荀子 / 大略篇
天之生民,非為君也;天之立君,以為民也。故古者,列地建國,非以貴諸侯而已;列官職,差爵祿,非以尊大夫而已。
新字:天之生民,非為君也;天之立君,以為民也。故古者,列地建国,非以貴諸侯而已;列官職,差爵祿,非以尊大夫而已。
書き下し
天の民を生ずるは、君の為に非(あら)ざるなり。天の君を立つるは、以て民の為にするなり。故に古(いにしへ)は、地を列(わか)ちて国を建つるは、以て諸侯を貴くするのみに非ず。官職を列(つら)ね、爵禄(しゃくろく)を差(しな)するは、以て大夫を尊くするのみに非ざるなり。
現代語訳
天が民を生んだのは、君主のためではない。天が君主を立てたのは、民のためである。だから昔は、土地を分けて国を建てたのも、諸侯を尊い身分にするためだけではなかった。官職を設け、爵位や俸禄に等級をつけたのも、大夫を尊くするためだけではなかった。
解説
大略篇のなかでも、とりわけよく引かれる一節です。民が君主のために生まれたのではない、君主が民のために立てられたのだ。この一行で、上下関係の向きがはっきりと定義されます。だからこそ、国を分けて諸侯を置いたのも、官職や爵禄に序列をつけたのも、その地位に就く人を偉くするための制度ではなかった、と続きます。地位も権限も報酬も、すべては民を治めるという目的に仕える手段にすぎない、という考え方です。裏を返せば、手段であるはずの地位が目的化した瞬間に、制度は腐りはじめます。会社の役職も同じで、権限は自分の待遇や自尊心のためにあるのではなく、現場が滞りなく動くために置かれています。自分の肩書きは誰のためにあるのか。ときどき問い直したい問いです。