古語拾遺 / 所遺十
凡造大幣者。亦須依神代之職。齋部之官率供作諸氏准例造備。然則神祇官神部可有中臣齋部猨女鏡作玉作盾作神服倭文麻續等氏。而今唯有中臣齋部等二三氏。自餘諸氏不預考選。神裔亡散其葉將絕。所遺十也。
新字:凡造大幣者。亦須依神代之職。斎部之官率供作諸氏准例造備。然則神祇官神部可有中臣斎部猨女鏡作玉作盾作神服倭文麻続等氏。而今唯有中臣斎部等二三氏。自余諸氏不預考選。神裔亡散其葉将絶。所遺十也。
書き下し
凡そ大幣を造るは、亦た須らく神代の職に依るべし。斎部の官、供作の諸氏を率い、例に准じて造備す。然らば則ち神祇官の神部には、中臣・斎部・猨女・鏡作・玉作・盾作・神服・倭文・麻続等の氏有るべし。而るに今は唯だ中臣・斎部等二三氏有るのみ。自余の諸氏は考選に預からず。神裔亡散して、其の葉将に絶えんとす。遺す所の十なり。
現代語訳
そもそも大幣を造るのは、神代以来の職掌に依るべきである。斎部の官が、造作にあたる諸氏を率い、先例に准じて造り備える。それならば神祇官の神部には、中臣・斎部・猨女・鏡作・玉作・盾作・神服・倭文・麻続などの氏がいるはずである。ところが今はただ中臣・斎部など二、三の氏がいるだけで、その他の諸氏は選任に与っていない。神の子孫は散り失せ、その血筋はまさに絶えようとしている。これが漏れの第十である。
解説
職掌の担い手が減っていく過程が書かれている。かつては九つの氏が名を連ねていた神部に、いまは二、三氏しかいない。選任から外れた氏の子孫は散り、家が絶えようとしている。ここで失われるのは人ではなく、その家が代々担ってきた技である。鏡を作る家、玉を作る家、盾を作る家、布を織る家——それぞれが別の技能を持っていた。選ばれなくなれば技は継がれず、継がれなければ再現できなくなる。広成が「神裔亡散して、其の葉将に絶えんとす」と書くのは血統の嘆きだが、実質は技能の断絶の警告である。仕事を出さなくなった外注先が消えていくのと、構造は変わらない。
この章句が説くこと
所遺十神部神裔亡散技能の断絶