざる」と。師云く、「王令已に行はれて天下遍く、將軍塞外に烟塵を絕つ」と。僧云く、「如何なるか是れ人境兩つながら俱に奪ふ」と。師云く、「并汾信を絕ち、獨り一方に處る」と。僧云く、「如何なるか是れ人境俱に奪はざる」と。師云く、「王寶殿に登り、野老謳歌す」と。師乃ち云く、「今時佛法を學ぶ者は、且く真正の見解を求むるを要す。若し真正の見解を得ば、生死に染まらず、去住自由にして、殊勝を求めずして殊勝自ら至る。道流、秖だ自古の先德の如きは、皆な人を出だす底の路有り。山僧が人に指示する處の如きは、秖だ爾が人の惑を受けざらんことを要す。用ゐんと要さば便ち用ゐよ、更に遲疑する莫かれ。如今の學者得ざるは、病甚の處にか在る。病は自ら信ぜざる處に在り。
現代語訳
「あるときは人を奪って境を奪わず、あるときは境を奪って人を奪わず、あるときは人も境もともに奪い、あるときは人も境もともに奪わない」。そのとき僧が問うた。「人を奪って境を奪わないとは何ですか」。慧照は言った。「あたたかな日ざしが生い立って地に錦を敷き、幼な子の垂らした髪が糸のように白い」。僧が言った。「境を奪って人を奪わないとは何ですか」。慧照は言った。「王の命令がすでに行きわたって天下に遍く、将軍は塞の外で戦の煙塵を絶つ」。僧が言った。「人も境もともに奪うとは何ですか」。慧照は言った。「并州と汾州は音信を絶ち、ひとり一方に居る」。僧が言った。「人も境もともに奪わないとは何ですか」。慧照は言った。「王が宝殿に登り、野の老人が歌をうたう」。慧照はそこで言った。「いま仏法を学ぶ者は、まず真正の見解を求めることが肝要だ。もし真正の見解を得れば、生死に染まらず、去るも留まるも自由で、すぐれたものを求めなくてもすぐれたものが自ずと至る。道流よ、昔の先徳はみな、人を出してやる道を持っていた。わしが人に指し示すところは、ただおまえが他人の惑わしを受けないようになることだ。用いようと思うなら用いよ、ためらうな。いまの学人が得られないのは、病がどこにあるからか。病は自分を信じないところにある」。
解説
この章句が説くこと
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『臨済録』示衆如今道を學ぶ人は且く自ら信ずるを要す。外に向かって覓むる莫かれ。總て他の閑塵境に上りて、都て邪正を辨ぜず。秖だ祖有り佛有るが如きは、皆な是れ教迹中の事なり。人有りて一句子の語を拈起し、或いは隱顯の中より出づれば、便ち即ち疑ひ生じ、天を照らし地を照らし、傍家に尋ね問ふ、也た大いに忙然たり。大丈夫兒、秖麼に主を論じ賊を論じ、是を論じ非を論じ、色を論じ財を論じ、閑話を論説して日を過ごす莫かれ。山僧此の間、僧俗を論ぜず、但だ來る者有れば盡く伊を識得す。伊が甚の處に向かって出で來るに任すも、但だ聲名文句有るは、皆な是れ夢幻なり。却つて境に乘ずる底の人を見るは是れ諸佛の玄旨なり。佛境は自ら我は是れ佛境なりと稱すること能はず。還た是れ這箇の無依の道人、境に乘じて出で來る。若し人有りて出で來りて我に佛を求むれば、我れ即ち清淨の境に應じて出づ。人有りて我に菩薩を問へば、我れ即ち慈悲の境に應じて出づ。人有りて我に菩提を問へば、我れ即ち淨妙の境に應じて出づ。人有りて我に涅槃を問へば、我れ即ち寂靜の境に應じて出づ。境は即ち萬般差別なるも、人は即ち別ならず。所以に物に應じて形を現ずること、水中の月の如し。道流、爾若し如法なるを得んと欲せば、直だ須らく是れ大丈夫兒にして始めて得べし。
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『臨済録』示衆諸方の学人来たるが如きは、山僧此の間に三種の根器を作して断ず。如し中下の根器来たらば、我れ便ち其の境を奪って、其の法を除かず。或いは中上の根器来たらば、我れ便ち境法倶に奪う。如し上上の根器来たらば、我れ便ち境法人倶に奪わず。如し出格の見解の人有って来たらば、山僧此の間には便ち全体作用して根器を歴ず。「大徳、這裏に到っては、学人の力を著くる処、風を通ぜず、石火電光も即ち過ぎ了れり。学人若し眼定動せば、即ち交渉没し。心を擬すれば即ち差い、念を動ずれば即ち乖く。人の解する者有らば、目前を離れず。大徳、爾鉢嚢屎担子を担って、傍家に走って仏を求め法を求む。即今与麼に馳求する底、爾還って渠を識るや。活撥撥地にして、秖だ是れ根株勿し。擁すれども聚まらず、撥すれども散ぜず。求著すれば即ち転た遠く、求めざれば還って目前に在り。霊音耳に属す。若し人信ぜずんば、徒らに百年を労せん。
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『臨済録』示衆道流、大丈夫漢、更に箇の什麼をか疑はん。目前の用處、更に是れ阿誰か把得して便ち用ゐん。名字に著する莫かれ、號して玄旨と為す。與麼に見得すれば嫌ふ底の法勿し。古人云く、『心は萬境に隨って轉ず、轉ずる處實に能く幽なり。流れに隨って性を認得すれば、喜び無く亦た憂ひ無し』と。道流、禪宗の見解の如きは死活循然たり。參學の人、大いに須らく子細なるべし。主客相見の如きは便ち言論の往來有り。或いは物に應じて形を現じ、或いは全體に作用し、或いは機權を把って喜怒し、或いは半身を現じ、或いは師子に乘り、或いは象王に乘る。如し真正の學人有れば便ち喝して、先づ一箇の膠盆子を拈出す。善知識是れ境なるを辨ぜずして、便ち他の境上に上りて模を作し樣を作す。學人便ち喝すれば、前人肯へて放たず。此れは是れ膏肓の病、醫するに堪へず、喚んで客、主を看ると作す。或いは是れ善知識、物を拈出せずして、學人の問處に隨って即ち奪ふ。學人奪はれて死に抵るまで放たず、此れは是れ主、客を看るなり。
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『臨済録』示衆道流、今時且く四種の無相の境を識取して、境に擺撲せらるることを免れんことを要す。」問う、「如何なるか是れ四種の無相の境。」師云く、
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『臨済録』示衆道流、爾如法の見解を得んと欲せば、但だ人の惑を受くる莫かれ。裏に向かひ外に向かひ、逢著すれば便ち殺せ。佛に逢うては佛を殺し、祖に逢うては祖を殺し、羅漢に逢うては羅漢を殺し、父母に逢うては父母を殺し、親眷に逢うては親眷を殺して、始めて解脫を得ん。物と拘はらず、透脫自在なり。諸方の學道流の如きは、未だ物に依らずして出で來る底有らず。山僧、此の間に向かって頭より打つ。手上より出で來れば手上に打ち、口裏より出で來れば口裏に打ち、眼裏より出で來れば眼裏に打つ。未だ一箇の獨脫して出で來る底有らず。皆な是れ他の古人の閑機境に上る。山僧一法の人に與ふる無し。秖だ是れ病を治し縛を解くのみ。爾諸方の道流、試みに物に依らずして出で來れ。我れ爾と共に商量せんことを要す。十年五歲並びに一人も無し。皆な是れ草に依り葉に附く竹木の精靈、野狐の精魅にして、一切の糞塊の上に向かって亂咬する瞎漢なり。枉げて他の十方の信施を消して、我は是れ出家兒なりと道ふ。是くの如きの見解を作す。爾に向かって道はん、『佛無く、法無く、修無く、證無し。秖だ與麼に傍家に擬して什麼物をか求めん』と。瞎漢、頭上に頭を安く。是れ爾に什麼をか欠少せる。
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『臨済録』示衆爾が一念心の疑ふ處、是れ魔なり。爾若し萬法無生、心は幻化の如く、更に一塵・一法も無しと達得せば、處處清淨、是れ佛なり。然れども佛と魔とは是れ染・淨の二境なり。山僧が見處に約せば、佛無く、眾生無く、古無く、今無し。得る者は便ち得て、時節を歷ず。修無く、證無く、得無く、失無く、一切時中更に別法無し。設ひ一法の此に過ぐる者有らば、我れ説かん、夢の如く化の如しと。山僧が説く所は皆な是れなり。道流、即今目前に孤明歷歷地として聽く者、此の人處處に滯らず、十方に通貫し、三界に自在なり。一切の境差別に入るも回換すること能はず、一剎那の間に法界に透入し、佛に逢うては佛を説き、祖に逢うては祖を説き、羅漢に逢うては羅漢を説き、餓鬼に逢うては餓鬼を説く。一切處に向かって國土に游履し眾生を教化するも、未だ嘗て一念を離れず。隨處に清淨、光は十方に透り、萬法一如なり。道流、大丈夫兒、今日方に本來無事なるを知る。秖だ爾が信ずること及ばず、念念に馳求し、頭を捨てて頭を覓め、自ら歇むこと能はざるが為なり。
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