荀子 / 大略篇
國法禁拾遺,惡民之串以無分得也,有夫分義,則容天下而治;無分義,則一妻一妾而亂。
新字:国法禁拾遺,悪民之串以無分得也,有夫分義,則容天下而治;無分義,則一妻一妾而乱。
書き下し
国法に遺(おと)せるを拾ふを禁ずるは、民の分(ぶん)無くして得るに串(な)るるを悪(にく)めばなり。夫(か)の分義有れば、則ち天下を容れて治まり、分義無ければ、則ち一妻一妾にして乱る。
現代語訳
国法が落とし物を拾うことを禁じているのは、民が「自分の取り分でないものを手に入れる」ことに慣れてしまうのを憎むからである。分と義がしっかり定まっていれば、天下ほどの大きなものを収めても治まる。分と義がなければ、一人の妻と一人の妾しかいない小さな家でさえ乱れてしまう。
解説
落とし物を拾うことすら禁じる、と聞くと厳しすぎるように思えます。しかし荀子の狙いは、拾った品物そのものではありません。自分の取り分でないものを手にすることに、人が慣れてしまうことを恐れているのです。一度その味を覚えれば、境界の感覚はゆるみ、やがてもっと大きなものにも手が伸びる。荀子の思想の中心にある「分(ぶん)」とは、誰が何を持ち、何を担うかという役割と取り分の線引きです。この線が明確なら、天下という巨大な集団も治まる。線がなければ、妻と妾がひとりずついるだけの家庭でさえ争いが起きる。組織の大小は関係なく、揉め事の根は、いつも「取り分と役割が曖昧なこと」なのです。仕事でも家庭でも、誰の役割で誰の分なのかをはっきりさせておく。それが平穏の土台になります。