荀子 / 法行篇
曾子病,曾元持足,曾子曰:「元!志之!吾語汝。夫魚鱉黿鼉猶以淵為淺而堀其中,鷹鳶猶以山為卑而增巢其上,及其得也必以餌。故君子能無以利害義,則恥辱亦無由至矣。」
新字:曽子病,曽元持足,曽子曰:「元!志之!吾語汝。夫魚鱉黿鼉猶以淵為浅而堀其中,鷹鳶猶以山為卑而增巣其上,及其得也必以餌。故君子能無以利害義,則恥辱亦無由至矣。」
書き下し
曾子病み、曾元足を持つ。曾子曰く、元よ、之を志(しる)せ、吾汝に語げん。夫れ魚鱉黿鼉すら猶お淵を以て浅しと為して其の中に堀(あな)し、鷹鳶すら猶お山を以て卑しと為して巣を其の上に増す。其の得らるるに及びてや、必ず餌を以てす。故に君子能く利を以て義を害すること無くんば、則ち恥辱も亦た由りて至る無し。
現代語訳
曾子が病に伏し、子の曾元がその足をささえていた。曾子は言った。元よ、これを心に刻め、お前に語っておこう。魚やすっぽん、大亀やわにでさえ、深い淵をまだ浅いと思ってその底にさらに穴を掘る。鷹やとびでさえ、高い山をまだ低いと思ってその上に巣を高く重ねる。それほど用心していても、彼らが捕らえられるときは、決まって餌のせいだ。だから君子が、利益のために義を損なうことさえなければ、恥辱もまた入り込む道がなくなるのだ。
解説
死を前にした曾子が、息子の曾元に遺した言葉です。水中の生き物は淵の底にさらに潜り、猛禽は山の上に巣をかける。これ以上ないほど身を守っているのに、それでも捕らえられる。その原因はただ一つ、餌に食いついたからだと曾子は言います。どれだけ用心深く身を隠しても、目の前に差し出された利益に手を伸ばした瞬間に、身を滅ぼす。荀子が伝えるこの一段は、危機は外からではなく欲から入ってくるという指摘です。仕事でも、多くの失脚や不祥事は、能力不足よりも「おいしい話」への一瞬の判断で起こります。うまい話が来たとき、それが自分の筋を曲げさせるものではないかを一度立ち止まって確かめる。利のために義を売らないという一線さえ守れれば、恥をかく入口そのものがふさがれる、というわけです。