荀子 / 大略篇
天子御珽,諸侯御荼,大夫服笏,禮也。
新字:天子御珽,諸侯御荼,大夫服笏,礼也。
書き下し
天子は珽を御し、諸侯は荼を御し、大夫は笏を服す、礼なり。
現代語訳
天子は珽という玉の笏を手にし、諸侯は荼という笏を手にし、大夫は笏を身につける。これが礼である。
解説
手に持つ笏の種類を身分ごとに定めた一段です。天子は珽、諸侯は荼、大夫は笏と、同じく手に持つ板でありながら、素材も形も呼び名も違います。笏はもともと、朝廷で申し上げるべきことを書きつけておく板であり、同時にその人の立場を示す標でもありました。前段の冠と同じで、礼は目に見えない秩序を、身につけるもの、手に持つものへと翻訳していきます。誰が何を持っているかが一目でわかれば、場は混乱せず、それぞれが自分の役割から外れずに振る舞えるからです。現代でも、会議で誰が資料を持ち、誰が議事を進めるかが曖昧なままだと、話は散らかります。持ち物や役割を明示することは形式主義ではなく、場を成り立たせるための実務的な工夫なのだと、この短い一段は教えてくれます。