荀子 / 大略篇
誥誓不及五帝,盟詛不及三王,交質子不及五伯。
書き下し
誥誓(こうせい)は五帝に及ばず、盟詛(めいそ)は三王に及ばず、質子(ちし)を交ふるは五伯(ごは)に及ばず。
現代語訳
誥や誓といった誓いの宣言は、五帝の世にはまだなかった。盟約を結び神に誓いを立てることは、三王の世にはまだなかった。人質を交換し合うことは、五覇の世にすらなかった。
解説
大略篇を締めくくる一句で、時代が下るにつれて何が増えていったかを、逆から言い当てています。最も古い五帝の世には、わざわざ言葉で誓いを立てる必要すらなかった。次の三王の世には、まだ盟約を結んで神に誓う必要はなかった。覇者の時代になっても、人質を差し出し合うことまではしなかった。つまり、誓約や盟約や人質といった仕掛けは、どれも後の世になって生まれたものであり、それは人と人のあいだの信が薄れていったことの裏返しだ、というのです。信頼があるところでは、約束は軽くて済みます。信頼が失われるほど、契約は分厚くなり、担保や証文が必要になる。これは現代の取引や職場にもそのまま当てはまります。手続きが増えていると感じたとき、それは信頼が痩せているサインかもしれません。信を厚くすることこそ、最も安上がりな仕組みなのです。
この章句が説くこと
信の衰え誓約と人質時代の下降信頼が制度を軽くする信信頼
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論語・顔淵篇子貢、政を問う。子曰く、「食を足し、兵を足し、民之を信ず。」子貢曰く、「必ず已むを得ずして去らば、斯の三者に於いて何をか先にせん。」曰く、「兵を去らん。」子貢曰く、「必ず已むを得ずして去らば、斯の二者に於いて何をか先にせん。」曰く、「食を去らん。古より皆死有り、民信無くんば立たず。」
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『弁名』忠信信とは、言必ず徴有るを謂ふなり。世多く言に欺詐無きを以て之を解す。苟も言必ず徴有るを以て心と為せば、則ち欺詐無きは道ふに足らず。「信は義に近ければ、言復むべし」の如き、是れ其の言徴有りと雖も、必ず先王の義に合はんと欲す。若し言義に合はずんば、則ち其の言を践まんと欲すと雖も亦た得べからざる者有り。其の究め終に徴無きに至るなり。朱子は「約信を誓と曰ふ」を引きて、信を訓じて約と為す。是れ其の解を知らざるのみ。又「民信無くんば立たず」の如きは、民の其の上を信ずるを謂ふなり。其の号令を慎み、敢へて民を欺かざれば、則ち民之を信ず。然れども之を信じて畏るるは、之を信じて懐くに如かず。故に必ず能く民の父母と為りて、而る後に民の信ずること至る。
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『五常訓』巻之五・信一孔子曰く、信なれば則ち人任ず。信実にして、言に偽なければ、一たび約したること、其首尾たがはず。故に人たのもしく思ひて、打任せて疑はず。是人任するなり。もし信ならざれば、約ちがひて、其いへる事、朝夕にかはりて、たのもしげなし。何ぞ任せんや。凡君の、臣にまじはり、国人にまじはり、朋友の相まじはる、吏人の民に対する、皆信あるべし。信なければ、人の交の道たえて行はれず。たのみ無ければなり。
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『五常訓』巻之五・信一子曰く、人にして信無くんば其の可なるを知らざるなり。人の心信実なるは、万事の基にして、人にまじはるの道なり。若信なければ、万事すべて、偽なれば、人にまじはりて、如何ぞ善なるべき。たとへば大車の荷車に輗なければ、牛の首に車をかくる事ならず。小車の乗車に軏なければ、車を馬にかくる事ならず。車と牛馬とは別の物なれど、輗と軏とあれば、是を以て牛馬に車をかけて引かしむべし。若此ものなくんば、何を以てか車をやるべきや。人にまじはるに信ならざるも、亦かくの如し。人と我とは、二物なり。信実を以て交はれば、互に感通して、道行はる。若信なくして人と交はらば、我人にまことなく、人我を信ぜず。彼と我と感通せず。何を以てか道行はれんや。
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『五常訓』巻之五・信是子貢にこたへ給へる意なるべし。又司馬温公の曰、信者人君の大宝なり。国は民に保ち、民は信にたもつ。信にあらざれば、民をつかふ事なく、民にあらざれば、国を守る事なし。故に古の王者は、四海を欺かずと云へり。夫国は民を以てたもつ。民したがはざれば、国ありても保ちがたし。民は信を以てたもつ。上より民を欺きいつはりて、信なければ、民上を信ぜずして、思ひつかず。民の心をたもちがたし。
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