荀子 / 成相篇
願陳辭,世亂惡善不此治。隱過疾賢,長由姦詐鮮無災。患難哉!阪為先,聖知不用愚者謀。前車已覆,後未知更,何覺時?不覺悟,不知苦,迷惑失指易上下。中不上達,蒙揜耳目塞門戶。門戶塞,大迷惑,悖亂昏莫不終極;是非反易,比周欺上惡正直。正直惡,心無度,邪枉辟回失道途。己無郵人,我獨自美,豈獨無故?不知戒,後必有,恨後遂過不肯悔。讒夫多進,反覆言語生詐態。人之態,不如備,爭寵嫉賢利惡忌;妒功毀賢,下歛黨與上蔽匿。上壅蔽,失輔埶,任用讒夫不能制。郭公長父之難,厲王流於彘。周幽厲,所以敗,不聽規諫忠是害。嗟我何人,獨不遇時當亂世!欲衷對,言不從,恐為子胥身離凶;進諫不聽,剄而獨鹿棄之江。觀往事,以自戒,治亂是非亦可識。託於成相以喻意。
新字:願陳辞,世乱悪善不此治。隠過疾賢,長由姦詐鮮無災。患難哉!阪為先,聖知不用愚者謀。前車已覆,後未知更,何覚時?不覚悟,不知苦,迷惑失指易上下。中不上達,蒙揜耳目塞門戸。門戸塞,大迷惑,悖乱昏莫不終極;是非反易,比周欺上悪正直。正直悪,心無度,邪枉辟回失道途。己無郵人,我独自美,豈独無故?不知戒,後必有,恨後遂過不肯悔。讒夫多進,反覆言語生詐態。人之態,不如備,争寵嫉賢利悪忌;妬功毀賢,下歛党与上蔽匿。上壅蔽,失輔埶,任用讒夫不能制。郭公長父之難,厲王流於彘。周幽厲,所以敗,不聴規諫忠是害。嗟我何人,独不遇時当乱世!欲衷対,言不従,恐為子胥身離凶;進諫不聴,剄而独鹿棄之江。観往事,以自戒,治乱是非亦可識。託於成相以喩意。
書き下し
願わくは辭(じ)を陳(の)べん、世亂れて善を惡(にく)まば此(ここ)に治まらず。過(あやまち)を隱し賢を疾(にく)み、長(とこしえ)に姦詐(かんさ)に由らば災無きこと鮮(すく)なし。患難(かんなん)なるかな、阪(はん)を先と為し、聖知(せいち)用いられずして愚者謀(はか)る。前車已(すで)に覆(くつがえ)るも、後(あと)なお更(あらた)むるを知らず、何(いず)れの時にか覺(さと)らん。覺悟せず、苦しみを知らず、迷惑して指(むね)を失い上下を易(か)う。中(なか)にして上(かみ)に達せず、耳目を蒙揜(もうえん)し門戶を塞ぐ。門戶塞がれば、大いに迷惑し、悖亂(はいらん)昏(くら)くして終極する莫し。是非は反(かえ)り易(かわ)り、比周(ひしゅう)して上を欺き正直を惡む。正直惡まれ、心に度(のり)無く、邪枉(じゃおう)辟回(へきかい)して道途(どうと)を失う。己に郵(とが)むる人無く、我獨り自ら美(よ)しとす、豈に獨り故(ゆえ)無からんや。戒(いまし)むるを知らざれば、後に必ず有らん、後に恨むも遂(つい)に過ちて悔ゆるを肯(がえん)ぜず。讒夫(ざんぷ)多く進み、反覆する言語は詐態(さたい)を生ず。人の態(さま)は、備うるに如かず、寵を爭い賢を嫉(そね)み利あれば惡(にく)み忌む。功を妒(ねた)み賢を毀(そし)り、下は黨與(とうよ)を歛(あつ)め上は蔽匿(へいとく)す。上壅蔽(ようへい)せられ、輔(たすけ)と埶(いきおい)とを失い、讒夫を任用して制すること能わず。郭公(かくこう)長父(ちょうほ)の難あり、厲王(れいおう)は彘(てい)に流さる。周の幽(ゆう)・厲(れい)、敗るる所以(ゆえん)は、規諫(きかん)を聽かず忠を是れ害するにあり。嗟(ああ)我何人(なんぴと)ぞ、獨り時に遇わずして亂世に當(あ)たる。衷(まこと)を對(こた)えんと欲するも、言(げん)從われず、子胥(ししょ)の身の凶に離(かか)れるが為らんことを恐る。諫を進むるも聽かれず、剄(くび)きられて獨鹿(どくろく)もて之を江に棄てらる。往事を觀て、以て自ら戒めば、治亂是非も亦(また)識(し)る可し。成相に託して以て意を喻(さと)す。
現代語訳
どうか言葉を述べさせてほしい。世が乱れ、善を憎むようであれば、決して治まりはしない。過ちを隠し賢者を憎み、いつまでも悪知恵に頼っていれば、災いを免れることはまずない。まことに困ったことだ。傾いた坂道を先に立てるように、聖人の知恵は用いられず、愚か者ばかりが政治を計る。前を行く車がすでにひっくり返っているのに、後ろの車はまだ道を改めようとしない。いったいいつになったら気づくのか。目覚めもせず、苦しみも分からず、迷って本筋を見失い、上と下とを取り違える。下の実情は上まで届かず、君主の耳と目は覆い塞がれ、出入り口までふさがれてしまう。出入り口がふさがれると、ひどく迷い、道理は乱れ、暗さは果てしなく続く。是と非とがひっくり返り、徒党を組んで上を欺き、まっすぐな人を憎む。まっすぐな人が憎まれれば、心には基準がなくなり、よこしまにねじ曲がって、進むべき道を失う。自分をとがめてくれる人が一人もおらず、自分だけがすぐれていると思い込む。そんな状態になるのに理由がないはずがない。戒めを知らなければ、後で必ず報いがある。後になって悔やんでも、結局は過ちを繰り返し、本当に悔い改めようとはしない。讒言する者ばかりが登用され、二転三転する言葉は偽りの態度を生む。人というものは、あらかじめ用心しておくにこしたことはない。寵愛を争い、賢者を嫉み、利のあるところでは憎み合いねたみ合う。他人の功績をねたみ、賢者をそしり、下の者は徒党をかき集め、上の者は真実を隠す。君主は覆い隠されて、補佐も権勢も失い、讒言する者を用いておきながら、それを制御できない。郭公・長父の乱が起こり、周の厲王は彘の地へ追放された。周の幽王・厲王が失敗した理由は、正しい諫めを聞かず、忠臣を害したことにある。ああ、私はいったい何者なのか。ひとり時にめぐりあわず、乱世に生きている。真心をこめて答えたいと思っても、言葉は用いられない。伍子胥のようにわが身に災いを受けるのではないかと恐れる。伍子胥は諫めても聞き入れられず、首をはねられ、その死体は皮袋に入れて長江に投げ捨てられた。過ぎ去った出来事をよく見て、自分への戒めとすれば、治乱と是非を見分けることもできる。私はこの成相の歌に託して、その思いを伝えるのだ。
解説
この章句が説くこと
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荀子・成相篇請う成相(せいしょう)せん、世の殃(わざわい)は、愚闇(ぐあん)愚闇として賢良を墮(おと)すことなり。人主に賢無きは、瞽(こ)に相(しょう)無きが如し、何ぞ倀倀(ちょうちょう)たる。請う基(もとい)を布(し)かん、聖人を慎(つつし)み、愚にして自ら專らにすれば事治まらず。主忌みて苟(いやし)くも勝たんとし、群臣諫むる莫くば、必ず災に逢わん。臣の過を論じ、其の施(し)を反(かえ)し、主を尊び國を安んじて賢義を尚(たっと)ぶ。諫を拒み非を飾り、愚にして上に同ずれば、國必ず禍あり。曷(なに)をか罷(ひ)と謂う。國に私多く、比周(ひしゅう)して主を還(めぐ)らし黨與(とうよ)に施すなり。賢を遠ざけ讒を近づくれば、忠臣は蔽塞(へいそく)せられ主の埶(いきおい)は移る。曷をか賢と謂う。君臣を明らかにし、上は能く主を尊び下は民を愛す。主誠に之を聽かば、天下は一と為り海內(かいだい)賓(ふく)せん。主の孽(わざわい)は、讒人の達するにして、賢能は遁逃し國乃ち蹙(せば)まる。愚を以て愚を重ね、闇を以て闇を重ねて、桀(けつ)と成る。世の災は、賢能を妒(ねた)むにあり、飛廉(ひれん)政を知(つかさど)り惡來(あくらい)を任ず。其の志意を卑しくし、其の園圃(えんぽ)を大にし其の臺(うてな)を高くす。武王怒りて、牧野(ぼくや)に師(いくさ)し、紂の卒(そつ)は鄉(むき)を易(か)え啟(ひら)きて乃ち下る。武王之を善しとし、之を宋に封じて其の祖を立つ。世の衰うるや、讒人歸し、比干(ひかん)は刳(さ)かれ箕子(きし)は累(つな)がる。武王之を誅し、呂尚(りょしょう)麾(き)を招きて殷民懷(なつ)く。世の禍は、賢士を惡(にく)むにあり、子胥(ししょ)は殺され百里(ひゃくり)は徙(うつ)る。穆公(ぼくこう)之を任じ、強くして五伯(ごは)に配し六卿(りくけい)施(の)ぶ。世の愚は、大儒を惡むにあり、逆斥(ぎゃくせき)せられ通ぜずして孔子は拘(とら)えらる。展禽(てんきん)は三たび絀(しりぞ)けられ、春申(しゅんしん)は道に綴(た)たれ、基は畢(ことごと)く輸(うしな)わる。請う基を牧(おさ)めん、賢者は思う、堯は萬世に在れども之を見るが如し。讒人は罔極(もうきょく)にして、險陂(けんぱ)傾側(けいそく)なり、此れ之を疑う。基は必ず施(の)べ、賢と罷とを辨(わか)たん、文武の道は伏戲(ふくぎ)に同じ、之に由る者は治まり、由らざる者は亂る、何ぞ疑わんや。凡そ成相は、法方を辨ず、至治の極は後王に復(かえ)る。慎(しん)・墨(ぼく)・季(き)・惠(けい)、百家の說は欺きて詳(つまび)らかならず。治は一に復り、之を脩むれば吉なり、君子は之を執りて心結ぶが如く、眾人は之に貳(ふた)ごころあり、讒夫は之を棄つ、形(かたち)は是に詰(きわ)まる。水は至って平らかに、端(ただ)しければ傾かず、心術も此くの如きは聖人に象(かたど)る。人にして埶(せい)有り、直(なお)くして抴(えい)を用うれば必ず天に參(さん)ず。世に王無ければ、賢良は窮し、暴人は芻豢(すうけん)を食(は)み、仁人は糟糠(そうこう)を啜(すす)る。禮樂は息滅(そくめつ)し、聖人は隱伏し、墨術行わる。治の經(つね)は、禮と刑となり、君子は以て脩まり百姓(ひゃくせい)は寧(やす)し。德を明らかにし罰を慎めば、國家既に治まりて四海平らかなり。治の志は、埶(せい)と富とを後にす、君子は之を誠にし好みて以て待つ。之に處(お)ること敦固(とんこ)にして、深く之を藏し、能く遠く思う。思えば乃ち精(くわ)しく、志は之れ榮え、好みて之を壹(いつ)にすれば神(しん)以て成る。精神相反(かえ)り、一にして貳(に)ならざれば、聖人と為る。治の道は、美にして老いず、君子之に由れば佼(よ)くして以て好し。下は以て子弟を教誨(きょうかい)し、上は以て祖考に事(つか)う。成相は竭(つ)き、辭は蹙(せま)らず、君子之に道(よ)れば順にして以て達す。其の賢良を宗(たっと)び、其の殃孽(おうげつ)を辨(わきま)えよ。
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荀子・成相篇請う成相(せいしょう)せん、治(ち)の方(みち)を言わん、君の論に五有り約(つづ)めて以て明らかなり。君謹んで之を守らば、下は皆平正にして、國乃ち昌(さか)えん。臣下は職とし、游食(ゆうしょく)する莫(な)く、本(もと)に務め用を節すれば財は極(つ)くる無し。事業は上に聽き、相(あい)使うことを得る莫くば、民力は一(いつ)なり。其の職を守れば、衣食足り、厚薄に等有りて爵服(しゃくふく)明らかなり。利は往(ゆ)きて上に卬(あお)ぎ、擅(ほしいまま)に與うるを得る莫くば、孰(たれ)か私(ひそ)かに得ん。君の法明らかに、論に常有り、表儀(ひょうぎ)既に設(もう)けらるれば民は方(みち)を知る。進退に律有り、貴賤を得る莫くば、孰か王を私せん。君の法儀あり、禁ずれば為さず、教えを說(よろこ)ばざる莫く名は移らず。之を脩むる者は榮え、之を離るる者は辱(はずかし)めらる、孰(いず)れをか它(た)に師とせん。刑は稱(かな)いて陳(の)べられ、其の銀(かぎり)を守らば、下は用うるを得ずして私門を輕んず。罪禍に律有り、輕重を得る莫くば威は分かれず。請う祺(さいわい)を牧(おさ)めん、明には基(もとい)有り、主(しゅ)論議を好めば必ず謀(はかりごと)を善くす。五聽(ごちょう)修め領(おさ)まらば、理(おさ)まり續(つづ)かざる莫く主は執り持す。聽くの經(つね)は、其の請(じょう)を明らかにするにあり、參伍(さんご)明謹(めいきん)にして賞刑を施す。顯(あき)らかなる者は必ず得られ、隱れたる者も復(ま)た顯れ、民は誠に反(かえ)る。言に節有り、其の實を稽(かんが)え、信と誕(いつわり)とを以て分かたば賞刑必ず當(あ)たる。下は上を欺かず、皆情(まこと)を以て言い、明らかなること日の若(ごと)し。上通じ利(とど)こおらず、隱れたるも遠きも至り、法と不法とを觀(み)、視ざるをも見る。耳目既に顯らかなれば、吏(り)は法令を敬(つつし)みて敢えて恣(ほしいまま)にする莫し。君の教え出づれば、行うに律有り、吏は謹んで之を將(おこな)いて鈹滑(ひかつ)無し。下は私(ひそ)かに請わず、各(おのおの)宜しきを以てし、巧拙(こうせつ)を舍(お)く。臣謹んで脩め、君は變を制し、公(おおやけ)に察し善く思わば論は亂れず。以て天下を治めば、後世之に法(のっと)りて律(のり)を成し貫かん。
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貞観政要・公平又た時に小事有り。人の聞くを欲せずんば、則ち暴かに威怒を作し、以て謗議を弭(や)ます。若し為す所是ならば、外に聞こゆるも、其れ何ぞ傷まん。若し為す所非ならば、之を掩うと雖も、何の益かあらん。故に諺に曰く、「人の知らざるを欲せば、為さざるに若くは莫し。人の聞かざるを欲せば、言う勿かるに若くは莫し」と。之を為して人の知らざるを欲し、之を言いて人の聞かざるを欲するは、此れ猶お雀を捕らえて目を掩い、鐘を盗みて耳を掩う者のごとし。只だ以て誚(そし)りを取るのみ。将た何の益かあらん。臣又た之を聞く、常に乱るるの国無く、理むべからざるの民無し、と。夫れ民の善悪は、化の薄厚に由る。故に禹・湯は之を以て理まり、桀・紂は之を以て乱る。文・武は之を以て安く、幽・厲は之を以て危うし。是を以て古の哲王は、己を尽くして人を尤(とが)めず、身に求めて下を責めず。故に曰く、「禹・湯は己を罪す。其の興るや勃焉たり。桀・紂は人を罪す。其の亡ぶるや忽焉たり」と。之を為して已まずんば、深く惻隠の情に乖き、実に奸邪の路を啓く。温舒は曩日を恨む。臣も亦た惜しみて用いられざるを欲す。聞かざる所に非ざるなり。臣聞く、堯に敢諫の鼓有り、舜に誹謗の木有り、湯に司過の史有り、武に戒慎の銘有り、と。此れ則ち之を無形に聴き、之を未有に求む。心を虚しくして以て下を待つ。庶(ちか)くは下情の上に達し、上下私無く、君臣徳を合わす者なり。魏の武帝云う、「有徳の君は、耳に逆らうの言、顔を犯すの諍を聞くを楽しみ、忠臣に親しみ、諫士を厚くし、讒慝を斥け、佞人を遠ざくる者は、誠に身を全うし国を保ち、遠く滅亡を避けんと欲すればなり」と。凡そ百君子、期に膺り運を統ぶ。縦い未だ能く上下私無く、君臣徳を合わす能わずとも、身を全うし国を保ち、遠く滅亡を避けざるべけんや。然れども古より聖哲の君、功成り事立つは、未だ同心、予が違えるを汝弼(たす)くるに資らざる者有らざるなり。
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『塩鉄論』取下篇賢良曰く、古者、上取るに量有り、自ら養うに度有り、樂歲には盜まず、年饑うれば則ち肆す。民の力を用うること、歲に三日を過ぎず、籍斂は、十一を過ぎず。君篤く愛し、臣力を盡くし、上下交々讓りて、天下平らかなり。『浚く爾の私を發せ』とは、上の下に讓るなり。『遂に我が私に及ぶ』とは、公職を先にするなり。孟子曰く、『未だ仁にして其の親を遺つる者、義にして其の君を後にする者有らざるなり』と。君君たり臣臣たり、何為れぞ其れ禮義無からんや。周の末塗に及びて、德惠塞がりて嗜欲眾く、君は奢侈にして上求むること多く、民は下に困しみ、上公に怠る、是を以て履畝の稅有りて、碩鼠の詩作れるなり。衛の靈公、隆冬に當たりて眾を興して池を穿つ。海春諫めて曰く、『天寒く、百姓凍餒す、願わくは公の役を罷めんことを』と。公曰く、『天寒きかな。我何ぞ寒からざるや』と。人の言に曰く、『安き者は危きを恤む能わず、飽く者は饑うるを食わしむる能わず』と。故に粱肉に余りある者は隱約を言い難く、佚樂に處る者は勤苦を言い難し。夫れ高堂邃宇、廣廈洞房なる者は、專屋狹廬、上漏り下濕る者の窘しみを知らず。馬を系ぐこと百駟、貨財內に充ち、陳きを儲え新しきを納るる者は、旦有りて暮無く、稱貸する者の急を知らず。廣第唐園、良田連比なる者は、運踵の業無く、宅に竄頭する者の役を知らず。原馬山を被い、牛羊谷に滿つる者は、孤豚瘠犢すら無き者の窶しきを知らず。枕を高くして談臥し、叫號無き者は、私責と吏正とに憂え戚しむ者の愁いを知らず。紈を被り韋を躡み、粱を搏り肥を嚙む者は、短褐の寒き、糠の苦きを知らず。房闈の間に從容として、垂拱して案食を持する者は、耒を跖みて躬ら耕す者の勤めを知らず。堅きに乘り良きを驅り、騎を列ねて行を成す者は、檐を負いて步行する者の勞を知らず。匡床旃席、侍御側に滿つる者は、輅を負い船を挽き、高きに登り流れを絕つ者の難きを知らず。輕暖を衣、美裘を被り、溫室に處り、安車に載る者は、邊城に乘り、胡・代に飄い、清風に鄉かう者の危寒を知らず。妻子好合し、子孫之を保つ者は、老母の憔悴、匹婦の悲恨を知らず。耳に五音を聽き、目に弄優を視る者は、流矢を蒙り、敵を方外に距ぐ者の死を知らず。東に向かいて几に伏し、筆を振るいて文を調うるが如き者は、木索の急、棰楚せらるる者の痛みを知らず。旃茵の上に坐し、圖籍の言を易きが若く然りと安んずる者も、亦た步涉する者の難きを知らざるなり。昔、商鞅の秦に任ぜらるるや、人を刑すること菅茅を刈るが若く、師を用うること彈丸の若し。軍に從う者は骨を長城に暴し、戍漕する者は輦車相い望む。生きて往き、死して旋る、彼れ獨り人の子に非ざらんや。故に君子は仁もて以て恕し、義もて以て度り、好惡する所は天下と之を共にし、不仁なる者には施さざる所なり。公劉は貨を好みて、居る者に積有り、行く者に囊有り。太王は色を好みて、內に怨女無く、外に曠夫無し。文王は刑を作りて、國に怨獄無し。武王は師を行りて、士は樂しみて之が為に死し、民は樂しみて之が為に用いらる。斯くの若くんば、則ち民何ぞ苦しみて怨み、何をか求めて譏らんや。
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荀子・賦篇天下治まらず、請(こ)う佹詩(きし)を陳(の)べん。天地位を易(か)え、四時(しじ)鄉(むき)を易う。列星(れっせい)殞墜(いんつい)し、旦暮(たんぼ)晦盲(かいもう)なり。幽闇(ゆうあん)は昭(しょう)に登り、日月(じつげつ)は下りて藏(かく)る。公正無私なるも、從橫(しょうおう)と謂わる。志は公利を愛するも、樓(ろう)を重ね堂を疏(ひろ)くすと言わる。私(わたくし)無くして人を罪するも、革(かく)を憼(ととの)え兵を貳(そな)うと言わる。道德純(もっぱ)ら備わるも、讒口(ざんこう)將將(そうそう)たり。仁人は絀約(ちゅつやく)せられ、敖暴(ごうぼう)は彊(きょう)を擅(ほしいまま)にす。天下は幽險(ゆうけん)にして、世の英(えい)を失わんことを恐る。螭龍(ちりゅう)は蝘蜓(えんてい)と為り、鴟梟(しきょう)は鳳凰(ほうおう)と為る。比干(ひかん)は刳(さ)かれ、孔子は匡(きょう)に拘(とら)えらる。昭昭乎(しょうしょうこ)たり其の知の明らかなるや、郁郁乎(いくいくこ)たり其の時に遇うことの不祥(ふしょう)なるや、拂乎(ふつこ)たり其の禮義の大いに行われんことを欲するや、闇乎(あんこ)たり天下の晦盲(かいもう)なるや。皓天(こうてん)復(かえ)らず、憂え疆(かぎ)り無きなり。千歲にして必ず反(かえ)る、古(いにしえ)の常なり。弟子(ていし)學(がく)に勉(つと)めよ、天は忘れざるなり。聖人手を共(きょう)し、時幾(とき)將(まさ)にせんとす。愚(ぐ)に與(くみ)して以て疑う、願わくは反辭(はんじ)を聞かん。
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荀子・成相篇請う成相(せいしょう)せん、聖王を道(い)わん、堯舜(ぎょうしゅん)は賢を尚(たっと)び身(みずか)ら辭讓(じじょう)し、許由(きょゆう)・善卷(ぜんけん)は、義を重んじ利を輕んじて行い顯明(けんめい)なり。堯は賢に讓り、以て民の為にす、利を氾(あまね)くし兼ね愛して德の施し均(ひと)し。上下を辨(わか)ち治め、貴賤に等有りて君臣を明らかにす。堯は能に授け、舜は時に遇(あ)う、賢を尚び德を推して天下治まる。聖賢有りと雖も、適(たまた)ま世に遇わずんば、孰(たれ)か之を知らん。堯は德とせず、舜は辭せず、妻(めあ)わすに二女(にじょ)を以てし任ずるに事を以てす。大人(たいじん)なるかな舜、南面して立てば萬物備わる。舜は禹に授く、天下を以てす、尚(なお)能く賢を推して序を失わず。外は仇(あだ)を避(さ)けず、內は親に阿(おもね)らず、賢者に予(あた)う。禹は心力を勞し、堯は德有り、干戈(かんか)を用いずして三苗(さんびょう)服す。舜を甽畝(けんぽ)より舉げ、之に天下を任じて、身は休息す。后稷(こうしょく)を得て、五穀殖(う)え、夔(き)樂正(がくせい)と為りて鳥獸(ちょうじゅう)服す。契(せつ)司徒と為り、民は孝弟を知りて有德を尊ぶ。禹に功有り、鴻(こう)を抑え下し、民の害を辟除(へきじょ)して共工(きょうこう)を逐(お)う。北のかた九河(きゅうか)を決し、十二渚(じゅうにしょ)を通じ、三江を疏(さら)う。禹は土(ど)を傅(おさ)め、天下を平らげ、躬(みずか)ら親(みずか)ら民の為に勞苦を行う。益(えき)・皋陶(こうよう)・橫革(おうかく)・直成(ちょくせい)を得て、輔(たすけ)と為す。契は玄王(げんおう)、昭明(しょうめい)を生み、砥石(しせき)に居りて商に遷(うつ)り、十有四世にして、乃ち天乙(てんいつ)有り是れ成湯(せいとう)なり。天乙湯、論じ舉ぐること當(あた)り、身は卞隨(べんずい)に讓り牟光(ぼうこう)を舉ぐ。古(いにしえ)の賢聖を道(い)わば基(もとい)は必ず張らん。
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