荀子 / 大略篇
武王始入殷,表商容之閭,釋箕子之囚,哭比干之墓,天下鄉善矣。
新字:武王始入殷,表商容之閭,釈箕子之囚,哭比干之墓,天下鄉善矣。
書き下し
武王始めて殷に入るや、商容の閭を表し、箕子の囚を釈き、比干の墓に哭す。天下善に郷ふ。
現代語訳
武王が殷の都にはじめて入ったとき、商容が住んでいた里の門に顕彰の印を立て、囚われていた箕子を解き放ち、比干の墓に赴いて声をあげて哭した。こうして天下の人々は善へと向かうようになった。
解説
武王が殷を倒して都に入ったあと、真っ先に何をしたかを伝える一段です。彼は勝利の誇示ではなく、前の王朝で正しさを貫いた人々への敬意を示しました。商容の住んだ里の門に印を立てて顕彰し、囚われていた箕子を解放し、比干の墓に詣でて泣いた。いずれも滅ぼした側の人物です。敵の陣営にいたかどうかではなく、善であったかどうかで人を遇する。この一点が示されたとき、天下の人々は自然と善へ向かい始めたと荀子は言います。人心は力ではなく、何が尊ばれる世かという合図によって動くのです。組織の交代や統合の場面でも同じでしょう。新しい体制が最初に誰を称え、誰を弔うか。その一手が、これから何が評価される場所なのかを、どんな宣言よりも雄弁に語ります。