荀子 / 賦篇
其小歌曰:念彼遠方,何其塞矣,仁人絀約,暴人衍矣。忠臣危殆,讒人服矣。琁、玉、瑤、珠,不知佩也,雜布與帛,不知異也。閭娵子奢,莫之媒也;嫫母力父,是之喜也。以盲為明,以聾為聰,以危為安,以吉為凶。嗚呼!上天!曷維其同!
新字:其小歌曰:念彼遠方,何其塞矣,仁人絀約,暴人衍矣。忠臣危殆,讒人服矣。琁、玉、瑤、珠,不知佩也,雑布与帛,不知異也。閭娵子奢,莫之媒也;嫫母力父,是之喜也。以盲為明,以聾為聰,以危為安,以吉為凶。嗚呼!上天!曷維其同!
書き下し
其の小歌(しょうか)に曰く、彼(か)の遠方(えんぽう)を念(おも)えば、何ぞ其れ塞(ふさ)がれるや。仁人は絀約(ちゅつやく)せられ、暴人は衍(はびこ)れり。忠臣は危殆(きたい)にして、讒人は服(はびこ)れり。琁(せん)・玉(ぎょく)・瑤(よう)・珠(しゅ)も、佩(お)びるを知らざるなり。布(ふ)と帛(はく)とを雜(まじ)え、異なるを知らざるなり。閭娵(りょしゅ)・子奢(ししゃ)も、之を媒(なかだち)する莫(な)し。嫫母(ぼぼ)・力父(りきほ)、是(こ)れを之れ喜ぶ。盲(もう)を以て明と為し、聾(ろう)を以て聰(そう)と為し、危(き)を以て安と為し、吉を以て凶と為す。嗚呼(ああ)、上天(じょうてん)、曷(なん)ぞ維(こ)れ其れ同じからんや。
現代語訳
その締めくくりの小歌に言う。あの遠い理想の世を思えば、今はなんと道がふさがれていることか。仁のある人は退けられて縮こまり、乱暴な者がのさばっている。忠義の臣は危うい立場に置かれ、讒言する者が幅をきかせている。美しい玉や真珠があっても、それを身につけるすべを知らない。粗末な布と上等な絹とを混ぜてしまい、その違いも分からない。閭娵や子奢のような絶世の美女がいても、誰も仲立ちをしようとしない。醜女の嫫母や醜男の力父のような者を、かえって喜んで迎える。盲人を目が見えるとし、耳の聞こえぬ者を耳ざといとし、危ういものを安全とみなし、めでたいものを不吉とみなす。ああ、天よ。どうしてこんな世と、私は同じでいられようか。
解説
賦篇の最後、佹詩に添えられた締めくくりの小歌です。理想の世は遠く、道はふさがれている。仁のある人は退けられて縮こまり、乱暴な者がのさばる。忠義の臣は危うい立場に置かれ、讒言する者が幅をきかせる。ここに並ぶのは、すべて見分ける力を失った世の姿です。美しい玉や真珠があっても身につけ方を知らず、粗末な布と上等な絹を混ぜて違いも分からない。絶世の美女には誰も縁談を持ちかけず、醜いとされた者をかえって喜んで迎える。見えない者を目明きとし、聞こえない者を耳ざといとし、危ういものを安全とみなし、めでたいものを不吉と決めつける。すべてが逆さまです。そして最後に荀子は天に向かって叫びます。ああ天よ、どうして私がこんな世と同じでいられようか、と。冷静で理詰めの人が残した、生々しい叫びでした。周りが正しく見分けられていないときこそ、流されず自分の目を持ち続けること。見る目を養い、正しく評価することが、世を正す第一歩です。