貞観政要 / 慎終
貞觀之初,求賢如渴,善人所舉,信而任之,取其所長,恒恐不及。近歲以來,由心好惡,或眾善舉而用之,或一人毀而棄之,或積年任而用之,或一朝疑而遠之。夫行有素履,事有成跡,所毀之人,未必可信於所舉,積年之行,不應頓失於一朝。君子之懷,蹈仁義而弘大德;小人之性,好讒佞以為身謀。陛下不審察其根源,而輕為之臧否,是使守道者日疏,幹求者日進。所以人思茍免,莫能盡力。此其漸不克終六也。
新字:貞観之初,求賢如渇,善人所舉,信而任之,取其所長,恒恐不及。近歳以来,由心好悪,或衆善舉而用之,或一人毀而棄之,或積年任而用之,或一朝疑而遠之。夫行有素履,事有成跡,所毀之人,未必可信於所舉,積年之行,不応頓失於一朝。君子之懐,蹈仁義而弘大徳;小人之性,好讒佞以為身謀。陛下不審察其根源,而軽為之臧否,是使守道者日疏,幹求者日進。所以人思苟免,莫能尽力。此其漸不克終六也。
書き下し
貞観の初め、賢を求むること渇するが如し。善人の挙ぐる所、信じて之に任じ、其の長ずる所を取る。恒に及ばざるを恐る。近歳より以来、心に由りて好悪す。或いは衆善挙げて之を用う。或いは一人毀りて之を棄つ。或いは積年任じて之を用う。或いは一朝疑いて之を遠ざく。夫れ行いに素履有り、事に成跡有り。毀る所の人、未だ必ずしも挙ぐる所より信ずべからず。積年の行いは、応(まさ)に一朝に頓(にわか)に失うべからず。君子の懐は、仁義を蹈みて大徳を弘む。小人の性は、讒佞を好みて以て身の謀と為す。陛下は其の根源を審察せずして、軽々しく之が臧否(ぞうひ)を為す。是れ道を守る者をして日々に疎ならしめ、幹求する者をして日々に進ましむ。所以に人は苟も免るるを思い、能く力を尽くす莫し。此れ其の漸く克く終えざるの六なり。
現代語訳
貞観の初め、賢者を求めること渇するかのようでした。善き人が挙げた者を、信じて任じ、その長所を取る。常に及ばないことを恐れました。近年以来、心のままに好悪を決めておられる。多くの善き人が挙げれば用い、一人が謗れば捨てる。長年任じて用いていた者を、一朝疑って遠ざける。そもそも行いには日頃の履歴があり、事には積み上げた跡がある。謗る人が、必ずしも挙げた人より信じられるとは限りません。積年の行いが、一朝で失われるはずがない。君子の心は、仁義を踏んで大いなる徳を広める。小人の性は、讒言を好んで身の謀とする。陛下はその根源を調べず、軽々しく善悪を判じておられる。だから道を守る者は日々疎まれ、取り入る者は日々進む。だから人はその場しのぎに免れようとし、力を尽くせない。これが、次第に終わりを全うできなくなっている第七です。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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貞観政要・慎終陛下は貞観の初め、己を損じて以て物を利す。今日に至りては、欲を縦にして以て人を労す。卑倹の跡は歳ごとに改まり、驕侈の情は日ごとに異なる。人を憂うるの言は口に絶えずと雖も、而して身を楽しましむるの事は実に心に切なり。或いは時に営む所有らんと欲し、人の諫を致すを慮り、乃ち云う、「若し此を為さずんば、我が身に便ならず」と。人臣の情、何ぞ復た争うべけんや。此れ直だ意は諫者の口を杜(ふさ)ぐに在り。豈に善を択びて行う者と曰わんや。此れ其の漸く克く終えざるの三なり。
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貞観政要・慎終陛下は初めて大位に登るや、高く居りて深く視る。事は惟れ清静。心に嗜欲無し。内は畢弋の物を除き、外は畋猟の源を絶つ。数載の後、志を固くする能わず。十旬の逸無しと雖も、或いは三駆の礼に過ぐ。遂に盤遊の娯しみをして、譏りを百姓に見(あら)わさしむ。鷹犬の貢、遠く四夷に及ぶ。或いは時に教習の処、道路は遥遠なり。晨を侵して出で、夜に入りて方(はじ)めて還る。馳騁を以て歓と為し、不虞の変を慮る莫し。事の測られざる、其れ救うべけんや。此れ其の漸く克く終えざるの七なり。
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貞観政要・慎終陛下は貞観の初め、無為無欲なり。清静の化は、遠く遐荒に被る。之を今に考うるに、其の風は漸く墜つ。言を聴けば則ち遠く上聖に超ゆ。事を論ずれば則ち未だ中主を逾えず。何を以て之を言うや。漢の文・晋の武は倶に上哲に非ず。漢の文は千里の馬を辞し、晋の武は雉頭の裘を焚く。今は則ち駿馬を万里に求め、珍奇を域外に市(か)う。怪を道路に取り、軽んぜらるるを戎狄に見(あら)わす。此れ其の漸く克く終えざるの一なり。
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貞観政要・慎終身を立つるの成敗は、染まる所に在り。蘭芷(らんし)と鮑魚と、之と倶に化す。習う所を慎み、思わざるべからず。陛下は貞観の初め、名節を砥礪し、物に私せず。惟だ善のみ是れ与(くみ)す。君子を親愛し、小人を疎斥す。今は則ち然らず。小人を軽褻(けいせつ)し、君子を礼重す。君子を重んずるや、敬して之を遠ざく。小人を軽んずるや、狎(な)れて之に近づく。之に近づけば則ち其の非を見ず。之を遠ざくれば則ち其の是を知る莫し。其の是を知る莫くんば、則ち間(へだ)てずして自ら疎なり。其の非を見ずんば、則ち時有りて自ら昵(した)しむ。小人に昵近するは、理を致すの道に非ず。君子を疎遠にするは、豈に邦を興すの義ならんや。此れ其の漸く克く終えざるの四なり。
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貞観政要・慎終孔子曰く、「君は臣を使うに礼を以てし、臣は君に事うるに忠を以てす」と。然らば則ち君の臣を待するは、義として薄かるべからず。陛下は初めて大位を践むや、敬して以て下に接す。君恩は下に流れ、臣情は上に達す。咸な力を竭くさんことを思い、心に隠す所無し。頃年より以来、多く忽略する所あり。或いは外官の使に充てられ、事を奏して入朝す。闕庭を睹(み)んことを思い、将に所見を陳べんとす。言わんと欲すれば則ち顔色は接せず。請わんと欲すれば又た恩礼は加わらず。間(まま)短ずる所に因り、其の細過を詰る。聡辯の略有りと雖も、能く其の忠款を申(の)ぶる莫し。而して上下心を同じくし、君臣交泰せんことを望むは、亦た難からずや。此れ其の漸く克く終えざるの八なり。
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貞観政要・誠信王道休明なるより、十有余載。威は海外に加わり、万国は庭に来たる。倉廩は日に積み、土地は日に広し。然れども道徳未だ益ます厚からず、仁義未だ益ます博からざる者は、何ぞや。下を待つの情、未だ誠信を尽くさず。善始の勤有りと雖も、未だ克終の美を睹(み)ざるが故なり。昔、貞観の始め、乃ち善を聞きて驚嘆す。八九年の間に暨(およ)びては、猶お悦びて以て諫に従う。茲より厥(そ)の後、漸く直言を悪む。或いは勉強して容るる所有りと雖も、復た曩時(のうじ)の豁如たるに非ず。謇諤(けんがく)の輩は、稍(やや)龍鱗を避く。便佞の徒は、其の巧辯を肆(ほしいまま)にす。心を同じくする者を擅権と謂い、忠讜なる者を誹謗と謂う。之を朋党と謂わば、忠信なりと雖も疑うべし。之を至公と謂わば、矯偽なりと雖も咎無し。強直なる者は擅権の議を畏れ、忠讜なる者は誹謗の尤(とが)を慮る。正臣は其の言を尽くすを得ず、大臣は能く之と争う莫し。視聴を熒惑(けいわく)し、大道に鬱す。政を妨げ徳を損なうは、其れ此に在るか。故に孔子曰く「利口の邦家を覆す者を悪む」と。蓋し此が為なり。
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