荀子 / 議兵篇
齊人隆技擊,其技也,得一首者,則賜贖錙金,無本賞矣。是事小敵毳,則偷可用也,事大敵堅,則渙然離耳。若飛鳥然,傾側反覆無日,是亡國之兵也,兵莫弱是矣。是其去賃市傭而戰之幾矣。
新字:斉人隆技擊,其技也,得一首者,則賜贖錙金,無本賞矣。是事小敵毳,則偷可用也,事大敵堅,則渙然離耳。若飛鳥然,傾側反覆無日,是亡国之兵也,兵莫弱是矣。是其去賃市傭而戦之幾矣。
書き下し
斉人は技撃を隆くす。其の技や、一首を得たる者は、則ち錙金を賜贖す。本賞無きなり。是れ小に事え敵毳なれば、則ち偸に用うべきも、大に事え敵堅ければ、則ち渙然として離るるのみ。飛鳥の若く然り、傾側反覆すること日無し。是れ亡国の兵なり。兵は是れより弱きは莫し。是れ其の賃市の傭を去りて之を戦わしむるに幾し。
現代語訳
斉の国は個人の武技を尊ぶ。その方式は、敵の首を一つ取った者に一定の金を与えるというもので、根本にすえた賞というものがない。これでは、小さな事にあたり敵が弱ければ一時しのぎには使えるが、大事にあたり敵が手強ければ、たちまち崩れて離散するだけである。飛ぶ鳥のように、日ならずしてあちこちに傾き翻る。これは国を亡ぼす軍であり、これより弱い軍はない。市場で日雇いを雇って戦わせるのと、ほとんど変わらない。
解説
ここから荀子は、斉・魏・秦という三国の軍制を実例として比較していきます。まず斉の「技撃」。敵の首一つにいくら、という出来高払いの仕組みです。荀子はこれを最低の軍だと断じます。理由は明快で、報酬が個人の手柄に紐づいているだけで、組織として何のために戦うかという「本賞」——根本の理念がないからです。楽な敵なら稼げるので働くが、強敵に当たれば割に合わないので散る。荀子はこれを「市場で日雇いを雇って戦わせるのと変わらない」と切って捨てます。痛烈ですが、現代の組織にも刺さる指摘でしょう。成果に応じた報酬そのものは悪ではありません。しかし、それだけが人を動かす動機になっている組織は、条件が悪くなった瞬間に人が去ります。インセンティブは行動を促しますが、逆境に耐える力は与えてくれない。何のために働くかという根が、そこには要るのです。