荀子 / 大略篇
多積財而羞無有,重民任而誅不能,此邪行之所以起,刑罰之所以多也。
書き下し
財を多く積みて有(も)つこと無きを羞(は)ぢしめ、民の任(にん)を重くして能(あた)はざるを誅(ちゅう)す。此(こ)れ邪行(じゃこう)の起こる所以(ゆえん)にして、刑罰の多き所以なり。
現代語訳
上に立つ者が財をたくさんため込んでおきながら、持たない者に恥をかかせる。民に重い負担を課しておきながら、それをこなせない者を罰する。これこそが、よこしまな行いが起こる原因であり、刑罰が多くなる原因である。
解説
不正はなぜ起こるのか。荀子はその原因を、悪人の心のなかにではなく、上に立つ者の設計のなかに見ます。自分はため込みながら持たざる者を恥じ入らせる。無理な負担を課しておいて、こなせない者を罰する。この二つがそろえば、人は追い込まれて不正に手を出すというのです。人の性は放っておけば欲に流れると考える荀子だからこそ、その欲を暴発させる条件を作る側の責任を厳しく問うています。ここは現代の組織にほとんどそのまま持ち込める指摘です。達成不可能な目標を課し、未達を叱責する仕組みのもとでは、数字の水増しや報告のごまかしが必ず生まれます。不正が続くなら、まず人を疑う前に、負担の重さと罰の設計を疑う。順序を間違えないための一段です。