六韜 / 陰書
武王問太公曰:「引兵深入諸侯之地,主將欲合兵,行無窮之變,圖不測之利。其事煩多,符不能明;相去遼遠,言語不通。為之奈何?」太公曰:「諸有陰事大慮,當用書,不用符。主以書遺將,將以書問主。書皆一合而再離,三發而一知。再離者,分書為三部。三發而一知者,言三人,人操一分,相參而不相知情也。此謂陰書。敵雖聖智,莫之能識。」武王曰:「善哉。」
新字:武王問太公曰:「引兵深入諸侯之地,主将欲合兵,行無窮之変,図不測之利。其事煩多,符不能明;相去遼遠,言語不通。為之奈何?」太公曰:「諸有陰事大慮,当用書,不用符。主以書遺将,将以書問主。書皆一合而再離,三発而一知。再離者,分書為三部。三発而一知者,言三人,人操一分,相参而不相知情也。此謂陰書。敵雖聖智,莫之能識。」武王曰:「善哉。」
書き下し
武王 太公に問ひて曰く、「兵を引きて深く諸侯の地に入り、主将 兵を合はせ、窮まりなきの変を行ひ、測られざるの利を図らんと欲す。其の事 煩多にして、符もて明らかにする能はず。相去ること遼遠にして、言語 通ぜず。之を為すこと奈何」と。太公曰く、「諸そ陰事大慮あらば、当に書を用ふべく、符を用ひず。主は書を以て将に遺り、将は書を以て主に問ふ。書は皆な一たび合はせて再び離ち、三たび発して一たび知る。再び離つとは、書を分かちて三部と為すなり。三たび発して一たび知るとは、三人を言ふ。人 一分を操り、相参して情を相知らざるなり。此れを陰書と謂ふ。敵 聖智なりと雖も、之を能く識ること莫し」と。武王曰く、「善き哉」と。
現代語訳
武王が太公にたずねた。「軍を率いて深く諸侯の地に入り、君主と将が兵を合わせ、限りない変化に応じ、思いもよらぬ利を図ろうとする。ところがその内容は込み入っていて、符では伝えきれない。互いの距離は遠く、言葉も通じない。それにはどうすればよいでしょうか」。太公は答えた。「およそ内密の重大な計画があるときは、文書を用いるべきで、符は用いません。君主は文書で将に指示を送り、将は文書で君主に問い合わせます。文書はいったん書き上げてから三つに分け、三度に分けて発し、受け手の側で一つに合わせてはじめて意味が分かるようにします。分けるとは、文書を三つの部分に切り分けることです。三度に分けて発するとは、三人の使者を用いるということです。それぞれが一つの部分だけを持ち、三つを突き合わせてはじめて意味が通じるので、使者どうしも中身を知りません。これを陰書といいます。敵がどれほど聡明であっても、これを見破ることはできません」。武王は「よくわかりました」と言った。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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六韜・陰符武王 太公に問ひて曰く、「兵を引きて深く諸侯の地に入り、三軍 卒かに緩急あり、或いは利あり或いは害あり。吾 将に近きを以て遠きに通じ、中より外に応じ、以て三軍の用に給せんとす。之を為すこと奈何」と。太公曰く、「主と将とに、陰符あり、凡そ八等。大勝克敵の符あり、長さ一尺。破軍擒将の符、長さ九寸。降城得邑の符、長さ八寸。却敵報遠の符、長さ七寸。警衆堅守の符、長さ六寸。請糧益兵の符、長さ五寸。敗軍亡将の符、長さ四寸。失利亡士の符、長さ三寸。諸そ使を奉じ符を行ふに稽留し、若しくは符の事 聞え泄るれば、告ぐる者 皆な之を誅す。八符なる者は、主将の祕聞にして、陰かに言語を通じ、中外相知るの術を泄らさざる所以なり。敵 聖智なりと雖も、之を能く識ること莫し」と。武王曰く、「善き哉」と。
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六韜・絶道武王 太公に問ひて曰く、「兵を引ゐて深く諸侯の地に入り、敵と相守る。敵人 我が糧道を絶ち、又た我が前後を越ゆ。吾 戦はんと欲すれば則ち勝つべからず、守らんと欲すれば則ち久しかるべからず。之を為すこと奈何」と。太公曰く、「凡そ深く敵人の地に入らば、必ず地の形勢を察し、務めて便利を求めよ。山林・険阻・水泉・林木に依りて之が固めを為し、謹みて関梁を守り、又た城邑・丘墓の地形の利を知る。是くの如くんば、則ち我が軍は堅固にして、敵人は我が糧道を絶つこと能はず、又た我が前後を越ゆること能はず」と。武王曰く、「吾が三軍 大陵・広沢・平易の地を過ぎ、吾が盟 誤り失し、卒かに敵人と相薄る。以て戦へば則ち勝たず、以て守れば則ち固からず。敵人 我が両旁を翼にし、我が前後を越え、三軍 大いに恐る。之を為すこと奈何」と。太公曰く、「凡そ師を帥ゐるの法、当に先づ遠候を発し、敵を去ること二百里にして、審らかに敵人の在る所を知るべし。地勢 利あらざれば、則ち武衛を以て塁と為して前み、又た両踵軍を後に置く。遠き者は百里、近き者は五十里。即ち警急有らば、前後 相救ひ、吾が三軍は常に完堅にして、必ず毀傷無からん」と。武王曰く、「善いかな」と。
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六韜・金鼓武王 太公に問ひて曰く、「兵を引ゐて深く諸侯の地に入り、敵と相当たる。而して天 大いに寒く甚だ暑く、日夜 霖雨し、旬日 止まず。溝塁は悉く壊れ、隘塞は守られず、斥候は懈怠し、士卒は戒めず。敵人 夜に来たらば、三軍 備へ無く、上下 惑乱せん。之を為すこと奈何」と。太公曰く、「凡そ三軍は戒めを以て固しと為し、怠るを以て敗ると為す。我が塁上をして、誰何を絶たざらしめ、人ごとに旌旗を執り、外内 相望ましむ。号を以て相命じ、音を乏しからしむること勿く、而して皆 外に向かはしむ。三千人を一屯と為し、誡めて之を約し、各々其の処を慎ましむ。敵人 若し来たらば、我が軍の警戒を親て、至りて必ず還り、力尽き気 怠らん。我が鋭士を発し、随ひて之を撃たん」と。武王曰く、「敵人 我が之に随ふを知りて、其の鋭士を伏せ、佯り北げて止まず。伏を過ぎて還り、或いは我が前を撃ち、或いは我が後を撃ち、或いは我が塁に薄る。吾が三軍 大いに恐れ、擾乱して次を失ひ、其の処所を離る。之を為すこと奈何」と。太公曰く、「分かちて三隊と為し、随ひて之を追ひ、其の伏を越ゆること勿かれ。三隊 俱に至り、或いは其の前後を撃ち、或いは其の両旁を陥る。号を明らかにし令を審らかにし、疾く撃ちて前まば、敵人は必ず敗れん」と。
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六韜・分兵武王(ぶおう)太公(たいこう)に問ひて曰(いは)く、「王者(おうじゃ)師(し)を帥(ひき)ゐ、三軍(さんぐん)分(わか)れて数処(すうしょ)と為(な)り、将(まさ)に期(き)して会(かい)し合戦(かっせん)せんと欲(ほっ)し、賞罰(しょうばつ)を約誓(やくせい)せんとするには、之(これ)を為(な)すこと柰何(いかん)」と。太公曰く、「凡(およ)そ用兵(ようへい)の法(ほう)、三軍の衆(しゅう)、必ず分合(ぶんごう)の変(へん)有(あ)り。其(そ)の大将(たいしょう)先(ま)づ戦地(せんち)戦日(せんじつ)を定(さだ)め、然(しか)る後(のち)に檄書(げきしょ)を移(うつ)して諸将吏(しょしょうり)と期(き)し、城(しろ)を攻(せ)め邑(ゆう)を囲(かこ)むに、各(おのおの)其の所(ところ)に会(かい)せしむ。明(あき)らかに戦日を告(つ)げ、漏刻(ろうこく)に時(とき)有り。大将は営(えい)を設(もう)けて陳(じん)し、表(ひょう)を轅門(えんもん)に立(た)て、道(みち)を清(きよ)めて待(ま)つ。諸将吏の至(いた)る者(もの)、其の先後(せんご)を校(こう)し、期に先(さき)んじて至る者は賞(しょう)し、期に後(おく)れて至る者は斬(き)る。此(か)くの如(ごと)くんば、則(すなは)ち遠近(えんきん)奔(はし)り集(あつま)り、三軍倶(とも)に至り、力(ちから)を并(あは)せて合戦(かっせん)せん」と。
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六韜・動静武王 太公に問ひて曰く、「兵を引ゐて深く諸侯の地に入り、敵の軍と相当たり、両陳 相望み、衆寡・彊弱 相等しく、未だ敢へて先づ挙げず。吾 敵人の将帥をして恐懼せしめ、士卒をして必ず傷ましめ、行陳をして固からざらしめ、後陳をして走らんと欲せしめ、前陳をして数しば顧みしめ、鼓譟して之に乗じ、敵人 遂に走らしめんと欲す。之を為すこと奈何」と。太公曰く、「此くの如き者は、我が兵を発し、寇を去ること十里にして其の両旁に伏せしめ、車騎は百里にして其の前後を越えしむ。其の旌旗を多くし、其の金鼓を益し、戦 合はば、鼓譟して俱に起こる。敵将は必ず恐れ、其の軍は驚駭し、衆寡 相救はず、貴賤 相待たず、敵人は必ず敗れん」と。武王曰く、「敵の地勢、以て其の両旁に伏す可からず、車騎も又た以て其の前後を越ゆる無し。敵 我が慮を知り、先づ其の備へを施す。我が士卒は心 傷み、将帥は恐懼し、戦へば則ち勝たず。之を為すこと奈何」と。太公曰く、「微なるかな、王の問ひや。此くの如き者は、戦ふに先だつこと五日、我が遠候を発し、往きて其の動静を視しむ。審らかに其の来たるを候ひ、伏を設けて之を待つ。必ず死地に於いて、敵と相避く。我が旌旗を遠ざけ、我が行陳を疏かにす。必ず其の前に奔り、敵と相当たる。戦 合はば而ち走り、金を撃ちて止むこと無かれ。三里にして還らば、伏兵 乃ち起こる。或いは其の両旁を陥れ、或いは其の前後を撃ち、三軍 疾く戦はば、敵人は必ず走らん」と。武王曰く、「善いかな」と。
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六韜・軍勢武王 太公に問ひて曰く、「攻伐の道は奈何」と。太公曰く、「資は敵家の動に因り、変は両陳の間に生じ、奇正は無窮の源より発す。故に至事は語らず、用兵は言はず。且つ事の至れる者は、其の言 聴くに足らず。兵の用ふる者は、其の状 見るに足らず。倏として往き、忽として来たり、能く独り専らにして制せられざる者は、兵なり。夫れ兵は、聞かるれば則ち議せられ、見らるれば則ち図られ、知らるれば則ち困しみ、辨らるれば則ち危ふし。故に善く戦ふ者は、軍を張るを待たず。善く患ひを除く者は、未だ生ぜざるに理む。善く敵に勝つ者は、無形に勝つ。上戦は与に戦ふこと無し。故に勝ちを白刃の前に争ふ者は、良将に非ざるなり。備へを已に失ふの後に設くる者は、上聖に非ざるなり。智 衆と同じきは、国師に非ざるなり。技 衆と同じきは、国工に非ざるなり。事は必ず克つより大なるは莫く、用は玄黙より大なるは莫く、動は不意より神なるは莫く、謀は識られざるより善きは莫し。夫れ先づ勝つ者は、先づ弱きを敵に見せて、而る後に戦ふ者なり。故に事 半ばにして功 倍す。聖人は天地の動に徴す、孰か其の紀を知らん。陰陽の道に循ひて其の候に従ふ。天地の盈縮に当たりては、因りて以て常と為す。物に死生あり、天地の形に因る。故に曰く、未だ形を見ずして戦へば、衆しと雖も必ず敗る、と。善く戦ふ者は、之に居りて撓まず、勝ちを見れば則ち起ち、勝たざれば則ち止まる。故に曰く、恐懼する無かれ、猶予する無かれ、と。用兵の害は、猶予 最も大なり。三軍の災ひは、狐疑に過ぐるは莫し。善き者は、利を見て失はず、時に遇ひて疑はず。利を失ひ時に後るれば、反つて其の殃ひを受く。故に智者は之に従ひて釈てず、巧者は一たび決して猶予せず。是を以て疾雷は耳を掩ふに及ばず、迅電は目を瞑るに及ばず。之に赴くこと驚くが若く、之を用ふること狂ふが若し。之に当たる者は破れ、之に近づく者は亡ぶ。孰か能く之を禦がん。夫れ将、言はずして守る所ある者は、神なり。見ずして視る所ある者は、明なり。故に神明の道を知る者は、野に衡敵なく、対に立国なし」と。武王曰く、「善き哉」と。
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