貞観政要 / 慎終
貞觀十二年,太宗謂侍臣曰:「朕讀書見前王善事,皆力行而不倦,其所任用公輩數人,誠以為賢。然致理比於三、五之代,猶為不逮,何也?」魏徵對曰:「今四夷賓服,天下無事,誠曠古所未有。然自古帝王初即位者,皆欲勵精為政,比跡於堯、舜;及其安樂也,則驕奢放逸,莫能終其善。人臣初見任用者,皆欲匡主濟時,追縱於稷、契;及其富貴也,則思茍全官爵,莫能盡其忠節。若使君臣常無懈怠,各保其終,則天下無憂不理,自可超邁前古也。」太宗曰:「誠如卿言。」
新字:貞観十二年,太宗謂侍臣曰:「朕読書見前王善事,皆力行而不倦,其所任用公輩数人,誠以為賢。然致理比於三、五之代,猶為不逮,何也?」魏徴対曰:「今四夷賓服,天下無事,誠曠古所未有。然自古帝王初即位者,皆欲勵精為政,比跡於堯、舜;及其安楽也,則驕奢放逸,莫能終其善。人臣初見任用者,皆欲匡主済時,追縦於稷、契;及其富貴也,則思茍全官爵,莫能尽其忠節。若使君臣常無懈怠,各保其終,則天下無憂不理,自可超邁前古也。」太宗曰:「誠如卿言。」
書き下し
貞観十二年、太宗侍臣に謂いて曰く、「朕は書を読みて前王の善事を見る。皆な力行して倦まず。其の任用する所の公輩数人は、誠に以て賢と為す。然れども理を致すこと三・五の代に比すれば、猶お逮ばずと為す。何ぞや」と。魏徴対えて曰く、「今、四夷は賓服し、天下は事無し。誠に曠古の未だ有らざる所なり。然れども古より帝王の初めて位に即く者は、皆な精を励まして政を為し、跡を堯・舜に比せんと欲す。其の安楽なるに及ぶや、則ち驕奢放逸にして、能く其の善を終うる莫し。人臣の初めて任用せらるる者は、皆な主を匡し時を済(すく)い、縦(あと)を稷・契に追わんと欲す。其の富貴なるに及ぶや、則ち苟も官爵を全うせんことを思い、能く其の忠節を尽くす莫し。若し君臣をして常に懈怠無く、各々其の終わりを保たしめば、則ち天下は理まらざるを憂うる無く、自ら前古を超邁すべし」と。太宗曰く、「誠に卿の言の如し」と。
現代語訳
貞観十二年、太宗が側近の臣に言った。「私は書を読んで、前代の王の善き事を見る。みな力を尽くして行い、倦まない。任用している諸君数人は、まことに賢者だと思う。しかし治まり方は、三皇五帝の時代に比べれば、まだ及ばない。なぜだろうか」。魏徴が答えて言った。「今、四方の異民族は服し、天下に事はありません。まことに古今にないことです。しかし昔から帝王が初めて位に就いた時は、みな励んで政治を行い、堯や舜に並ぼうとします。安楽になると、驕り奢り放縦になり、善を終えられる者はありません。臣下が初めて任用された時は、みな主君を正し時代を救い、稷や契に続こうとします。富貴になると、その場しのぎに官爵を保とうと思い、忠節を尽くせる者はありません。もし君臣が常に怠らず、それぞれ終わりを保てれば、天下は治まらないことを憂える必要がなく、自ずと古を超えられます」。