南洲翁遺訓 / 第三十五条
人を籠絡して陰に事を謀る者は、好し其の事を成し得るとも、慧眼より之れを見れば、醜状著るしきぞ。人に推すに公平至誠を以てせよ。公平ならざれば英雄の心は決して攬られぬもの也。
書き下し
人を籠絡して陰に事を謀る者は、好し其の事を成し得るとも、慧眼より之れを見れば、醜状著るしきぞ。人に推すに公平至誠を以てせよ。公平ならざれば英雄の心は決して攬られぬもの也。
現代語訳
人を籠絡して陰で事をはかる者は、たとえその事を成し得ても、慧眼から見れば、醜い有様が著しい。人に対しては公平と至誠をもってせよ。公平でなければ、英雄の心は決してつかめないものである。
解説
前条の裏返しである。「人を籠絡して陰に事を謀る」——人を丸めこんで裏で動かす。それで事が成ったとしても、見る目のある人からは醜く見えている、と。成否ではなく、見え方で判断する。そして代わりに置かれるのが「公平至誠」だ。理由が実際的である。「公平ならざれば英雄の心は決して攬られぬもの也」。公平でなければ、優れた人の心は動かせない。ここが要点だ。籠絡は凡庸な人には効く。だが本当に来てほしい人には効かない。むしろ籠絡が見えた時点で去られる。だから公平は道徳の問題ではなく、どういう人が集まるかを決める設計の問題になる。裏で動かす技術を磨くほど、集まる人の質が下がっていく。第一条の「私を挟みては済まぬ」から一貫した主張である。
この章句が説くこと
籠絡公平至誠英雄の心は攬られず集まる人の質