六韜 / 三疑
武王問太公曰:「予欲立功,有三疑:恐力不能攻強,離親,散眾,為之奈何?」太公曰:「因之,慎謀,用財。夫攻強,必養之使強,益之使張。太強必折,太張必缺。攻強以強,離親以親,散眾以眾。凡謀之道,周密為寶。設之以事,玩之以利,爭心必起。欲離其親,因其所愛,與其寵人,與之所欲,示之所利,因以疏之,無使得志。彼貪利甚喜,遺疑乃止。凡攻之道,必先塞其明,而後攻其強、毀其大,除民之害。淫之以色,啗之以利,養之以味,娛之以樂。既離其親,必使遠民,勿使知謀。扶而納之,莫覺其意,然後可成。惠施於民,必無愛財。民如牛馬,數餧食之,從而愛之。心以啟智,智以啟財,財以啟眾,眾以啟賢。賢之有啟,以王天下。」
新字:武王問太公曰:「予欲立功,有三疑:恐力不能攻強,離親,散衆,為之奈何?」太公曰:「因之,慎謀,用財。夫攻強,必養之使強,益之使張。太強必折,太張必欠。攻強以強,離親以親,散衆以衆。凡謀之道,周密為宝。設之以事,玩之以利,争心必起。欲離其親,因其所愛,与其寵人,与之所欲,示之所利,因以疏之,無使得志。彼貪利甚喜,遺疑乃止。凡攻之道,必先塞其明,而後攻其強、毀其大,除民之害。淫之以色,啗之以利,養之以味,娯之以楽。既離其親,必使遠民,勿使知謀。扶而納之,莫覚其意,然後可成。恵施於民,必無愛財。民如牛馬,数餧食之,従而愛之。心以啓智,智以啓財,財以啓衆,衆以啓賢。賢之有啓,以王天下。」
書き下し
武王、太公に問ひて曰く、「予、功を立てんと欲するに、三疑有り。恐らくは力、強きを攻め、親を離し、衆を散ずること能はざらんことを。之を為すこと奈何」と。太公曰く、「之に因り、謀を慎み、財を用ふ。夫れ強きを攻むるには、必ず之を養ひて強からしめ、之を益して張らしむ。太だ強ければ必ず折れ、太だ張れば必ず缺く。強きを攻むるに強きを以てし、親を離すに親を以てし、衆を散ずるに衆を以てす。凡そ謀の道は、周密を宝と為す。之を設くるに事を以てし、之を玩ばしむるに利を以てせば、争心必ず起こらん。其の親を離さんと欲せば、其の愛する所に因り、其の寵人に与し、之に欲する所を与へ、之に利する所を示し、因りて以て之を疏んず。之をして志を得しむること無かれ。彼利を貪りて甚だ喜べば、遺疑乃ち止まん。凡そ攻むるの道は、必ず先づ其の明を塞ぎて、而る後に其の強きを攻め、其の大なるを毀ち、民の害を除く。之を淫するに色を以てし、之を啗はすに利を以てし、之を養ふに味を以てし、之を娯しますに楽を以てす。既に其の親を離さば、必ず民を遠ざけしめ、謀を知らしむること勿かれ。扶けて之を納れ、其の意を覚る莫からしめ、然る後に成すべし。恵み民に施すには、必ず財を愛しむこと無かれ。民は牛馬の如し。数々之に餧食すれば、従ひて之を愛す。心以て智を啓き、智以て財を啓き、財以て衆を啓き、衆以て賢を啓く。賢の啓くこと有れば、以て天下に王たらん」と。
現代語訳
武王が太公に尋ねた。「私は功業を立てたいが、三つの懸念がある。強大な相手を攻め、その親密な関係を裂き、その人々を離散させるだけの力が、こちらにないのではないかということだ。どうすればよいか」。太公は答えた。「相手の勢いに乗じ、謀を慎重に運び、財を用いることです。そもそも強い相手を攻めるには、まずその相手をさらに強くさせ、さらに勢いを張らせるのです。強くなりすぎたものは必ず折れ、張りすぎたものは必ず欠けます。強い者を攻めるにはその強さそのものを使い、親密な関係を裂くにはその親密さを使い、集まった人々を離散させるにはその集まりを使うのです。およそ謀の要点は、綿密で隙がないことを何より重んじます。事を仕掛けて相手を動かし、利益をちらつかせて弄べば、必ず争う心が起こります。相手の親しい関係を裂こうとするなら、その愛するものに乗じ、寵愛される者に近づき、その者が欲しがるものを与え、利益を示し、そうして君主から遠ざけていく。その者に望みを遂げさせてはなりません。相手が利益を貪って大いに喜べば、疑いの残りも消えてしまいます。およそ攻める道は、まず相手の目と耳を塞ぎ、そのうえで強い部分を攻め、大きな支柱を壊し、民にとっての害を除くことです。色事にふけらせ、利益で釣り、美食で甘やかし、遊興で楽しませる。すでに親しい者を引き離したなら、必ず民を遠ざけさせ、こちらの謀を知られないようにします。助けるふりをして入り込み、その意図を覚られないようにする。そうしてはじめて事が成ります。民に恵みを施すときは、決して財を惜しんではなりません。民は牛馬のようなもので、たびたび食を与えれば、それに従い慕うようになります。人の心が智恵を開き、智恵が財を開き、財が人々を開き、人々が賢者を招く。賢者が集まって道が開ければ、天下に王たることができます」。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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六韜・略地武王 太公に問ひて曰く、「戦ひ勝ちて深く入り、其の地を略するに、大城の下すべからざる有り。其の別軍 険を守り、我と相拒む。我 城を攻め邑を囲まんと欲するも、其の別軍の卒かに至りて我を撃つを恐る。中外 相合し、我が表裏を撃たば、三軍 大いに乱れ、上下 恐駭せん。之を為すこと奈何」と。太公曰く、「凡そ城を攻め邑を囲むに、車騎は必ず遠ざけ、屯衛して警戒し、其の外内を阻つ。中の人 糧を絶ち、外は輸するを得ざれば、城の人は恐怖し、其の将は必ず降らん」と。武王曰く、「中の人 糧を絶ち、外は輸するを得ず、陰かに約誓を為し、相与に密謀し、夜に出でて、窮寇 死戦す。其の車騎・鋭士、或いは我が内を衝き、或いは我が外を撃つ。士卒 迷惑し、三軍 敗乱せん。之を為すこと奈何」と。太公曰く、「此くの如き者は、当に軍を分かちて三軍と為し、謹みて地形を視て処るべし。審らかに敵人の別軍の在る所、及び其の大城・別堡を知り、之が為に遺缺の道を置きて以て其の心を利す。謹みて備へて失ふこと勿かれ。敵人 恐懼して、山林に入らずんば、即ち大邑に帰らん。其の別軍を走らせ、車騎は遠く其の前を要し、遺脱せしむること勿かれ。中の人は、先づ出でたる者 其の径道を得たりと以為ひ、其の練卒・材士は必ず出で、其の老弱のみ独り在らん。車騎 深く入り長駆せば、敵人の軍は必ず敢へて至るもの莫し。慎みて与に戦ふこと勿かれ。其の糧道を絶ち、囲みて之を守り、必ず其の日を久しくせよ。人の積聚を燔くこと無かれ。人の宮室を壊すこと無かれ。冢樹・社叢を伐ること勿かれ。降る者を殺すこと勿かれ。得たるも戮すること勿かれ。之に示すに仁義を以てし、之に施すに厚徳を以てし、其の士民に令して曰へ、『罪は一人に在り』と。此くの如くんば、則ち天下 和して服せん」と。武王曰く、「善いかな」と。
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六韜・動静武王 太公に問ひて曰く、「兵を引ゐて深く諸侯の地に入り、敵の軍と相当たり、両陳 相望み、衆寡・彊弱 相等しく、未だ敢へて先づ挙げず。吾 敵人の将帥をして恐懼せしめ、士卒をして必ず傷ましめ、行陳をして固からざらしめ、後陳をして走らんと欲せしめ、前陳をして数しば顧みしめ、鼓譟して之に乗じ、敵人 遂に走らしめんと欲す。之を為すこと奈何」と。太公曰く、「此くの如き者は、我が兵を発し、寇を去ること十里にして其の両旁に伏せしめ、車騎は百里にして其の前後を越えしむ。其の旌旗を多くし、其の金鼓を益し、戦 合はば、鼓譟して俱に起こる。敵将は必ず恐れ、其の軍は驚駭し、衆寡 相救はず、貴賤 相待たず、敵人は必ず敗れん」と。武王曰く、「敵の地勢、以て其の両旁に伏す可からず、車騎も又た以て其の前後を越ゆる無し。敵 我が慮を知り、先づ其の備へを施す。我が士卒は心 傷み、将帥は恐懼し、戦へば則ち勝たず。之を為すこと奈何」と。太公曰く、「微なるかな、王の問ひや。此くの如き者は、戦ふに先だつこと五日、我が遠候を発し、往きて其の動静を視しむ。審らかに其の来たるを候ひ、伏を設けて之を待つ。必ず死地に於いて、敵と相避く。我が旌旗を遠ざけ、我が行陳を疏かにす。必ず其の前に奔り、敵と相当たる。戦 合はば而ち走り、金を撃ちて止むこと無かれ。三里にして還らば、伏兵 乃ち起こる。或いは其の両旁を陥れ、或いは其の前後を撃ち、三軍 疾く戦はば、敵人は必ず走らん」と。武王曰く、「善いかな」と。
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六韜・臨境武王 太公に問ひて曰く、「吾 敵人と境に臨みて相拒み、彼も以て来たるべく、我も以て往くべく、陳は皆 堅固にして、敢へて先づ挙ぐるもの莫し。我 往きて之を襲はんと欲すれば、彼も亦た来たるべし。之を為すこと奈何」と。太公曰く、「兵を三処に分かつ。我が前軍をして、溝を深くし塁を増して出づること無からしめ、旌旗を列ね、鼙鼓を撃ち、完く守備を為さしむ。我が後軍をして、多く糧食を積ましめ、敵人をして我が意を知らしむること無かれ。我が鋭士を発し、潜かに其の中を襲ひ、其の不意を撃ち、其の無備を攻む。敵人 我が情を知らざれば、則ち止まりて来たらざらん」と。武王曰く、「敵人 我が情を知り、我が謀に通じ、動けば我が事を得たり。其の鋭士は深草に伏し、隘路に要し、我が便る処を撃つ。之を為すこと奈何」と。太公曰く、「我が前軍をして、日ごとに出でて挑戦せしめ、以て其の意を労せしむ。我が老弱をして、柴を拽き塵を揚げ、鼓し呼びて往来せしめ、或いは其の左に出で、或いは其の右に出で、敵を去ること百歩に過ぐる無からしむれば、其の将は必ず労れ、其の卒は必ず駭かん。此くの如くんば、則ち敵人 敢へて来たらず。吾が往く者 止まず、或いは其の内を襲ひ、或いは其の外を撃ち、三軍 疾く戦はば、敵人は必ず敗れん」と。
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六韜・金鼓武王 太公に問ひて曰く、「兵を引ゐて深く諸侯の地に入り、敵と相当たる。而して天 大いに寒く甚だ暑く、日夜 霖雨し、旬日 止まず。溝塁は悉く壊れ、隘塞は守られず、斥候は懈怠し、士卒は戒めず。敵人 夜に来たらば、三軍 備へ無く、上下 惑乱せん。之を為すこと奈何」と。太公曰く、「凡そ三軍は戒めを以て固しと為し、怠るを以て敗ると為す。我が塁上をして、誰何を絶たざらしめ、人ごとに旌旗を執り、外内 相望ましむ。号を以て相命じ、音を乏しからしむること勿く、而して皆 外に向かはしむ。三千人を一屯と為し、誡めて之を約し、各々其の処を慎ましむ。敵人 若し来たらば、我が軍の警戒を親て、至りて必ず還り、力尽き気 怠らん。我が鋭士を発し、随ひて之を撃たん」と。武王曰く、「敵人 我が之に随ふを知りて、其の鋭士を伏せ、佯り北げて止まず。伏を過ぎて還り、或いは我が前を撃ち、或いは我が後を撃ち、或いは我が塁に薄る。吾が三軍 大いに恐れ、擾乱して次を失ひ、其の処所を離る。之を為すこと奈何」と。太公曰く、「分かちて三隊と為し、随ひて之を追ひ、其の伏を越ゆること勿かれ。三隊 俱に至り、或いは其の前後を撃ち、或いは其の両旁を陥る。号を明らかにし令を審らかにし、疾く撃ちて前まば、敵人は必ず敗れん」と。
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六韜・少衆武王、太公に問ひて曰く、「吾、少を以て衆を撃ち、弱を以て彊を撃たんと欲す。之を為すこと奈何」と。太公曰く、「少を以て衆を撃つ者は、必ず日の暮に以てし、深草に伏し、之を隘路に要む。弱を以て彊を撃つ者は、必ず大国の与、隣国の助けを得よ」と。武王曰く、「我に深草無く、又隘路無し。敵人已に至りて、日暮に適はず。我に大国の与無く、又隣国の助け無し。之を為すこと奈何」と。太公曰く、「妄りに張り詐り誘ひ、以て其の将を熒惑す。其の道を迂らせ、深草を過ぎしめ、其の路を遠くし、日暮に会せしむ。前行は未だ水を渡らず、後行は未だ舎に及ばざるに、我が伏兵を発し、疾く其の左右を撃ち、車騎もて其の前後を擾乱す。敵人衆しと雖も、其の将は走らすべし。大国の君に事へ、隣国の士に下る。其の幣を厚くし、其の辞を卑くす。此くの如くんば、則ち大国の与、隣国の助けを得ん」と。武王曰く、「善き哉」と。
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六韜・発啓文王、酆に在り、太公を召して曰く、「嗚呼、商王の虐極まり、罪なきを殺す。公尚、予を助けて民を憂へよ。如何せん」と。太公曰く、「王、其れ徳を修め、以て賢に下り民を恵み、以て天道を観よ。天道に殃無くば、先んじて倡ふべからず。人道に災無くば、先んじて謀るべからず。必ず天の殃を見、又人の災を見て、乃ち以て謀るべし。必ず其の陽を見、又其の陰を見て、乃ち其の心を知る。必ず其の外を見、又其の内を見て、乃ち其の意を知る。必ず其の疎を見、又其の親を見て、乃ち其の情を知る。其の道を行はば、道は致すべきなり。其の門に従はば、門は入るべきなり。其の礼を立てば、礼は成すべきなり。其の強を争はば、強は勝つべきなり。全勝は闘はず、大兵は創無し。鬼神と通ず、微なる哉、微なる哉。人と病を同じくすれば相救ひ、情を同じくすれば相成し、悪を同じくすれば相助け、好を同じくすれば相趨く。故に甲兵無くして勝ち、衝機無くして攻め、溝塹無くして守る。大智は智ならず、大謀は謀らず、大勇は勇ならず、大利は利ならず。天下を利する者は、天下之を啓き、天下を害する者は、天下之を閉づ。天下とは、一人の天下に非ず、乃ち天下の天下なり。天下を取る者は、野獣を逐ふが若く、而して天下皆肉を分かつの心有り。同舟して済るが若く、済らば則ち皆其の利を同じくし、敗るれば則ち皆其の害を同じくす。然らば則ち皆之を啓くこと有り、之を閉づること有る無きなり。民に取ること無き者は、民を取る者なり。国に取ること無き者は、国を取る者なり。天下に取ること無き者は、天下を取る者なり。民に取ること無ければ、民之を利とし、国に取ること無ければ、国之を利とし、天下に取ること無ければ、天下之を利とす。故に道は見るべからざるに在り、事は聞くべからざるに在り、勝は知るべからざるに在り。微なる哉、微なる哉。鷙鳥の将に撃たんとするや、卑く飛びて翼を斂む。猛獣の将に搏たんとするや、耳を弭れて俯し伏す。聖人の将に動かんとするや、必ず愚色有り。今、彼の殷商、衆口相惑ひ、紛紛渺渺として、色を好みて極まり無し。此れ亡国の徴なり。吾其の野を観るに、草管、穀に勝てり。吾其の衆を観るに、邪曲、直に勝てり。吾其の吏を観るに、暴虐残賊なり。法を敗り刑を乱すも、上下覚らず。此れ亡国の時なり。大明発すれば万物皆照らされ、大義発すれば万物皆利し、大兵発すれば万物皆服す。大なる哉、聖人の徳。独り聞き独り見る、楽しき哉」と。
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