貞観政要 / 慎終
《書》曰:「不作無益害有益,功乃成;不貴異物賤用物,人乃足。犬馬非其土性不畜,珍禽奇獸弗育於國。」陛下貞觀之初,動遵堯、舜,捐金抵璧,反樸還淳。頃年以來,好尚奇異,難得之貨,無遠不臻,珍玩之作,無時能止。上好奢靡而望下敦樸,未之有也。末作滋興,而求豐實,其不可得亦已明矣。此其終不克終五也。
新字:《書》曰:「不作無益害有益,功乃成;不貴異物賤用物,人乃足。犬馬非其土性不畜,珍禽奇獣弗育於国。」陛下貞観之初,動遵堯、舜,捐金抵璧,反樸還淳。頃年以来,好尚奇異,難得之貨,無遠不臻,珍玩之作,無時能止。上好奢靡而望下敦樸,未之有也。末作滋興,而求豊実,其不可得亦已明矣。此其終不克終五也。
書き下し
『書』に曰く、「無益を作して有益を害せずんば、功は乃ち成る。異物を貴びて用物を賤しまずんば、人は乃ち足る。犬馬は其の土性に非ざれば畜わず。珍禽奇獣は国に育(やしな)わず」と。陛下は貞観の初め、動もすれば堯・舜に遵う。金を捐(す)て璧を抵(なげう)ち、朴に反り淳に還る。頃年より以来、奇異を好尚す。得難きの貨は、遠しとして臻(いた)らざる無し。珍玩の作は、時として能く止まる無し。上は奢靡を好みて下の敦朴を望むは、未だ之れ有らざるなり。末作滋(ますま)す興りて、豊実を求む。其の得べからざること亦た已に明らかなり。此れ其の終に克く終えざるの五なり。
現代語訳
『書経』に「無益なことをして有益を害さなければ、功は成る。珍しい物を貴んで実用の物を賤しまなければ、人は足りる。犬や馬はその土地に合わなければ飼わない。珍しい鳥や獣は国で育てない」とあります。陛下は貞観の初め、常に堯や舜に従われました。金を捨て玉を投げ、質朴に還りました。近年以来、奇異なものを好まれる。得難い品は、遠方からも届かないものがない。珍しい玩具の製作は、いつも止まらない。上が奢りを好んで、下に質朴を望むことは、あり得ません。末端の細工がますます興って、豊かさを求める。得られないことは、すでに明らかです。これが、次第に終わりを全うできなくなっている第五です。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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貞観政要・慎終陛下は貞観の初め、無為無欲なり。清静の化は、遠く遐荒に被る。之を今に考うるに、其の風は漸く墜つ。言を聴けば則ち遠く上聖に超ゆ。事を論ずれば則ち未だ中主を逾えず。何を以て之を言うや。漢の文・晋の武は倶に上哲に非ず。漢の文は千里の馬を辞し、晋の武は雉頭の裘を焚く。今は則ち駿馬を万里に求め、珍奇を域外に市(か)う。怪を道路に取り、軽んぜらるるを戎狄に見(あら)わす。此れ其の漸く克く終えざるの一なり。
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貞観政要・慎終陛下は貞観の初め、己を損じて以て物を利す。今日に至りては、欲を縦にして以て人を労す。卑倹の跡は歳ごとに改まり、驕侈の情は日ごとに異なる。人を憂うるの言は口に絶えずと雖も、而して身を楽しましむるの事は実に心に切なり。或いは時に営む所有らんと欲し、人の諫を致すを慮り、乃ち云う、「若し此を為さずんば、我が身に便ならず」と。人臣の情、何ぞ復た争うべけんや。此れ直だ意は諫者の口を杜(ふさ)ぐに在り。豈に善を択びて行う者と曰わんや。此れ其の漸く克く終えざるの三なり。
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貞観政要・慎終陛下は初めて大位に登るや、高く居りて深く視る。事は惟れ清静。心に嗜欲無し。内は畢弋の物を除き、外は畋猟の源を絶つ。数載の後、志を固くする能わず。十旬の逸無しと雖も、或いは三駆の礼に過ぐ。遂に盤遊の娯しみをして、譏りを百姓に見(あら)わさしむ。鷹犬の貢、遠く四夷に及ぶ。或いは時に教習の処、道路は遥遠なり。晨を侵して出で、夜に入りて方(はじ)めて還る。馳騁を以て歓と為し、不虞の変を慮る莫し。事の測られざる、其れ救うべけんや。此れ其の漸く克く終えざるの七なり。
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貞観政要・慎終伏して惟うに陛下、年は甫(はじ)めて弱冠にして、大いに横流を拯(すく)い、区宇を削平し、肇(はじ)めて帝業を開く。貞観の初め、時に方(まさ)に克壮なり。嗜欲を抑損し、躬ら節倹を行う。内外は康寧にして、遂に至治に臻(いた)る。功を論ずれば則ち湯・武も方(くら)ぶるに足らず。徳を語れば則ち堯・舜も未だ遠しと為さず。臣は左右に擢居せられてより、十有余年。帷幄に侍する毎に、屢々明旨を奉ず。常に仁義の道を許し、之を守りて失わず。倹約の志、終始して渝(かわ)らず。一言、邦を興すとは、斯れ之を謂うなり。徳音は耳に在り。敢えて之を忘れんや。而るに頃年より以来、稍(やや)曩志(のうし)に乖(そむ)き、敦朴の理、漸く克く終えず。謹んで聞く所を以て、之を左に列す。
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貞観政要・慎終臣は自古の帝王の図を受け鼎を定むるを観るに、皆な之を万代に伝え、厥(そ)の孫謀を貽(のこ)さんと欲す。故に其の巌廊に垂拱し、政を天下に布く。其の道を語るや、必ず淳朴を先にして浮華を抑う。其の人を論ずるや、必ず忠良を貴びて邪佞を鄙(いや)しむ。制度を言うや、則ち奢靡を絶ちて倹約を崇ぶ。物産を談ずるや、則ち穀帛を重んじて珍奇を賤しむ。然れども命を受くるの初めは、皆な之に遵いて以て治を成す。稍(やや)安んずるの後は、多く之に反して俗を敗る。其の故は何ぞや。豈に万乗の尊に居り、四海の富を有し、言を出して己に逆らう莫く、為す所は人必ず従うを以て、公道は私情に溺れ、礼節は嗜欲に虧くるが故ならずや。語に曰く、「之を知るは難きに非ず。之を行うは難しと為す。之を行うは難きに非ず。之を終うるは斯れ難し」と。言う所は信なり。
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貞観政要・征伐夫れ珍玩技巧は、喪国の斧斤と為る。珠玉錦繡は、実に迷心の酖毒なり。窃かに見るに、服玩は鮮靡にして、自然に変化するが如し。職貢の奇珍は、神仙の制する所の若し。華を季俗に馳すと雖も、実に素を淳風に敗る。是れ知る、漆器は叛を延(まね)くの方に非ざるも、桀は之を造りて人叛す。玉杯は豈に亡を招くの術ならんや、紂は之を用いて国亡ぶ。方に験す、侈麗の源は、遏(とど)めざるべからざるを。夫れ法を倹に作るも、猶お其の奢を恐る。法を奢に作らば、何を以て後を制せんや。伏して惟うに陛下、明は未形を照らし、智は無際に周し。奥秘を麟閣に窮め、探賾(たんさく)を儒林に尽くす。千王の治乱の蹤、百代の安危の跡、興亡衰乱の数、得失成敗の機は、固より亦た心府の中に包吞し、目囲の内に循環す。乃ち宸衷久しく察す。一二の言を假らず。惟だ之を知るは難きに非ず、之を行うは易からず。志は業の著るるに驕り、体は時の安きに逸す。伏して願わくは志を抑え心を裁し、終わりを慎み始めを成し、軽過を削りて以て重徳を添え、今の是を択びて以て前の非に替えば、則ち鴻名は日月と窮まり無く、盛業は乾坤と永く泰からん。
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