荀子 / 賦篇
有物於此,生於山阜,處於室堂。無知無巧,善治衣裳。不盜不竊,穿窬而行。日夜合離,以成文章。以能合從,又善連衡。下覆百姓,上飾帝王。功業甚博,不見賢良。時用則存,不用則亡。臣愚不識,敢請之王。王曰:此夫始生鉅,其成功小者邪?長其尾而銳其剽者邪?頭銛達而尾趙繚者邪?一往一來,結尾以為事。無羽無翼,反覆甚極。尾生而事起,尾邅而事已。簪以為父,管以為母。既以縫表,又以連裡:夫是之謂箴理。箴。
新字:有物於此,生於山阜,処於室堂。無知無巧,善治衣裳。不盗不窃,穿窬而行。日夜合離,以成文章。以能合従,又善連衡。下覆百姓,上飾帝王。功業甚博,不見賢良。時用則存,不用則亡。臣愚不識,敢請之王。王曰:此夫始生鉅,其成功小者邪?長其尾而鋭其剽者邪?頭銛達而尾趙繚者邪?一往一来,結尾以為事。無羽無翼,反覆甚極。尾生而事起,尾邅而事已。簪以為父,管以為母。既以縫表,又以連裡:夫是之謂箴理。箴。
書き下し
此(ここ)に物有り、山阜(さんぷ)に生じて、室堂(しつどう)に處(お)る。知無く巧(こう)無きも、善く衣裳(いしょう)を治む。盜まず竊(ぬす)まざるも、穿窬(せんゆ)して行く。日夜合離(ごうり)して、以て文章(ぶんしょう)を成す。以て能く合從(がっしょう)し、又(また)善く連衡(れんこう)す。下は百姓(ひゃくせい)を覆(おお)い、上は帝王を飾る。功業(こうぎょう)甚だ博(ひろ)きも、賢良(けんりょう)とは見られず。時に用いらるれば則ち存し、用いられざれば則ち亡(な)し。臣愚にして識らず、敢えて之を王に請(と)う。王曰く、此れ夫(か)の始めて生ずるときは鉅(おお)いにして、其の功を成すこと小なる者か。其の尾を長くして其の剽(さき)を銳(するど)くする者か。頭は銛達(せんたつ)にして尾は趙繚(ちょうりょう)たる者か。一(ひと)たび往き一たび來(き)たり、尾を結びて以て事と為す。羽無く翼無きも、反覆すること甚だ極まる。尾生じて事起こり、尾邅(てん)じて事已(や)む。簪(しん)以て父と為し、管(かん)以て母と為す。既に以て表を縫い、又(また)以て裡(うら)を連ぬ。夫(そ)れ是れを之れ箴(しん)の理と謂う。箴なり。
現代語訳
ここにあるものがあります。山や丘で生まれ、家の部屋のなかで暮らします。知恵もなく器用でもないのに、上手に衣服を仕立てます。盗みも働かないのに、壁に穴を開けて通り抜けます。昼も夜も、合わさっては離れ、そうして美しい模様を作り上げます。縦につなぐこともでき、横に連ねることも上手です。下は民の身を覆い、上は帝王を飾り立てます。その功績はきわめて広いのに、賢者だとは見なされません。使ってもらえるときには存在し、使ってもらえなければ、どこかへ消えてしまいます。私は愚かで、これが何か分かりません。どうか王にお尋ねしたいのです。王は言った。それはあの、生まれたときは大きいのに、成し遂げる仕事は細かいもののことか。尾を長く伸ばし、その先を鋭く尖らせたもののことか。頭は鋭くまっすぐ通っていて、尾のほうは長く巻きついているもののことか。一度行っては一度戻り、尾を結ぶことを仕事とする。羽も翼もないのに、しきりに行ったり来たりを繰り返す。尾が付けば仕事が始まり、尾が絡まれば仕事が終わる。かんざしを父とし、針入れの管を母とする。表を縫い合わせ、また裏地をつなぎ合わせる。これこそ針の理というものである。答えは箴、すなわち針である。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
荀子・賦篇此に物有り、㒩㒩(らら)たり其の狀(かたち)、屢(しばしば)化すること神(しん)の如し。功は天下を被い、萬世の文(あや)と為る。禮樂は以て成り、貴賤は以て分かれ、老を養い幼を長ずるも、之を待ちて而(しか)る後に存す。名號(めいごう)美ならず、暴(ぼう)と鄰(となり)を為す。功立ちて身は廢(はい)し、事成りて家は敗る。其の耆老(きろう)を棄て、其の後世を收(おさ)む。人の屬(たぐい)には利する所、飛鳥には害する所。臣愚にして識らず、請(こ)う之を五泰(ごたい)に占(と)わん。五泰(ごたい)之を占いて曰く、此れ夫(か)の身は女(じょ)のごとく好(よ)くして、頭は馬首なる者か。屢(しばしば)化して壽(いのちなが)からざる者か。壯(そう)なるに善(よ)くして老ゆるに拙(つたな)き者か。父母有りて牝牡(ひんぼ)無き者か。冬は伏し夏は游び、桑を食(は)みて絲を吐き、前は亂れて後は治まり、夏に生じて暑を惡(にく)み、濕(しつ)を喜びて雨を惡む。蛹(よう)以て母と為し、蛾(が)以て父と為す。三たび俯(ふ)し三たび起(た)ちて、事(こと)乃(すなわ)ち大いに已(や)む。夫(そ)れ是れを之れ蠶(さん)の理と謂う。蠶なり。
-
荀子・賦篇此(ここ)に物有り、居(お)れば則ち周(あまね)く靜かにして下(くだ)るを致し、動けば則ち綦(きわ)めて高く以て鉅(おお)いなり。圓(まる)き者は規(き)に中(あた)り、方(かく)なる者は矩(く)に中る。大なることは天地に參(さん)じ、德の厚きことは堯禹(ぎょうう)なり。精微なること毫毛(ごうもう)よりも甚だしくして、盈大(えいだい)なること寓宙(うちゅう)よりも大なり。忽(こつ)たり其の極の遠きや、攭(れい)たり其の相(あい)逐(お)いて反(かえ)るや、卬卬(ごうごう)たり天下の咸(ことごと)く蹇(そん)ずるや。德厚くして捐(す)てず、五采(ごさい)備わりて文(あや)を成す。往來すること惛憊(こんぱい)として、大神(たいしん)に通じ、出入すること甚だ極まりて、其の門を知る莫し。天下之を失えば則ち滅び、之を得れば則ち存す。弟子(ていし)敏(びん)ならず、此れ之を陳(の)べんことを願う。君子辭を設(もう)け、請(こ)う意を測(はか)らんことを。曰く、此れ夫(か)の大にして塞(ふさ)がざる者か。大宇(たいう)に充盈(じゅうえい)して窕(むな)しからず、卻穴(げきけつ)に入りて偪(せま)らざる者か。遠きを行きて疾(と)く速やかにして、託(たく)して訊(と)う可からざる者か。往來惛憊(こんぱい)として、固塞(こそく)と為す可からざる者か。暴(にわ)かに至りて殺傷するも、億忌(おくき)せざる者か。功は天下を被(おお)うも、私(わたくし)に置かざる者か。地に託して宇(う)に游(あそ)び、風を友とし雨を子とす。冬日には寒を作(な)し、夏日には暑を作す。廣大なる精神、請(こ)う之を雲に歸せん。雲なり。
-
荀子・賦篇爰(ここ)に大物(たいぶつ)有り、絲(いと)に非ず帛(きぬ)に非ざるも、文理(ぶんり)章(あや)を成す。日に非ず月に非ざるも、天下の明(めい)と為る。生ける者は以て壽(いのちなが)く、死せる者は以て葬らる。城郭は以て固く、三軍は以て強し。粹(すい)なれば王たり、駁(はく)なれば伯(は)たり、一(いつ)も焉(これ)無ければ亡(ほろ)ぶ。臣愚にして識(し)らず、敢えて之を王に請(と)う。王曰く、此れ夫(か)の文(かざり)ありて采(あや)ならざる者か。簡然(かんぜん)として知り易(やす)くして、致(きわ)めて理(り)有る者か。君子の敬する所にして、小人の不(せざ)る所の者か。性(せい)之を得ざれば則ち禽獸(きんじゅう)の若(ごと)く、性之を得れば則ち甚だ雅(が)に似たる者か。匹夫(ひっぷ)之を隆(たっと)べば則ち聖人と為り、諸侯之を隆べば則ち四海を一にする者か。致(きわ)めて明らかにして約(やく)、甚だ順(じゅん)にして體(たい)あり、請(こ)う之を禮に歸せん。禮なり。
-
荀子・賦篇皇天(こうてん)物を隆(くだ)し、以て下民に示し施す、或いは厚く或いは薄く、常に齊均(せいきん)ならず。桀紂(けつちゅう)は以て亂れ、湯武(とうぶ)は以て賢なり。涽涽(こんこん)たり淑淑(しゅくしゅく)たり、皇皇(こうこう)たり穆穆(ぼくぼく)たり。四海に周流(しゅうりゅう)して、曾(すなわ)ち日を崇(お)えず。君子は以て脩め、跖(せき)は以て室を穿(うが)つ。大なること天に參(さん)じ、精微(せいび)にして形無く、義を行いて以て正しく、事業以て成る。以て暴(ぼう)を禁じ窮(きゅう)を足(た)らしむ可く、百姓(ひゃくせい)之を待ちて而(しか)る後に泰寧(たいねい)なり。臣愚にして識らず、願わくは其の名を問わん。曰く、此れ夫(か)の寬平(かんぺい)に安んじて險隘(けんあい)を危(あや)ぶむ者か。脩潔(しゅうけつ)を之れ親しみて、雜汙(ざつお)を之れ狄(しりぞ)くる者か。甚だ深く藏(かく)れて外は敵に勝つ者か。禹舜(うしゅん)に法(のっと)りて能く跡(あと)を弇(おお)う者か。行(こう)の動靜(どうせい)、之を待ちて而(しか)る後に適(かな)う者か。血氣の精(せい)なり、志意の榮(えい)なり、百姓之を待ちて而る後に寧(やす)く、天下之を待ちて而る後に平らかなり、明達純粹(めいたつじゅんすい)にして疵(きず)無し。夫(そ)れ是れを之れ君子の知(ち)と謂う。知なり。
-
荀子・大略篇今夫(そ)れ箴(はり)を亡(うしな)ふ者は、終日之を求むれども得ず。其の之を得るや、目の益(ますま)す明らかなるに非(あら)ざるなり、眸(ひとみ)を凝らして之を見るなり。心の慮(おもんぱか)りに於(お)けるも亦(ま)た然り。
-
『呻吟語』内篇・應務・其の具を用ふる者の難し勢なる者は、事を成すの藉なり。高きに登りて招き、風に順ひて呼べば、勞せず費やさずして其れ就り易し。勢に審らかならざるは、譬へば舟を平陸の地に行るがごとし。是の故に發を慎むを貴ぶ。左に盼み望み、長く慮り卻りて顧み、實に利を得たるを見るも、又た其の害を思ひ、實に成るを得たるを見るも、又た其の敗を慮る。萬に虞る可き無くんば則ち極を執りて變ぜず。發する所を慎まざるは、譬へば夜に的に射儀するがごとし。是の故に物に宜しきを貴ぶ。嗟夫、其の具有るの難きに非ずして、其の具を用ふる者の難きなり。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る