南洲翁遺訓 / 第八条
広く各国の制度を採り開明に進まんとならば、先づ我が国の本体を居ゑ風教を張り、然して後徐かに彼の長所を斟酌するものぞ。否らずして猥りに彼れに倣ひなば、国体は衰頽し、風教は萎靡して匡救す可からず、終に彼の制を受くるに至らんとす。
書き下し
広く各国の制度を採り開明に進まんとならば、先づ我が国の本体を居ゑ風教を張り、然して後徐かに彼の長所を斟酌するものぞ。否らずして猥りに彼れに倣ひなば、国体は衰頽し、風教は萎靡して匡救す可からず、終に彼の制を受くるに至らんとす。
現代語訳
広く各国の制度を採り入れて開明へ進もうとするなら、まず我が国の本体を据え、風習と教えを張り、そののちゆっくりと彼の長所を汲み取るものである。そうでなくてみだりに彼らに倣うならば、国のかたちは衰え、風習と教えはしおれて、正し救うことができず、ついには彼らの制度に従わされるに至るだろう。
解説
外来のものをどう採り入れるかについて、順序を一つだけ示す。まず自分の本体を据える。そのあとで相手の長所を汲む。この順序を逆にすると、採り入れているつもりが乗っ取られる、という警告である。「徐かに彼の長所を斟酌する」の「徐かに」も効いている。急いで真似るのではなく、ゆっくり汲む。斟酌とは酒を注ぎ分けるように加減することで、まるごと移すのではない。西郷は排外を説いてはいない。次の条で「道は天地自然の物なれば、西洋と雖も決して別無し」と言い、第十二条では西洋の刑法を「実に文明ぢや」と称える。採るべきものは採る。ただし据えるものを先に据えよ、という一点だけを譲らない。
この章句が説くこと
我が国の本体を居う斟酌開明順序