貞観政要 / 災祥
伏惟陛下覽古今之事,察安危之機,上以社稷為重,下以億兆在念。明選舉,慎賞罰,進賢才,退不肖。聞過即改,從諫如流。為善在於不疑,出令期於必信。頤神養性,省遊畋之娛;雲奢從儉,減工役之費。務靜方內,而不求辟土;載橐弓矢,而不忘武備。凡此數者,雖為國之恒道,陛下之所常行。臣之愚昧,惟願陛下思而不怠,則至道之美與三、五比隆,億載之祚與天地長久。雖使桑穀為妖,龍蛇作孽,雉雊於鼎耳,石言於晉地,猶當轉禍為福,變災為祥,況雨水之患,陰陽恒理,豈可謂天譴而系聖心哉?臣聞古人有言:「農夫勞而君子養焉,愚者言而智者擇焉。」輒陳狂瞽,伏待斧鉞。
新字:伏惟陛下覧古今之事,察安危之機,上以社稷為重,下以億兆在念。明選舉,慎賞罰,進賢才,退不肖。聞過即改,従諫如流。為善在於不疑,出令期於必信。頤神養性,省遊畋之娯;雲奢従倹,減工役之費。務静方内,而不求辟土;載橐弓矢,而不忘武備。凡此数者,雖為国之恒道,陛下之所常行。臣之愚昧,惟願陛下思而不怠,則至道之美与三、五比隆,億載之祚与天地長久。雖使桑穀為妖,竜蛇作孽,雉雊於鼎耳,石言於晋地,猶当転禍為福,変災為祥,況雨水之患,陰陽恒理,豈可謂天譴而系聖心哉?臣聞古人有言:「農夫労而君子養焉,愚者言而智者択焉。」輒陳狂瞽,伏待斧鉞。
書き下し
伏して惟うに陛下、古今の事を覧、安危の機を察す。上は社稷を以て重しと為し、下は億兆を以て念に在らしむ。選挙を明らかにし、賞罰を慎み、賢才を進め、不肖を退く。過ちを聞かば即ち改め、諫に従うこと流るるが如し。善を為すは疑わざるに在り。令を出すは必ず信なるを期す。神を頤(やしな)い性を養い、遊畋の娯しみを省く。奢を云(へ)らして倹に従い、工役の費を減ず。務めて方内を静かにして、土を辟(ひら)くを求めず。弓矢を載橐(さいたく)して、武備を忘れず。凡そ此の数者は、国を為むるの恒道なりと雖も、陛下の常に行う所なり。臣の愚昧は、惟だ願わくは陛下、思いて怠らずんば、則ち至道の美は三・五と隆きを比べ、億載の祚は天地と長久ならん。桑穀をして妖を為し、龍蛇をして孽(わざわい)を作し、雉は鼎耳に雊(な)き、石は晋地に言うと雖も、猶お当に禍を転じて福と為し、災を変じて祥と為すべし。況んや雨水の患いは、陰陽の恒理なり。豈に天譴と謂いて聖心に系(か)くべけんや。臣聞く、古人に言える有り、「農夫は労して君子は養わる。愚者は言いて智者は択ぶ」と。輒(すなわ)ち狂瞽を陳ぶ。伏して斧鉞を待つ。
現代語訳
伏して思いますに、陛下は古今の事を見、安危の機を察しておられる。上は国家を重んじ、下は民を念に置かれる。人材の登用を明らかにし、賞罰を慎み、賢才を進め、無能を退ける。過ちを聞けば改め、諫めに従うこと流れるようです。善を行うのに迷わず、命令を出せば必ず信を守る。心を養い性を養い、狩りの娯しみを省く。奢りを減らして倹に従い、工事の費用を減らす。国内を静めることに努め、領土を広げようとしない。弓矢を袋に収めながら、備えを忘れない。これらはみな国を治める常の道であり、陛下が常に行っておられることです。臣の愚昧なる願いは、ただ陛下が思い続けて怠らないこと。そうすれば至高の道の美は三皇五帝に比べられ、万代の運は天地と長久でしょう。桑や穀が妖をなし、竜や蛇が禍をなし、雉が鼎の耳で鳴き、石が晋の地で語ったとしても、禍を転じて福とし、災を変じて瑞とすべきです。まして雨水の患いは、陰陽の常の理です。どうして天の咎めだと言って、聖なる心に懸けられるのですか。臣はこう聞いております。古人は『農夫が働いて君子が養われる。愚者が言って智者が択ぶ』と言いました。あえて盲言を述べます。伏して斧鉞を待ちます。
解説
この章句が説くこと
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貞観政要・慎終臣聞く「禍福に門無く、唯だ人の召く所」「人に釁(きん)無くんば、妖は妄りに作らず」と。伏して惟うに陛下、天を統べ宇を御すること十有三年。道は寰中に洽(あまね)く、威は海外に加わる。年穀は豊稔、礼教は聿(ここ)に興る。比屋は封ずべきに喩え、菽粟は水火に同じ。今歳に暨(およ)び、天災流行す。炎気は旱を致し、乃ち遠く郡国に被る。凶醜は孽を作し、忽ち近く轂下に起こる。夫れ天は何をか言わんや。象を垂れて誡を示す。斯れ誠に陛下の驚懼するの辰、憂勤するの日なり。若し誡を見て懼れ、善を択びて従い、周文の小心に同じく、殷湯の己を罪するを追い、前王の礼を致す所以の者は、勤めて之を行い、今時の徳を敗る所以の者は、思いて之を改め、物と更新し、人の視聴を易(か)えば、則ち宝祚は疆り無く、普天は幸甚ならん。何の禍敗か之れ有らんや。然らば則ち社稷の安危、国家の治乱は、一人に在るのみ。当今、太平の基は、既に極天の峻を崇(たか)くす。九仞の積は、猶お一簣(き)の功を虧く。千載の休期、時は再び得難し。明主は為すべくして為さず。微臣の郁結して長嘆する所以の者なり。
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貞観政要・災祥貞観十一年、大雨あり。谷水溢れ、洛の城門を沖(つ)き、洛陽宮に入る。平地五尺。宮寺を毀(こぼ)つこと十九。漂う所七百余家。太宗侍臣に謂いて曰く、「朕の不徳、皇天は災を降す。将(は)た視聴の明ならず、刑罰の度を失うに由らん。遂に陰陽をして舛謬(せんびゅう)せしめ、雨水をして常に乖(そむ)かしむ。物を矜れみ己を罪す。載(すなわ)ち憂惕を懐く。朕又た何の情ありて独り滋味を甘しとせんや。尚食をして肉料を断ち、蔬食を進めしむべし。文武百官は各々封事を上り、極めて得失を言え」と。中書侍郎岑文本、封事を上りて曰く、
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貞観政要・災祥貞観六年、太宗侍臣に謂いて曰く、「朕は此に衆議の祥瑞を以て美事と為し、頻りに表して賀慶する有るを見る。朕が本心の如きは、但だ天下をして太平ならしめ、家は給し人は足らば、祥瑞無しと雖も、亦た徳を堯・舜に比すべし。若し百姓足らず、夷狄内侵せば、縦い芝草の街衢に遍く、鳳凰の苑囿に巣くう有るとも、亦た何ぞ桀・紂に異ならんや。嘗て聞く、石勒の時、郡吏の連理の木を燃やし、白雉の肉を煮て吃(くら)う有り、と。豈に称して明主と為すを得んや。又た隋の文帝は深く祥瑞を愛す。秘書監王劭を遣わして衣冠を著け、朝堂に在りて考使に対して香を焚き、『皇隋感瑞経』を読ましむ。旧(もと)嘗て此の事を伝説するを見る。実に以て笑うべしと為す。夫れ人君と為らば、当に須らく至公にして天下を理め、以て万姓の歓心を得べし。若し堯・舜、上に在らば、百姓は之を敬すること天地の如く、之を愛すること父母の如し。動作興事すれば、人は皆な之を楽しみ、号を発し令を施せば、人は皆な之を悦ぶ。此れ是れ大祥瑞なり。此より後、諸州の有らゆる祥瑞は、並びに申奏を用いざれ」と。
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貞観政要・征伐貞観已来、二十有余載。風は調い雨は順い、年は登り歳は稔る。人に水旱の弊無く、国に饑饉の災無し。昔、漢の武帝は、守文の常主なり。猶お刻玉の符に登る。斉の桓公は、小国の庸君なり。尚お泥金の事を塗る。望むらくは陛下、功を推して己を損じ、徳を譲りて居らざれ。億兆は心を傾くるも、猶お告成の礼を闕(か)く。雲・亭は謁を佇(ま)つも、未だ升中の儀を展べず。此の功徳は、以て百王を咀嚼し、千代を網羅するに足る者なり。然れども古人に云える有り、「休(よ)しと雖も休しとする勿かれ」と。良に以有るなり。初めを守り末を保つは、聖哲も罕(まれ)に兼ぬ。是れ知る、業の大なる者は驕り易し。願わくは陛下、之を難しとせよ。善く始むる者は終わり難し。願わくは陛下、之を易しとせよ。
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貞観政要・公平陛下は聡明神武、天姿英睿なり。志は泛愛に存し、引納すること多塗なり。善を好むも甚だしくは人を択ばず。悪を疾(にく)むも未だ佞を遠ざくる能わず。又た言を出すに隠す無く、悪を疾むこと太(はなは)だ深し。人の善を聞くも或いは未だ全くは信ぜず。人の悪を聞けば以て必然と為す。独見の明有りと雖も、猶お恐らくは理は或いは未だ尽くさざらん。何となれば、君子は人の善を揚げ、小人は人の悪を訐(あば)く。悪を聞きて必ず信ぜば、則ち小人の道長ぜん。善を聞きて或いは疑わば、則ち君子の道消えん。国家を為むる者は、君子を進めて小人を退くるに急なり。乃ち君子の道をして消えしめ、小人の道をして長ぜしめば、則ち君臣は序を失い、上下は否隔す。乱亡を恤(うれ)えずんば、将た何を以て治めんや。且つ世俗常人は、心に遠慮無く、情は告訐に在り、好んで朋党を言う。夫れ善を以て相い成すを同徳と謂い、悪を以て相い済(な)すを朋党と謂う。今は則ち清濁共に流れ、善悪別無し。告訐を以て誠直と為し、同徳を以て朋党と為す。之を朋党と為さば、則ち事は信ずべき無しと謂う。之を誠直と為さば、則ち言は皆な取るべしと謂う。此れ君恩の下に結ばれざる所以、臣忠の上に達せざる所以なり。大臣は辯正する能わず、小臣は之を敢えて論ずる莫し。遠近は風を承け、混然として俗を成す。国家の福に非ず、治を為むるの道に非ず。適(まさ)に以て奸邪を長じ、視聴を乱し、人君をして信ずる所を知らざらしめ、臣下をして相い安んずるを得ざらしむるに足る。若し遠慮せず、深く其の源を絶たずんば、則ち後患は未だ之れ息(や)まざるなり。今の幸いにして未だ敗れざるは、君に遠慮有りて、始めに之を失うと雖も、必ず終わりに之を得るに由る故なり。若し時に少しく隳(くず)るるに逢い、往きて返らずんば、之を悔いんと欲すと雖も、必ず及ぶ所無からん。既に以て諸を後嗣に伝うべからず。復た何を以て法を将来に垂れんや。且つ夫れ善を進め悪を黜(しりぞ)くるは、人に施す者なり。古を以て鑑と作すは、己に施す者なり。貌を鑑るは止水に在り、己を鑑るは哲人に在り。能く古の哲王を以て、己の行事に鑑みば、則ち貌の妍醜は宛然として目に在り、事の善悪は自ら心に得ん。司過の史を労する無く、芻蕘の議を仮らず、巍巍の功は日に著れ、赫赫の名は弥々遠からん。人君と為る者、務めざるべけんや。
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貞観政要・封建陛下、聖慈に仰ぎ順い、宝暦を嗣膺(しよう)せしより、情は治を致すに深く、前王を綜覈(そうかく)す。至道は名無く、言象の紀す所と雖も、略ぼ梗概を陳ぶるに、実に庶幾(ちか)き所なり。愛敬烝烝として、労して倦まざるは、大舜の孝なり。安を内豎に訪い、親しく御膳を嘗むるは、文王の徳なり。憲司の罪を讞(さだ)め、尚書の獄を奏する毎に、大小必ず察し、枉直咸な挙ぐ。趾を断つの法を以て、大辟の刑に易(か)う。仁心隠惻、幽顕に貫徹するは、大禹の辜(つみ)に泣くなり。色を正し直言し、心を虚しくして受納し、鄙訥を簡(えら)ばず、芻蕘を棄つる無きは、帝堯の諫を求むるなり。名教を弘奨し、学徒を勧励す。既に明経を青紫に擢(ぬきん)で、将に碩儒を卿相に升(のぼ)せんとするは、聖人の善誘なり。群臣は宮中の暑湿にして、寝饍或いは乖(そむ)くを以て、御を高明に移し、一小閣を営まんことを請う。遂に十家の産を惜しみ、竟に子来の願いを抑う。陰陽の感を吝(お)しまず、以て卑陋の居に安んず。頃歳、霜倹にして、普天饑饉なり。喪乱甫(はじ)めて爾(しか)り、倉廩は空虚なり。聖情矜湣(きょうびん)し、勤めて賑恤を加う。竟に一人の道路に流離する無し。猶お且つ食は惟だ藜藿(れいかく)、楽は簨虡(しんきょ)を徹す。言えば必ず淒動し、貌は臒痩(かくそう)を成す。公旦は重訳を喜び、文命は其の即叙を矜(ほこ)る。陛下は四夷の款附し、万里の仁に帰するを見る毎に、必ず退きて思い進みて省み、神を凝らし慮を動かす。妄りに中国を労して、以て遠方を求め、万古の英声を藉らずして、以て一時の茂実を存せんことを恐る。心は憂労に切に、志は遊幸を絶つ。旦毎に朝を視、聴受して倦むこと無し。智は万物に周く、道は天下に済(な)る。朝を罷むるの後、名臣を引進し、是非を討論し、備さに肝膈を尽くす。惟だ政事に及び、更に異辞無し。才(わず)かに日昃(かたむ)けば、必ず才学の士に命じ、賜うに清閑を以てす。高く典籍を談じ、雑うるに文詠を以てし、間(まじ)うるに玄言を以てす。乙夜に疲れを忘れ、中宵に寐ねず。此の四道は、独り往初に邁(こ)ゆ。斯れ実に生民より以来、一人のみ。茲の風化を弘め、四方に昭示せば、信に期月の間を以て、天壌に弥綸すべし。而れども淳粋尚お阻まれ、浮詭未だ移らざるは、此れ習うこと久しきに由る。卒(にわか)に変じ難し。請う、雕を斫(き)りて器と成し、質を以て文に代え、刑措の教一たび行われ、登封の礼云に畢(お)わるを待ちて、然る後に疆理の制を定め、山河の賞を議せば、未だ晩しと為さざるなり。『易』に称す、「天地は盈虚し、時と消息す。況んや人に於てをや」と。美なるかな、斯の言や。
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