荀子 / 正論篇
夫曰:太古薄揹,故不抇也;亂今厚葬,故抇也。是特姦人之誤於亂說,以欺愚者而淖陷之,以偷取利焉。夫是之謂大姦。傳曰:「危人而自安,害人而自利。」此之謂也。
新字:夫曰:太古薄揹,故不抇也;乱今厚葬,故抇也。是特姦人之誤於乱説,以欺愚者而淖陥之,以偸取利焉。夫是之謂大姦。伝曰:「危人而自安,害人而自利。」此之謂也。
書き下し
夫れ「太古は薄葬なり、故に抇かれず。乱れたる今は厚葬なり、故に抇かる」と曰うは、是れ特(ただ)姦人の乱説に誤りて、以て愚者を欺きて之を淖陷(どうかん)し、以て偸(ぬす)みて利を取るのみ。夫れ是れを之れ大姦と謂う。伝に曰く、「人を危うくして自ら安んじ、人を害して自ら利す」と。此れの謂いなり。
現代語訳
そもそも「大昔は葬りが質素だったから墓を暴かれず、乱れた今は手厚く葬るから暴かれるのだ」と言うのは、ただ悪人が乱れた説にかこつけて、愚かな者をだましてぬかるみに引きずり込み、その隙にかすめ取って利を得ようとしているだけである。こういうのをこそ、大いなる悪というのだ。古い言い伝えに「人を危うくして自分は安らぎ、人を害して自分が得をする」とある。まさにこのことである。
解説
薄葬論への総括です。荀子は、この説をただの見当違いとしてではなく、意図を持った害悪として断罪します。「質素にすれば暴かれない」という話は、原因の取り違えを利用して人をだまし、混乱に引きずり込み、その隙に自分だけ得をしようとする者の口実にすぎない。だからこれを大いなる悪と呼ぶのです。引かれる「人を危うくして自ら安んじ、人を害して自ら利す」という言葉が、その本質を一言で突いています。もっともらしい説の背後に、誰が得をする構造があるのかを見よ、という指摘です。私たちの周りでも、耳あたりのよい単純な処方箋が語られることがあります。その主張を信じたら誰が損をし、誰が得をするのか。この一問を挟むだけで、飲み込まされる話がずいぶん減るはずです。
この章句が説くこと
大姦人を危うくして自ら安んず俗説の見抜き方利害の構造
関連する章句
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荀子・正論篇世俗の説を為す者曰く、「太古は薄葬にして、棺は厚さ三寸、衣衾は三領、葬田は田を妨げず、故に掘(あば)かれざるなり。乱れたる今は厚葬して棺を飾る、故に抇(あば)かるるなり」と。是れ治道を知るに及ばずして、抇(あば)くと抇かざるとに察(あきら)かならざる者の言なり。凡そ人の盗むや、必ず為す有るを以てす。不足に備うるに非ざれば、則ち余り有るを重ぬるを以てなり。而して聖王の民を生かすや、皆な富厚優猶にして足るを知らしめ、而して余り有りて度に過ぐるを得しめず。故に盗は竊(ぬす)まず、賊は刺さず、狗豕は菽粟を吐き、而して農賈は皆な能く貨財を以て譲る。風俗の美なる、男女は自ら涂(みち)に取らず、而して百姓は遺を拾うを羞ず。故に孔子曰く、「天下に道有らば、盗、其れ先ず変ぜんか」と。珠玉体に満ち、文繡棺に充ち、黄金槨に充ち、之に加うるに丹矸を以てし、之に重ぬるに曾青を以てし、犀象以て樹を為り、琅玕・龍茲・華覲以て実と為すと雖も、人猶お之を抇く莫きなり。是れ何の故ぞや。則ち利を求むるの詭(こころ)緩くして、分を犯すの羞(はじ)大なればなり。
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呂氏春秋・節喪④民の利に於けるや、流矢を犯し、白刃を蹈み、血を渉り肝を抽き、以て之を求む。野人の聞くこと無き者は、親戚・兄弟・知交に忍んで以て利を求む。今此の危き無く、此の醜無くして、其の利為るは甚だ厚く、車に乘り肉を食らい、澤は子孫に及べば、聖人と雖も猶ほ禁ずること能わず、而るを況んや亂國に於いてをや。國彌々大に、家彌々富めば、葬彌々厚く、含珠鱗施・玩好貨寶・鍾鼎壺濫・轝馬衣被戈劍、其れ數うるに勝う可からず。諸々の生を養うの具、從えざる者無く、題湊の室、棺槨數襲、積石積炭、以て其の外を環らす。姦人之を聞き、傳えて以て相告ぐ。上以て威を嚴にし罪を重くして、之を禁ずと雖も、猶は止む可からず。且つ死者彌々久しくなれば、生者彌々疏し。生者彌々疏ければ、則ち守る者彌々怠る。守る者彌々怠りて、葬器故の如くなれば、其の勢い固より安からず。世俗の喪を行うに、之を載するに大輴を以てし、羽旄旌旗雲の如く、僂翣以て之を督し、珠玉以て之に備え、黼黻文章以て之を飭り、紼を引く者左右萬人、以て之を行い、軍制を以て之を立て、然る後に可なり。此を以て世に觀せば、則ち美なり侈なり。此を以て死の為にすれば、則ち不可なり。苟しくも死に便ならば、則ち國を貧しくし民を勞すと雖も、若の慈親孝子なる者の為すを辭せざる所なり。
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呂氏春秋・節喪③古の人、廣野深山に藏して安んぜし者有り。珠玉國寶の謂に非ざるなり。葬は藏ぜざる可からざるなり。葬淺ければ則ち狐狸之を抇り、深ければ則ち水泉に及ぶ。故に凡そ葬は必ず高陵の上に於いてし、以て狐狸の患、水泉の溼を避く。此れ則ち善なり、而れども姦邪・盜賊・寇亂の難を忘るるは、豈に惑わざらんや。之を譬うれば、瞽師の柱を避くるが若し、柱を避けて疾く杙に觸るなり。狐狸・水泉・姦邪・盜賊・寇亂の患いは、此れ杙の大なる者なり。慈親孝子、之を避くる者は、葬の情を得たり。棺槨を善くするは、螻蟻・蛇蟲を避くる所以なり。今、世俗は大いに亂れ、人主は愈々侈にして、其の葬は則ち心死者の為に慮るに非ざるなり。生者以て相矜尚するなり。侈靡なる者は以て榮と為し、節儉なる者は以て陋と為し、死に便ずるを以て故と為さずして、徒らに生者の誹譽を以て務と為す、此れ慈親孝子の心に非ざるなり。父死すと雖も、孝子の之を重んずること怠らず、子死すと雖も、慈親の之を愛すること懈らず。夫れ愛する所重んずる所のものを葬るに、生者の甚だ欲する所を以てす。其の以て之を安んずるや、之を若何せんや。
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