貞観政要 / 征伐
夫珍玩技巧,為喪國之斧斤;珠玉錦繡,實迷心之酖毒。竊見服玩鮮靡,如變化於自然,職貢奇珍,若神仙之所制,雖馳華於季俗,實敗素於淳風。是知漆器非延叛之方,桀造之而人叛;玉杯豈招亡之術,紂用之而國亡。方驗侈麗之源,不可不遏。夫作法於儉,猶恐其奢;作法於奢,何以制後?伏惟陛下,明照未形,智周無際,窮奧秘於麟閣,盡探賾於儒林。千王治亂之蹤,百代安危之跡,興亡衰亂之數,得失成敗之機,固亦包吞心府之中,循環目圍之內,乃宸衷久察,無假一二言焉。惟知之非難,行之不易,志驕於業著,體逸於時安。伏願抑志裁心,慎終成始,削輕過以添重德,擇今是以替前非,則鴻名與日月無窮,盛業與乾坤永泰!
新字:夫珍玩技巧,為喪国之斧斤;珠玉錦繍,実迷心之酖毒。窃見服玩鮮靡,如変化於自然,職貢奇珍,若神仙之所制,雖馳華於季俗,実敗素於淳風。是知漆器非延叛之方,桀造之而人叛;玉杯豈招亡之術,紂用之而国亡。方験侈麗之源,不可不遏。夫作法於倹,猶恐其奢;作法於奢,何以制後?伏惟陛下,明照未形,智周無際,窮奥秘於麟閣,尽探賾於儒林。千王治乱之蹤,百代安危之跡,興亡衰乱之数,得失成敗之機,固亦包呑心府之中,循環目囲之内,乃宸衷久察,無仮一二言焉。惟知之非難,行之不易,志驕於業著,体逸於時安。伏願抑志裁心,慎終成始,削軽過以添重徳,択今是以替前非,則鴻名与日月無窮,盛業与乾坤永泰!
書き下し
夫れ珍玩技巧は、喪国の斧斤と為る。珠玉錦繡は、実に迷心の酖毒なり。窃かに見るに、服玩は鮮靡にして、自然に変化するが如し。職貢の奇珍は、神仙の制する所の若し。華を季俗に馳すと雖も、実に素を淳風に敗る。是れ知る、漆器は叛を延(まね)くの方に非ざるも、桀は之を造りて人叛す。玉杯は豈に亡を招くの術ならんや、紂は之を用いて国亡ぶ。方に験す、侈麗の源は、遏(とど)めざるべからざるを。夫れ法を倹に作るも、猶お其の奢を恐る。法を奢に作らば、何を以て後を制せんや。伏して惟うに陛下、明は未形を照らし、智は無際に周し。奥秘を麟閣に窮め、探賾(たんさく)を儒林に尽くす。千王の治乱の蹤、百代の安危の跡、興亡衰乱の数、得失成敗の機は、固より亦た心府の中に包吞し、目囲の内に循環す。乃ち宸衷久しく察す。一二の言を假らず。惟だ之を知るは難きに非ず、之を行うは易からず。志は業の著るるに驕り、体は時の安きに逸す。伏して願わくは志を抑え心を裁し、終わりを慎み始めを成し、軽過を削りて以て重徳を添え、今の是を択びて以て前の非に替えば、則ち鴻名は日月と窮まり無く、盛業は乾坤と永く泰からん。
現代語訳
そもそも珍しい玩具や技巧は、国を滅ぼす斧です。珠玉や錦の刺繍は、実に心を惑わす毒です。ひそかに見ますに、身につける品は華やかで、自然に生じたかのようです。貢がれた珍宝は、神仙が作ったかのようです。華やかさを末世の風俗に走らせても、実は淳朴な風を損ないます。ここから分かります。漆器が反乱を招く方法ではないのに、桀がそれを作って民が背いた。玉の杯が滅亡を招く術でないのに、紂がそれを用いて国が滅んだ。奢りと華美の源は、止めなければならないと分かります。倹約を法としても、なお奢りを恐れます。奢りを法とすれば、どうして後を制せましょう。伏して思いますに、陛下は明が形になる前を照らし、知は限りなく及ぶ。書庫で奥義を極め、儒学の林で深奥を尽くされた。千の王の治乱の跡、百代の安危の跡、興亡の数、得失の機は、もとより心の中に包み、目の内に巡っています。長くお考えのこと。一言二言を借りる必要もありません。ただ知ることは難しくなく、行うことが易しくない。志は事業の輝きに驕り、体は時の安らぎに緩みます。伏して願わくは、志を抑え心を裁ち、終わりを慎み始めを成し、軽い過ちを削って重い徳を添え、今の正しさを択んで前の誤りに替えられれば、大いなる名は日月とともに窮まりなく、盛んな業は天地とともに永く安らかでしょう。
解説
この章句が説くこと
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貞観政要・征伐貞観已来、二十有余載。風は調い雨は順い、年は登り歳は稔る。人に水旱の弊無く、国に饑饉の災無し。昔、漢の武帝は、守文の常主なり。猶お刻玉の符に登る。斉の桓公は、小国の庸君なり。尚お泥金の事を塗る。望むらくは陛下、功を推して己を損じ、徳を譲りて居らざれ。億兆は心を傾くるも、猶お告成の礼を闕(か)く。雲・亭は謁を佇(ま)つも、未だ升中の儀を展べず。此の功徳は、以て百王を咀嚼し、千代を網羅するに足る者なり。然れども古人に云える有り、「休(よ)しと雖も休しとする勿かれ」と。良に以有るなり。初めを守り末を保つは、聖哲も罕(まれ)に兼ぬ。是れ知る、業の大なる者は驕り易し。願わくは陛下、之を難しとせよ。善く始むる者は終わり難し。願わくは陛下、之を易しとせよ。
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貞観政要・慎終臣は自古の帝王の図を受け鼎を定むるを観るに、皆な之を万代に伝え、厥(そ)の孫謀を貽(のこ)さんと欲す。故に其の巌廊に垂拱し、政を天下に布く。其の道を語るや、必ず淳朴を先にして浮華を抑う。其の人を論ずるや、必ず忠良を貴びて邪佞を鄙(いや)しむ。制度を言うや、則ち奢靡を絶ちて倹約を崇ぶ。物産を談ずるや、則ち穀帛を重んじて珍奇を賤しむ。然れども命を受くるの初めは、皆な之に遵いて以て治を成す。稍(やや)安んずるの後は、多く之に反して俗を敗る。其の故は何ぞや。豈に万乗の尊に居り、四海の富を有し、言を出して己に逆らう莫く、為す所は人必ず従うを以て、公道は私情に溺れ、礼節は嗜欲に虧くるが故ならずや。語に曰く、「之を知るは難きに非ず。之を行うは難しと為す。之を行うは難きに非ず。之を終うるは斯れ難し」と。言う所は信なり。
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貞観政要・倹約貞観四年、太宗侍臣に謂いて曰く、「宮宇を崇飾し、池台に遊賞するは、帝王の欲する所、百姓の欲せざる所なり。帝王の欲する所の者は放逸、百姓の欲せざる所の者は労弊なり。孔子云う、『一言にして以て終身之を行うべき者有るか。其れ恕か。己の欲せざる所、人に施す勿かれ』と。労弊の事は、誠に百姓に施すべからず。朕は尊きこと帝王と為り、富は四海を有す。事毎に己に由る。誠に能く自ら節せん。若し百姓の欲せずんば、必ず能く其の情に順わん」と。魏徴曰く、「陛下は本と百姓を憐れみ、毎に己を節して以て人に順う。臣聞く、『欲を以て人に従う者は昌え、人を以て己を楽しましむる者は亡ぶ』と。隋の煬帝は志は無厭に在り、惟だ奢侈を好む。所司、供奉営造有る毎に、小しく意に称(かな)わずんば、則ち峻罰厳刑有り。上の好む所は、下必ず甚だしき有り。競いて無限を為し、遂に滅亡に至る。此れ書籍の伝うる所に非ず。亦た陛下の目に親しく見る所なり。其の無道なるが為に、故に天は陛下に命じて之に代わらしむ。陛下若し以て足れりと為さば、今日啻(ただ)に足るのみならず。若し以て足らずと為さば、更に万倍此に過ぐるも、亦た足らず」と。太宗曰く、「公の奏対する所は甚だ善し。公に非ずんば、朕安くんぞ此の言を聞くを得んや」と。
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貞観政要・奢縦今、百姓は喪乱の後を承け、隋の時に比すれば才(わず)かに十分の一なり。而して官の徭役に供すること、道路に相い継ぐ。兄去りて弟還り、首尾絶えず。遠き者は往来五六千里。春秋冬夏、略ぼ休む時無し。陛下は恩詔有りて、其の減省を令する毎に、而れども有司の作は既に廃せず。自然に人を須(もと)む。徒らに文書を行い、之を役すること故(もと)の如し。臣は毎に訪問す、四五年来、百姓は頗る怨嗟の言有り。陛下の之を存養せざるを以てなり。昔、唐堯は茅茨土階、夏禹は悪衣菲食。此くの如きの事は、臣は復た今に行うべからざるを知る。漢の文帝は百金の費を惜しみ、露台の役を輟(や)む。上書の囊を集めて以て殿帷と為す。幸する所の夫人は衣は地を曳かず。景帝に至りては、錦繡綦組(きそ)の女工を妨害するを以て、特に詔して之を除く。百姓の安楽なる所以なり。孝武帝に至りては、奢を窮め侈を極むと雖も、而れども文・景の遺徳を承く。故に人心動かず。向(も)し高祖の後に即ち武帝有らしめば、天下は必ず全うする能わざらん。此れ時代に於て差(やや)近し。事跡は見るべし。今、京師及び益州の諸処に営造供奉する器物、並びに諸王妃主の服飾は、議する者は皆な以て倹と為さず。臣聞く、昧旦に丕(おお)いに顕るるも、後世は猶お怠る。法を理に作るも、其の弊は猶お乱る、と。陛下は少(わか)くして民間に処り、百姓の辛苦を知る。前代の成敗は、目に親しく見る所なり。尚お猶お此くの如し。而して皇太子は深宮に生長し、外事を更(へ)ず。即ち万歳の後、固より聖慮の当に憂うべき所なり。
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貞観政要・刑法夫れ形の美悪を鑒(かんが)むるは、必ず止水に就く。国の安危を鑒むるは、必ず亡国に取る。故に『詩』に曰く、「殷鑑遠からず。夏后の世に在り」と。又た曰く、「柯を伐り柯を伐る。其の則は遠からず」と。臣願わくは当今の動静、必ず隋氏を思いて以て殷鑑と為さば、則ち存亡の治乱は、得て知るべし。若し能く其の危うき所以を思わば、則ち安し。其の乱るる所以を思わば、則ち治まる。其の亡ぶる所以を思わば、則ち存す。存亡の在る所を知り、嗜欲を節して以て人に従い、遊畋の娯しみを省き、靡麗の作を息(や)め、不急の務を罷め、偏聴の怒りを慎み、忠厚に近づき、便佞を遠ざけ、耳に悦ぶの邪説を杜(ふさ)ぎ、口に苦きの忠言を甘しとし、進み易きの人を去り、得難きの貨を賤しみ、堯舜の誹謗を采り、禹湯の己を罪するを追い、十家の産を惜しみ、百姓の心に順い、近く諸を身に取り、恕して以て物を待し、労謙して以て益を受くるを思い、自ら満たずして以て損を招かず。動く有らば則ち庶類は以て和し、言を出せば千里も斯に応ぜん。上徳を前載に超え、風声を後昆に樹つ。此れ聖哲の宏観にして、帝王の大業なり。能事は斯に畢(お)わる。慎み守るに在るのみ。
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貞観政要・公平陛下は聡明神武、天姿英睿なり。志は泛愛に存し、引納すること多塗なり。善を好むも甚だしくは人を択ばず。悪を疾(にく)むも未だ佞を遠ざくる能わず。又た言を出すに隠す無く、悪を疾むこと太(はなは)だ深し。人の善を聞くも或いは未だ全くは信ぜず。人の悪を聞けば以て必然と為す。独見の明有りと雖も、猶お恐らくは理は或いは未だ尽くさざらん。何となれば、君子は人の善を揚げ、小人は人の悪を訐(あば)く。悪を聞きて必ず信ぜば、則ち小人の道長ぜん。善を聞きて或いは疑わば、則ち君子の道消えん。国家を為むる者は、君子を進めて小人を退くるに急なり。乃ち君子の道をして消えしめ、小人の道をして長ぜしめば、則ち君臣は序を失い、上下は否隔す。乱亡を恤(うれ)えずんば、将た何を以て治めんや。且つ世俗常人は、心に遠慮無く、情は告訐に在り、好んで朋党を言う。夫れ善を以て相い成すを同徳と謂い、悪を以て相い済(な)すを朋党と謂う。今は則ち清濁共に流れ、善悪別無し。告訐を以て誠直と為し、同徳を以て朋党と為す。之を朋党と為さば、則ち事は信ずべき無しと謂う。之を誠直と為さば、則ち言は皆な取るべしと謂う。此れ君恩の下に結ばれざる所以、臣忠の上に達せざる所以なり。大臣は辯正する能わず、小臣は之を敢えて論ずる莫し。遠近は風を承け、混然として俗を成す。国家の福に非ず、治を為むるの道に非ず。適(まさ)に以て奸邪を長じ、視聴を乱し、人君をして信ずる所を知らざらしめ、臣下をして相い安んずるを得ざらしむるに足る。若し遠慮せず、深く其の源を絶たずんば、則ち後患は未だ之れ息(や)まざるなり。今の幸いにして未だ敗れざるは、君に遠慮有りて、始めに之を失うと雖も、必ず終わりに之を得るに由る故なり。若し時に少しく隳(くず)るるに逢い、往きて返らずんば、之を悔いんと欲すと雖も、必ず及ぶ所無からん。既に以て諸を後嗣に伝うべからず。復た何を以て法を将来に垂れんや。且つ夫れ善を進め悪を黜(しりぞ)くるは、人に施す者なり。古を以て鑑と作すは、己に施す者なり。貌を鑑るは止水に在り、己を鑑るは哲人に在り。能く古の哲王を以て、己の行事に鑑みば、則ち貌の妍醜は宛然として目に在り、事の善悪は自ら心に得ん。司過の史を労する無く、芻蕘の議を仮らず、巍巍の功は日に著れ、赫赫の名は弥々遠からん。人君と為る者、務めざるべけんや。
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