荀子 / 大略篇
飲而不食者,蟬也;不飲不食者,浮蝣也。
書き下し
飲みて食らはざる者は、蟬(せみ)なり。飲まず食らはざる者は、浮蝣(ふゆう)なり。
現代語訳
飲むだけで食べないもの、それは蟬である。飲みもせず食べもしないもの、それはかげろうである。
解説
大略篇のなかでもとりわけ短い、二句だけの断章です。蟬は樹液や露のような液体を取るばかりで固形の餌を食べず、かげろうは飲みも食べもせずに短い一生を終える。荀子は生き物の生態を、こうして淡々と書き留めています。大略篇はもともと弟子たちが師の言葉や見聞を集めた断片の集積とされ、この段のように前後の文脈が見えにくいものも含まれています。とはいえ、ここには荀子という人の目のつけどころが表れています。天や神秘を語る前に、まず目の前の自然をよく見る。同じ生き物でも必要とする糧はまるで違い、ほとんど何も取らずに生を全うするものさえいる、という観察です。私たちも、他人と同じだけ持たなければ生きられないと思い込みがちですが、必要な量は人それぞれです。まず自分をよく観察することから始めたいものです。