臨済録 / 上堂
山僧今日事不獲已,曲順人情方登此座。若約祖宗門下稱揚大事,直是開口不得,無爾措足處。山僧此日以常侍堅請,那隱綱宗,還有作家戰將直下展陣開旗麼?對眾證據看。」僧問:「如何是佛法大意?」師便喝,僧禮拜。師云:「這箇師僧却堪持論。」問師:「唱誰家曲?宗風嗣阿誰?」師云:「我在黃蘗處,三度發問,三度被打。」僧擬議,師便喝,隨後打,云:「不可向虛空裏釘橛去也。」有座主問:「三乘十二分教豈不是明佛性?」師云:「荒草不曾鋤。」主云:「佛豈賺人也?」師云:「佛在什麼處?」主無語。師云:「對常侍前擬瞞老僧,速退速退,妨他別人諸問。」復云:「此日法筵為一大事故,更有問話者麼?速致問來,爾纔開口,早勿交涉也。
新字:山僧今日事不獲已,曲順人情方登此座。若約祖宗門下称揚大事,直是開口不得,無爾措足処。山僧此日以常侍堅請,那隠綱宗,還有作家戦将直下展陣開旗麼?対衆証拠看。」僧問:「如何是仏法大意?」師便喝,僧礼拝。師云:「這箇師僧却堪持論。」問師:「唱誰家曲?宗風嗣阿誰?」師云:「我在黄蘗処,三度発問,三度被打。」僧擬議,師便喝,随後打,云:「不可向虚空裏釘橛去也。」有座主問:「三乗十二分教豈不是明仏性?」師云:「荒草不曽鋤。」主云:「仏豈賺人也?」師云:「仏在什麼処?」主無語。師云:「対常侍前擬瞞老僧,速退速退,妨他別人諸問。」復云:「此日法筵為一大事故,更有問話者麼?速致問来,爾纔開口,早勿交渉也。
書き下し
山僧今日、事已むを獲ずして、曲げて人情に順ひ方に此の座に登る。若し祖宗門下に約して大事を稱揚せば、直だ是れ口を開くを得ず、爾が足を措く處無からん。山僧此の日、常侍の堅く請ふを以て、那んぞ綱宗を隱さん。還た作家の戰將、直下に陣を展べ旗を開く者有りや。眾に對して證據し看よ」と。僧問ふ、「如何なるか是れ佛法の大意」と。師便ち喝す。僧禮拜す。師云く、「這箇の師僧、却つて論を持するに堪へたり」と。師に問ふ、「誰が家の曲をか唱ふる。宗風阿誰にか嗣ぐ」と。師云く、「我れ黃蘗の處に在りて、三度發問し、三度打たる」と。僧擬議す。師便ち喝し、隨後して打ちて云く、「虛空裏に向かって橛を釘つ可からざるなり」と。座主有りて問ふ、「三乘十二分教、豈に是れ佛性を明かすにあらずや」と。師云く、「荒草曾て鋤かず」と。主云く、「佛豈に人を賺かんや」と。師云く、「佛は什麼の處にか在る」と。主語無し。師云く、「常侍の前に對して老僧を瞞かんと擬す。速やかに退け、速やかに退け。他の別人の諸問を妨ぐ」と。復た云く、「此の日の法筵は一大事の為の故なり。更に問話する者有りや。速やかに問ひ來れ。爾纔かに口を開けば、早く交涉勿きなり。
現代語訳
「わしは今日、やむをえず、人情に曲げて従ってこの座に登った。もし祖師方の門下の作法どおりに一大事を称揚するなら、そもそも口を開くことができず、おまえたちには足の置きどころもあるまい。わしは今日、常侍どのの強い願いによって、どうして宗門の綱要を隠そうか。さあ、腕利きの戦将で、いますぐ陣を張り旗を掲げる者はいるか。皆の前で証拠を見せてみよ」。僧が問うた。「仏法の大意とは何ですか」。慧照は喝した。僧が礼拝した。慧照は言った。「この僧はまだ議論するに足りる」。ある者が問うた。「どなたの家の曲を唱われるのか。宗風はどなたを嗣いでおられるのか」。慧照は言った。「わしは黄檗のところで、三度問うて、三度打たれた」。僧が言いよどんだ。慧照は喝し、続けざまに打って言った。「虚空に杭を打ち込むことはできぬわ」。ある座主が問うた。「三乗十二分教は、仏性を明かしたものではありませんか」。慧照は言った。「荒れ草をまだ鋤いておらぬ」。座主は言った。「仏がどうして人を欺きましょうか」。慧照は言った。「その仏はどこにいる」。座主は答えられなかった。慧照は言った。「常侍どのの前でわしをたぶらかそうとするか。早く退がれ、早く退がれ。他の者の問いのじゃまだ」。さらに言った。「今日の法座は一大事のためのものだ。まだ問う者はいるか。早く問うてこい。だがおまえが口を開いたとたん、もう的を外している」。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『臨済録』上堂上堂。僧有り出でて礼拝す。師便ち喝す。僧云く、「老和尚、探頭すること莫くんば好し。」師云く、「爾道え、什麼の処にか落在す。」僧便ち喝す。又た僧有り問う、「如何なるか是れ仏法の大意。」師便ち喝す。僧礼拝す。師云く、「爾道え、好喝なりや也た無や。」僧云く、「草賊大敗す。」師云く、「過、什麼の処にか在る。」僧云く、「再犯は容さず。」師便ち喝す。是の日、両堂の首座相見えて、同時に喝を下す。僧、師に問う、「還って賓主有りや也た無や。」師云く、「賓主歴然。」師云く、「大衆、臨済が賓主の句を会せんと要せば、堂中の二首座に問取せよ。」便ち座を下る。上堂。僧問う、「如何なるか是れ仏法の大意。」師、払子を竪起す。僧便ち喝す。師便ち打つ。又た僧問う、「如何なるか是れ仏法の大意。」師亦た払子を竪起す。僧便ち喝す。師も亦た喝す。僧擬議す。師便ち打つ。師乃ち云く、「大衆、夫れ法の為にする者は、喪身失命を避けず。我れ二十年、黄檗先師の処に在って、三度仏法的的の大意を問い、三度他の杖を賜うことを蒙る。蒿枝の払著するが如くに相似たり。如今更に一頓の棒を得て喫せんことを思う。誰人か我が為に行じ得ん。」時に僧有り衆を出でて云く、「某甲行じ得ん。」師、棒を拈じて他に与う。其の僧接せんと擬す。師便ち打つ。上堂。僧問う、「如何なるか是れ剣刃上の事。」師云く、「禍事、禍事。」僧擬議す。師便ち打つ。問う、「秖だ石室行者の、碓を踏んで脚を移すことを忘却するが如きは、什麼の処に向かってか去る。」師云く、「深泉に没溺す。」師乃ち云く、「但だ来たる者有らば伊を虧欠せず、総に伊が来処を識る。若し与麼に来たらば、恰も失却するに似たり。与麼に来たらざれば、縄無くして自ら縛す。一切時中、乱りに斟酌すること莫かれ。会と不会と、都来是れ錯。分明に与麼に道う、天下の人の貶剝するに一任す。久立珍重。」
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『臨済録』行録師初め黃蘗の會下に在りて行業純一なり。首座乃ち歎じて曰く、「後生なりと雖も、眾と異なる有り」と。遂に問ふ、「上座此に在ること多少の時ぞ」と。師云く、「三年」と。首座云く、「曾て參問せしや」と。師云く、「曾て參問せず。箇の什麼をか問はんかを知らず」と。首座云く、「汝何ぞ去いて堂頭和尚に、如何なるか是れ佛法の的的たる大意と問はざる」と。師便ち去いて問ふ。聲未だ絕えざるに、黃蘗便ち打つ。師下り來る。首座云く、「問話作麼生」と。師云く、「某甲問ふ聲未だ絕えざるに、和尚便ち打つ。某甲會せず」と。首座云く、「但だ更に去いて問へ」と。師又た去いて問ふ。黃蘗又た打つ。是くの如く三度發問し、三度打たる。師來りて首座に白して云く、「幸ひに慈悲を蒙り、某甲をして和尚に問訊せしむ。三度發問し、三度打たる。自ら障緣にして深旨を領せざるを恨む。今且く辭し去らん」と。首座云く、「汝若し去る時は、須らく和尚を辭し去るべし」と。師禮拜して退く。首座先づ和尚の處に到りて云く、「問話底の後生、甚だ是れ如法なり。若し來りて辭する時、方便して他を接せよ。向後穿鑿して一株の大樹と成り、天下の人與に廕涼を作し去らん」と。師去いて黃蘗を辭す。蘗云く、「別處に往き去るを得ず。汝高安の灘頭大愚の處に向かって去け。必ず汝が為に説かん」と。師大愚に到る。大愚問ふ、「什麼の處より來る」と。師云く、「黃蘗の處より來る」と。大愚云く、「黃蘗何の言句か有る」と。師云く、「某甲三度佛法の的的たる大意を問ひ、三度打たる。知らず、某甲過有りや、過無しや」と。大愚云く、「黃蘗與麼に老婆にして汝が為に徹困を得たり。更に這裏に來りて過有り過無しと問ふか」と。師言下に大悟して云く、「元來、黃蘗の佛法多子無し」と。
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『臨済録』勘辨一老宿有り、師に参じ、未だ曾て人事せずして便ち問う、「礼拝するが即ち是か、礼拝せざるが即ち是か。」師便ち喝す。老宿便ち礼拝す。師云く、「好箇の草賊。」老宿云く、「賊、賊。」便ち出で去る。師云く、「無事にして好しと道うこと莫かれ。」首座侍立する次いで、師云く、「還って過有りや。」首座云く、「有り。」師云く、「賓家に過有りや、主家に過有りや。」首座云く、「二俱に過有り。」師云く、「過は什麼の処にか在る。」首座便ち出で去る。師云く、「無事にして好しと道うこと莫かれ。」後に僧有り、南泉に挙似す。南泉云く、「官馬相踏む。」師因みに軍営に入って斎に赴く。門首に員僚を見る。師、露柱を指して問う、「是れ凡か、是れ聖か。」員僚無語。師、露柱を打って云く、「直饒(たとい)道い得るも、也た秖だ是れ箇の木橛(ぼっけつ)。」便ち入り去る。師、院主に問う、「什麼の処よりか来たる。」主云く、「州中に黄米を糶(う)りに去り来たる。」師云く、「糶り得尽くすや。」主云く、「糶り得尽くす。」師、杖を以て面前に一画を画して云く、「還って這箇を糶り得るや。」主便ち喝す。師便ち打つ。典座至る。師前語を挙す。典座云く、「院主、和尚の意を会せず。」師云く、「爾は作麼生。」典座便ち礼拝す。師亦た打つ。座主有り、来たって相看する次いで、師、座主に問う、「何の経説をか講ず。」主云く、「某甲荒虚にして粗(ほぼ)百法論を習う。」師云く、「一人有り、三乗十二分教に於いて明らめ得、一人有り、三乗十二分教に於いて明らめ得ず、是れ同か是れ別か。」主云く、「明らめ得れば即ち同、明らめ得ざれば即ち別。」楽普、侍者為りて師の後に在って立ち、云く、「座主、這裏は是れ什麼の所在ぞ、同と説き別と説く。」師、首を回らして侍者に問う、「汝又た作麼生。」侍者便ち喝す。師、座主を送り、回り来たって遂に侍者に問う、「適来是れ汝、老僧を喝せしか。」侍者云く、「是。」師便ち打つ。師、第二代徳山の垂示を聞く、云く、「道い得るも也た三十棒、道い得ざるも也た三十棒。」
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『臨済録』勘辨定上座有り、到り參じて問ふ、「如何なるか是れ佛法の大意」と。師繩床を下り、擒住して一掌を與へて便ち托開す。定佇立す。傍の僧云く、「定上座、何ぞ禮拜せざる」と。定方に禮拜し、忽然として大悟す。
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『碧巌録』第三十二則挙す。定上座、臨済に問ふ、如何なるか是れ仏法の大意。済禅床を下りて、擒住して一掌を与へ、便ち托開す。定佇立す。傍らの僧云く、定上座何ぞ礼拝せざる。定方に礼拝して、忽然として大悟す。
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『碧巌録』第十一則檗、住して後、機鋒峭峻なり。臨済会下に在り、睦州首座たり。問うて云く、上座此に在ること多時、何ぞ去きて問話せざる。済云く、某甲をして什麼の話をか問はしめば即ち得ん。座云く、何ぞ去きて如何なるか是れ仏法的的の大意と問はざる。済便ち去きて問ひ、三度打ち出さる。済、座に辞して曰く、首座の三番去きて問はしむるを蒙り、打ち出さる。恐らくは因縁這裏に在らず。暫く且く山を下らん。座云く、子若し去らば、須らく和尚に辞して去りて方に可なるべし。首座預め去きて檗に白して云く、問話の上座、甚だ得べからず。和尚何ぞ穿鑿して一株の樹と成し去りて、後人の与に陰涼と為さしめざる。檗云く、吾已に知れり。済来たり辞す。檗云く、汝別処に向かつて去くことを得ざれ。直に高安灘頭に向かつて大愚に見え去れ。済、大愚に到りて、遂に前話を挙す。知らず、某甲過什麼の処にか在る。愚云く、黄檗与麼に老婆心切に、儞が為に徹困す。更に什麼の有過無過をか説かん。済忽然として大悟して云く、黄檗の仏法、多子無し。大愚搊住して云く、儞適来又過有りと道ひ、而今却つて仏法多子無しと道ふ。済、大愚の脇下に於て築くこと三拳。愚、拓開して云く、汝が師は黄檗なり、我が事に干るに非ず。
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