荀子 / 賦篇
有物於此,㒩㒩兮其狀,屢化如神,功被天下,為萬世文。禮樂以成,貴賤以分,養老長幼,待之而後存。名號不美,與「暴」為鄰。功立而身廢,事成而家敗。棄其耆老,收其後世。人屬所利,飛鳥所害。臣愚不識,請占之五泰。五泰占之曰:此夫身女好,而頭馬首者與?屢化而不壽者與?善壯而拙老者與?有父母而無牝牡者與?冬伏而夏游,食桑而吐絲,前亂而後治,夏生而惡暑,喜濕而惡雨,蛹以為母,蛾以為父,三俯三起,事乃大已,夫是之謂蠶理。蠶。
新字:有物於此,㒩㒩兮其状,屡化如神,功被天下,為万世文。礼楽以成,貴賤以分,養老長幼,待之而後存。名号不美,与「暴」為鄰。功立而身廃,事成而家敗。棄其耆老,収其後世。人属所利,飛鳥所害。臣愚不識,請占之五泰。五泰占之曰:此夫身女好,而頭馬首者与?屡化而不寿者与?善壮而拙老者与?有父母而無牝牡者与?冬伏而夏游,食桑而吐糸,前乱而後治,夏生而悪暑,喜湿而悪雨,蛹以為母,蛾以為父,三俯三起,事乃大已,夫是之謂蠶理。蠶。
書き下し
此に物有り、㒩㒩(らら)たり其の狀(かたち)、屢(しばしば)化すること神(しん)の如し。功は天下を被い、萬世の文(あや)と為る。禮樂は以て成り、貴賤は以て分かれ、老を養い幼を長ずるも、之を待ちて而(しか)る後に存す。名號(めいごう)美ならず、暴(ぼう)と鄰(となり)を為す。功立ちて身は廢(はい)し、事成りて家は敗る。其の耆老(きろう)を棄て、其の後世を收(おさ)む。人の屬(たぐい)には利する所、飛鳥には害する所。臣愚にして識らず、請(こ)う之を五泰(ごたい)に占(と)わん。五泰(ごたい)之を占いて曰く、此れ夫(か)の身は女(じょ)のごとく好(よ)くして、頭は馬首なる者か。屢(しばしば)化して壽(いのちなが)からざる者か。壯(そう)なるに善(よ)くして老ゆるに拙(つたな)き者か。父母有りて牝牡(ひんぼ)無き者か。冬は伏し夏は游び、桑を食(は)みて絲を吐き、前は亂れて後は治まり、夏に生じて暑を惡(にく)み、濕(しつ)を喜びて雨を惡む。蛹(よう)以て母と為し、蛾(が)以て父と為す。三たび俯(ふ)し三たび起(た)ちて、事(こと)乃(すなわ)ち大いに已(や)む。夫(そ)れ是れを之れ蠶(さん)の理と謂う。蠶なり。
現代語訳
ここにあるものがあります。裸のようになめらかな姿をして、しばしば形を変えること、まるで神のようです。その功績は天下をおおい、万世にわたる文化のもととなります。礼楽もこれによって整い、身分の貴賤もこれによって区別され、老人を養い幼い者を育てることも、これがあってはじめて成り立ちます。ところがその名は美しくなく、「暴」という字と隣り合っています。功績が立つときには自分の身は捨てられ、仕事が成るときには自分の家は壊されます。年老いた親は棄てられ、その子孫だけが取り上げられます。人の類には利益をもたらし、飛ぶ鳥には害を与えられます。私は愚かで、これが何か分かりません。どうか五泰さまに占っていただきたいのです。五泰はこれを占って言った。それはあの、体は女性のようになまめかしく、頭は馬の首のような形をしたもののことか。しばしば形を変えるが、命は長くないもののことか。若いうちは元気だが、老いると不器用になるもののことか。父母はあるのに、雌雄の交わりを経ないもののことか。冬は隠れ、夏は活動し、桑の葉を食べて糸を吐き、はじめは乱れているが後には整い、夏に生まれるのに暑さを嫌い、湿り気を好むのに雨を嫌う。蛹を母とし、蛾を父とする。三度眠り、三度起きて、その仕事はすっかり終わる。これこそ蚕の理というものである。答えは蚕である。
解説
この章句が説くこと
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荀子・賦篇此(ここ)に物有り、山阜(さんぷ)に生じて、室堂(しつどう)に處(お)る。知無く巧(こう)無きも、善く衣裳(いしょう)を治む。盜まず竊(ぬす)まざるも、穿窬(せんゆ)して行く。日夜合離(ごうり)して、以て文章(ぶんしょう)を成す。以て能く合從(がっしょう)し、又(また)善く連衡(れんこう)す。下は百姓(ひゃくせい)を覆(おお)い、上は帝王を飾る。功業(こうぎょう)甚だ博(ひろ)きも、賢良(けんりょう)とは見られず。時に用いらるれば則ち存し、用いられざれば則ち亡(な)し。臣愚にして識らず、敢えて之を王に請(と)う。王曰く、此れ夫(か)の始めて生ずるときは鉅(おお)いにして、其の功を成すこと小なる者か。其の尾を長くして其の剽(さき)を銳(するど)くする者か。頭は銛達(せんたつ)にして尾は趙繚(ちょうりょう)たる者か。一(ひと)たび往き一たび來(き)たり、尾を結びて以て事と為す。羽無く翼無きも、反覆すること甚だ極まる。尾生じて事起こり、尾邅(てん)じて事已(や)む。簪(しん)以て父と為し、管(かん)以て母と為す。既に以て表を縫い、又(また)以て裡(うら)を連ぬ。夫(そ)れ是れを之れ箴(しん)の理と謂う。箴なり。
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荀子・賦篇爰(ここ)に大物(たいぶつ)有り、絲(いと)に非ず帛(きぬ)に非ざるも、文理(ぶんり)章(あや)を成す。日に非ず月に非ざるも、天下の明(めい)と為る。生ける者は以て壽(いのちなが)く、死せる者は以て葬らる。城郭は以て固く、三軍は以て強し。粹(すい)なれば王たり、駁(はく)なれば伯(は)たり、一(いつ)も焉(これ)無ければ亡(ほろ)ぶ。臣愚にして識(し)らず、敢えて之を王に請(と)う。王曰く、此れ夫(か)の文(かざり)ありて采(あや)ならざる者か。簡然(かんぜん)として知り易(やす)くして、致(きわ)めて理(り)有る者か。君子の敬する所にして、小人の不(せざ)る所の者か。性(せい)之を得ざれば則ち禽獸(きんじゅう)の若(ごと)く、性之を得れば則ち甚だ雅(が)に似たる者か。匹夫(ひっぷ)之を隆(たっと)べば則ち聖人と為り、諸侯之を隆べば則ち四海を一にする者か。致(きわ)めて明らかにして約(やく)、甚だ順(じゅん)にして體(たい)あり、請(こ)う之を禮に歸せん。禮なり。
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荀子・賦篇此(ここ)に物有り、居(お)れば則ち周(あまね)く靜かにして下(くだ)るを致し、動けば則ち綦(きわ)めて高く以て鉅(おお)いなり。圓(まる)き者は規(き)に中(あた)り、方(かく)なる者は矩(く)に中る。大なることは天地に參(さん)じ、德の厚きことは堯禹(ぎょうう)なり。精微なること毫毛(ごうもう)よりも甚だしくして、盈大(えいだい)なること寓宙(うちゅう)よりも大なり。忽(こつ)たり其の極の遠きや、攭(れい)たり其の相(あい)逐(お)いて反(かえ)るや、卬卬(ごうごう)たり天下の咸(ことごと)く蹇(そん)ずるや。德厚くして捐(す)てず、五采(ごさい)備わりて文(あや)を成す。往來すること惛憊(こんぱい)として、大神(たいしん)に通じ、出入すること甚だ極まりて、其の門を知る莫し。天下之を失えば則ち滅び、之を得れば則ち存す。弟子(ていし)敏(びん)ならず、此れ之を陳(の)べんことを願う。君子辭を設(もう)け、請(こ)う意を測(はか)らんことを。曰く、此れ夫(か)の大にして塞(ふさ)がざる者か。大宇(たいう)に充盈(じゅうえい)して窕(むな)しからず、卻穴(げきけつ)に入りて偪(せま)らざる者か。遠きを行きて疾(と)く速やかにして、託(たく)して訊(と)う可からざる者か。往來惛憊(こんぱい)として、固塞(こそく)と為す可からざる者か。暴(にわ)かに至りて殺傷するも、億忌(おくき)せざる者か。功は天下を被(おお)うも、私(わたくし)に置かざる者か。地に託して宇(う)に游(あそ)び、風を友とし雨を子とす。冬日には寒を作(な)し、夏日には暑を作す。廣大なる精神、請(こ)う之を雲に歸せん。雲なり。
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荀子・賦篇皇天(こうてん)物を隆(くだ)し、以て下民に示し施す、或いは厚く或いは薄く、常に齊均(せいきん)ならず。桀紂(けつちゅう)は以て亂れ、湯武(とうぶ)は以て賢なり。涽涽(こんこん)たり淑淑(しゅくしゅく)たり、皇皇(こうこう)たり穆穆(ぼくぼく)たり。四海に周流(しゅうりゅう)して、曾(すなわ)ち日を崇(お)えず。君子は以て脩め、跖(せき)は以て室を穿(うが)つ。大なること天に參(さん)じ、精微(せいび)にして形無く、義を行いて以て正しく、事業以て成る。以て暴(ぼう)を禁じ窮(きゅう)を足(た)らしむ可く、百姓(ひゃくせい)之を待ちて而(しか)る後に泰寧(たいねい)なり。臣愚にして識らず、願わくは其の名を問わん。曰く、此れ夫(か)の寬平(かんぺい)に安んじて險隘(けんあい)を危(あや)ぶむ者か。脩潔(しゅうけつ)を之れ親しみて、雜汙(ざつお)を之れ狄(しりぞ)くる者か。甚だ深く藏(かく)れて外は敵に勝つ者か。禹舜(うしゅん)に法(のっと)りて能く跡(あと)を弇(おお)う者か。行(こう)の動靜(どうせい)、之を待ちて而(しか)る後に適(かな)う者か。血氣の精(せい)なり、志意の榮(えい)なり、百姓之を待ちて而る後に寧(やす)く、天下之を待ちて而る後に平らかなり、明達純粹(めいたつじゅんすい)にして疵(きず)無し。夫(そ)れ是れを之れ君子の知(ち)と謂う。知なり。
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荀子・賦篇其の小歌(しょうか)に曰く、彼(か)の遠方(えんぽう)を念(おも)えば、何ぞ其れ塞(ふさ)がれるや。仁人は絀約(ちゅつやく)せられ、暴人は衍(はびこ)れり。忠臣は危殆(きたい)にして、讒人は服(はびこ)れり。琁(せん)・玉(ぎょく)・瑤(よう)・珠(しゅ)も、佩(お)びるを知らざるなり。布(ふ)と帛(はく)とを雜(まじ)え、異なるを知らざるなり。閭娵(りょしゅ)・子奢(ししゃ)も、之を媒(なかだち)する莫(な)し。嫫母(ぼぼ)・力父(りきほ)、是(こ)れを之れ喜ぶ。盲(もう)を以て明と為し、聾(ろう)を以て聰(そう)と為し、危(き)を以て安と為し、吉を以て凶と為す。嗚呼(ああ)、上天(じょうてん)、曷(なん)ぞ維(こ)れ其れ同じからんや。
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『呻吟語』外篇・廣喻・蠶に賦する一聯蠶に賦する一聯。「苟しくも絲綸の既に盡くれば、鼎鑊と雖も其れ奚ぞ辭せん」。
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