荀子 / 君道篇
請問為人君?曰:以禮分施,均遍而不偏。請問為人臣?曰:以禮侍君,忠順而不懈。請問為人父?曰:寬惠而有禮。請問為人子?曰:敬愛而致文。請問為人兄?曰:慈愛而見友。請問為人弟?曰:敬詘而不苟。請問為人夫?曰:致功而不流,致臨而有辨。請問為人妻?曰:夫有禮則柔從聽侍,夫無禮則恐懼而自竦也。此道也,偏立而亂,俱立而治,其足以稽矣。請問兼能之奈何?曰:審之禮也。古者先王審禮以方皇周浹於天下,動無不當也。故君子恭而不難,敬而不鞏,貧窮而不約,富貴而不驕,並遇變態而不窮,審之禮也。故君子之於禮,敬而安之;其於事也,徑而不失;其於人也,寡怨寬裕而無阿;其為身也,謹修飾而不危;其應變故也,齊給便捷而不惑;其於天地萬物也,不務說其所以然,而致善用其材;其於百官之事伎藝之人也,不與之爭能,而致善用其功;其待上也,忠順而不懈;其使下也,均遍而不偏;其交遊也,緣類而有義;其居鄉里也,容而不亂。是故窮則必有名,達則必有功,仁厚兼覆天下而不閔,明達用天地理萬變而不疑,血氣和平,志意廣大,行義塞於天地之間,仁智之極也。夫是之謂聖人;審之禮也。
新字:請問為人君?曰:以礼分施,均遍而不偏。請問為人臣?曰:以礼侍君,忠順而不懈。請問為人父?曰:寛恵而有礼。請問為人子?曰:敬愛而致文。請問為人兄?曰:慈愛而見友。請問為人弟?曰:敬詘而不苟。請問為人夫?曰:致功而不流,致臨而有弁。請問為人妻?曰:夫有礼則柔従聴侍,夫無礼則恐懼而自竦也。此道也,偏立而乱,倶立而治,其足以稽矣。請問兼能之奈何?曰:審之礼也。古者先王審礼以方皇周浹於天下,動無不当也。故君子恭而不難,敬而不鞏,貧窮而不約,富貴而不驕,並遇変態而不窮,審之礼也。故君子之於礼,敬而安之;其於事也,径而不失;其於人也,寡怨寛裕而無阿;其為身也,謹修飾而不危;其応変故也,斉給便捷而不惑;其於天地万物也,不務説其所以然,而致善用其材;其於百官之事伎芸之人也,不与之争能,而致善用其功;其待上也,忠順而不懈;其使下也,均遍而不偏;其交遊也,縁類而有義;其居郷里也,容而不乱。是故窮則必有名,達則必有功,仁厚兼覆天下而不閔,明達用天地理万変而不疑,血気和平,志意広大,行義塞於天地之間,仁智之極也。夫是之謂聖人;審之礼也。
書き下し
請う問う、人の君たるは。曰く、礼を以て分施し、均遍にして偏せず。請う問う、人の臣たるは。曰く、礼を以て君に侍え、忠順にして懈らず。請う問う、人の父たるは。曰く、寛恵にして礼有り。請う問う、人の子たるは。曰く、敬愛にして文を致す。請う問う、人の兄たるは。曰く、慈愛にして友を見す。請う問う、人の弟たるは。曰く、敬詘にして苟くもせず。請う問う、人の夫たるは。曰く、功を致して流れず、臨を致して辨有り。請う問う、人の妻たるは。曰く、夫礼有れば則ち柔従して聴き侍え、夫礼無ければ則ち恐懼して自ら竦む。此の道や、偏り立てば乱れ、俱に立てば治まる、其れ以て稽うるに足る。請う問う、兼ね能くするは之を奈何せん。曰く、之を礼に審らかにするなり。古者先王は礼を審らかにして以て天下に方皇周浹し、動きて当たらざるは無し。故に君子は恭にして難からず、敬にして鞏ならず、貧窮にして約せず、富貴にして驕らず、並びに変態に遇いて窮せざるは、之を礼に審らかにすればなり。故に君子の礼に於けるや、敬して之に安んず。其の事に於けるや、径にして失わず。其の人に於けるや、怨み寡なく寛裕にして阿ること無し。其の身を為むるや、謹み修飾して危うからず。其の変故に応ずるや、斉給便捷にして惑わず。其の天地万物に於けるや、其の然る所以を説くを務めずして、善く其の材を用うるを致す。其の百官の事、伎芸の人に於けるや、之と能を争わずして、善く其の功を用うるを致す。其の上に待するや、忠順にして懈らず。其の下を使うや、均遍にして偏せず。其の交遊するや、類に縁りて義有り。其の郷里に居るや、容れて乱れず。是の故に窮すれば則ち必ず名有り、達すれば則ち必ず功有り、仁厚は兼ねて天下を覆いて閔えず、明達は天地を用い万変を理めて疑わず、血気和平、志意広大、行義は天地の間に塞つ、仁智の極みなり。夫れ是れを之れ聖人と謂う。之を礼に審らかにすればなり。
現代語訳
お尋ねしたい、君主のあり方とは。答えて言う、礼にもとづいて分を定めて施し、平等に行き渡らせて偏らないことだ。臣下のあり方は。礼をもって君に仕え、忠実に従って怠らないことだ。父のあり方は。寛大で恵み深く、しかも礼を保つことだ。子のあり方は。敬い愛して、礼の形を尽くすことだ。兄のあり方は。慈しみ愛して、親しみを示すことだ。弟のあり方は。敬ってへりくだり、いいかげんにしないことだ。夫のあり方は。務めを果たして溺れず、親しみながらもけじめを保つことだ。妻のあり方は。夫に礼があればやわらかに従って仕え、夫に礼がなければ恐れ慎んで身を引き締めることだ。この道は、一方だけが守れば乱れ、両方が守れば治まる。これで十分に確かめられよう。ではこれらすべてを兼ね備えるにはどうすればよいか。答えて言う、礼をつまびらかにすることだ。いにしえの先王は礼をつまびらかにして天下のすみずみまで行き渡らせ、その行いはすべて道理にかなっていた。だから君子はうやうやしくても堅苦しくなく、慎み深くても縮こまらず、貧しくても志を縮めず、富み栄えてもおごらず、さまざまな変事に遭っても行き詰まらない。それは礼をつまびらかにしているからである。だから君子は礼に対しては敬いつつ安らかであり、仕事に対しては簡明で手落ちがなく、人に対しては怨みが少なくおおらかで媚びず、我が身については慎み整えて危うくせず、変事に応じてはすばやく的確で迷わない。天地万物についてはその理由を論じ立てるより、その働きをうまく用いることに努める。役人の職務や技術者に対しては、その技能を張り合わず、その成果をうまく生かすことに努める。上に仕えては忠実に従って怠らず、下を使っては平等に行き渡らせて偏らない。人と交わるときは相手に応じて筋を通し、郷里に暮らすときは人を受け入れて乱れない。だから行き詰まっても必ず名が立ち、栄えれば必ず功績を挙げる。その仁愛の厚さは天下を覆っても憂えることがなく、その明晰さは天地を用いて万変を治めて迷わず、心身は穏やかで、志は広大であり、その正しい行いは天地のあいだに満ちる。仁と智の極みである。これを聖人と呼ぶ。それは礼をつまびらかにしているからである。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『五常訓』巻之四・礼一朱子曰、礼は即理の節文なり。いふ意は、万の行、道理にかなひて、過不及なく、程よきを云ふ。飲食の一事をいはば、うゑかわく時に飲み食ふは理なり。されども、飲み食ふべき理なりとて、みだりに多く飲み食へば、放逸にして、みだりがはしく、又必病を生ず。飲み食ふべき理にあたりて、過不及なく、よき程なるが、理の節文なり。万の事、是を以て知るべし。
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『五常訓』巻之四・礼本立てば末は是より出づる理なり。末のみ修りて、本なきは、誠なくして、礼の道たたず。喪の礼は、ことさら真実ならでは行はれざるものなれば、既に礼の本を説きて、又其内より、喪の礼の本をかかげ出して説き給ふ。
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『五常訓』巻之四・礼一礼記に、子曰、敬ひて礼にあたらざる、これを野と云ふ。敬ふは誠によけれど、礼にかなはざれば、これ野きなり。敬によき程の法あり。過不及ありて、其法にかなはざるは、是礼にあたらざるなり。況やおごりて理にかなはざるは、ことに礼にそむけり。野きより、其害甚し。
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『五常訓』巻之四・礼一威儀をつつしみ、衣冠を正しくし、視ること、聴くこと、言ふこと、動くことの四事につきて、各過不及なく、よき程の法あり。又親につかへ、君につかふるに、各さだまれる法あり。兄弟、夫婦に対し、賓客にまじはり、臣下に対し、民をつかひ、先祖鬼神をまつるも法あり。是礼は、皆天理のよき程なる節文にして、人事の定まれる作法なり。仁義皆理なりといへども、とりわき礼を理といへるに子細あり。理とは行ふべきすぢめなり。万事を行ふに、皆定まりたる作法あり。是人の行ふべきすぢめなり。是即礼なり。ここを以て聖人の説き給へる礼の字は、理の字にあたれり。然れども理といはずして礼といへるに、子細あり。理といへば形と事にあらはれたる迹なくして、虚なり。
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『弁名』禮礼は道の名なり。先王の制作する所の四教・六芸、是れ其の一に居る。所謂経礼三百、威儀三千、是れ其の物なり。六芸は、書・数は庶人の官に在る者、府・史・胥・徒の専ら務むる所と為す。御も亦た士の職とする所なり。射は諸侯に通ずと雖も、其の所謂射は、礼楽を以て之を行ふ、民の射の皮を主とする者の比に非ず。唯だ礼楽のみ乃ち芸の大なる者にして、君子の務むる所なり。而して楽は伶官に掌られ、君子以て徳を養ふのみ。礼に至りては則ち君子此を以て顕業と為す。是を以て孔子少くして礼を知るを以て称せられ、周に之きて礼を老聃に問ひ、杞に之き宋に之き、唯だ礼を之れ求む。子夏の記す所、曾子の問ふ所、七十子皆礼に断断たり。檀弓の諸篇に見ゆ。三代の君子の礼を務むる、以て見るべきのみ。
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『弁名』禮是の礼楽の教は、黙して之を識るに在りと雖も、然れども人の知、至る有り、至らざる有り。故に孔子時有りてか、一隅を挙げて以て其の義を語る。義とは先王の礼を制する所以の義、戴記に載する所皆是れのみ。祇だ人の知、至る有り、至らざる有り。故に七十子の先王を信ずる、孔子の先王を信ずるに及ばず。其の人の七十子を信ずるも、亦た七十子の孔子を信ずるに及ばず。故に其の人に喩さんと欲するの急なる、其の義を論説して已まず。日に以て蔓衍し、以て戦国の時に至りて、義遂に礼を離れて孤行し、復た礼に就きて其の義を言はず。孟子の書を観て見るべきのみ。此れより其の後、古を去ること益〻遠く、義理の説益〻盛んに、囂然として以て天下を乱し、先王・孔子の教、蕩乎として尽く。悲しいかな。
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