大祓詞 / 科戸の風の吹き放つ事の如く
如此所聞食てば 皇御孫之命の朝廷を始て 天下四方国には 罪と云ふ罪は不在と 科戸之風の天之八重雲を吹放事之如く 朝之御霧夕之御霧を朝風夕風の吹掃事之如く 大津辺に居る大船を 舳解放艫解放て大海原に押放事之如く 彼方之繁木が本を焼鎌の敏鎌以て打掃事之如く 遺る罪は不在と 祓賜ひ清賜事を 高山之末短山之末より 佐久那太理に落多支都速川の瀬に坐す瀬織津比咩と云神大海原に持出なむ 如此持出往ば 荒塩之塩の八百道の八塩道之塩の八百会に坐す速開都比咩と云神 持かか呑てむ 如此かか呑ては 気吹戸に坐す気吹主と云神 根国底之国に気吹放てむ
書き下し
かく聞こし召してば、皇御孫の命の朝廷を始めて、天の下四方の国には、罪という罪は在らじと、科戸の風の天の八重雲を吹き放つ事の如く、朝の御霧・夕の御霧を朝風・夕風の吹き掃う事の如く、大津辺に居る大船を、舳解き放ち艫解き放ちて大海原に押し放つ事の如く、彼方の繁木が本を焼鎌の敏鎌もちて打ち掃う事の如く、遺る罪は在らじと、祓い給い清め給う事を、高山の末・短山の末より、佐久那太理に落ち多岐つ速川の瀬に坐す瀬織津比咩という神、大海原に持ち出でなむ。かく持ち出で往なば、荒潮の潮の八百道の八潮道の潮の八百会に坐す速開都比咩という神、持ちかか呑みてむ。かくかか呑みては、気吹戸に坐す気吹戸主という神、根の国・底の国に気吹き放ちてむ。
現代語訳
こう聞き届けられたなら、皇御孫の命の朝廷を始めとして、天の下の四方の国には罪という罪は無くなる。それは、風が天の八重雲を吹き払うように、朝夕の霧を朝風夕風が吹き掃うように、港の大船を舳先の綱も艫の綱も解いて大海原へ押し出すように、向こうの茂った木の根元を鋭い鎌で刈り払うように——残る罪は無いと祓い清めることを、高い山の頂・低い山の頂から、勢いよく流れ落ちる速い川の瀬にいます瀬織津比咩という神が、大海原へ持ち出すだろう。持ち出して往けば、幾筋もの潮の道が合流する沖にいます速開都比咩という神が、それを飲み込むだろう。飲み込んだなら、気吹戸にいます気吹戸主という神が、根の国・底の国へ息で吹き放つだろう。
解説
大祓詞の中心であり、日本語の祈りの言葉として最も知られた一段である。まず四つの譬えが畳みかけられる。風が雲を吹き放つ。朝風夕風が霧を掃う。舳も艫も解いて大船を沖へ押し出す。鋭い鎌で茂みを刈り払う。いずれも滞ったものを一気に動かす像で、祓うとは消すことではなく流すことだと分かる。続いて罪の行き先が四段のリレーで描かれる。川の瀬の瀬織津比咩が海へ持ち出し、潮の合流点の速開都比咩が呑み、気吹戸主が息で根の国へ吹き放ち、そこで最後の神が持ち去る。責任者を一人置かず、次々に受け渡して外へ出す。清算の設計として、これほど具体的な比喩は他にない。
この章句が説くこと
科戸の風瀬織津比咩速開都比咩気吹戸主