荀子 / 議兵篇
魏氏之武卒,以度取之,衣三屬之甲,操十二石之弩,負服矢五十個,置戈其上,冠冑帶劍,贏三日之糧,日中而趨百里,中試則復其戶,利其田宅,是數年而衰,而未可奪也,改造則不易周也,是故地雖大,其稅必寡,是危國之兵也。
新字:魏氏之武卒,以度取之,衣三属之甲,操十二石之弩,負服矢五十個,置戈其上,冠冑帯剣,贏三日之糧,日中而趨百里,中試則復其戶,利其田宅,是数年而衰,而未可奪也,改造則不易周也,是故地雖大,其税必寡,是危国之兵也。
書き下し
魏氏の武卒は、度を以て之を取る。三属の甲を衣、十二石の弩を操り、矢五十個を負服し、戈を其の上に置き、冑を冠り剣を帯び、三日の糧を贏ちて、日中にして百里を趨る。試に中れば則ち其の戸を復し、其の田宅を利す。是れ数年にして衰うるも、未だ奪うべからざるなり。改め造れば則ち周ねくし易からざるなり。是の故に地は大なりと雖も、其の税は必ず寡なし。是れ危国の兵なり。
現代語訳
魏の国の武卒は、基準を設けて選抜する。三重の鎧を着け、十二石の強弩をあやつり、矢五十本を背負い、その上に戈を載せ、兜をかぶり剣を帯び、三日分の食糧を携えて、半日で百里を走る。この試験に合格すれば、その家の税役を免除し、田地や屋敷を優遇する。だがこの兵は数年もすれば体力が衰えるのに、いったん与えた特権は取り上げられない。作り直そうとしても、すべてに行き渡らせるのは容易でない。そのため領土が広くても、税収は必ず乏しくなる。これは国を危うくする軍である。
解説
魏の「武卒」は、厳しい体力試験に合格した者を精鋭として選抜し、その家の税役を免除して田宅を与える制度でした。斉の出来高払いよりは組織的で、実際に精強でもありました。しかし荀子は、これを「危国の兵」と評します。理由は制度設計の欠陥です。選抜の基準は体力なのに、与える特権は終身。数年で体力は衰えるのに、いったん与えた免税と土地は取り返せない。結果として、戦力にならない特権階級だけが増え、税収は先細っていく。荀子が見ているのは、戦場の強さではなく、その強さを支える財政の持続性です。組織で言えば、過去の実績に対して恒久的な待遇を与え続ける制度が、時間とともにコストだけを残していく構図でしょう。良い人材を厚遇すること自体は正しい。問題は、その厚遇が現在の貢献ではなく過去の合格証に紐づいてしまうことです。制度は入口だけでなく、出口まで設計して初めて完成します。