貞観政要 / 征伐
且陛下仁風被於率土,孝德彰於配天。睹夷狄之將亡,則指期數歲;授將帥之節度,則決機萬里。屈指而候驛,視景而望書,符應若神,筭無遺策。擢將於行伍之中,取士於凡庸之末。遠夷單使,一見不忘;小臣之名,未嘗再問。箭穿七劄,弓貫六鈞。加以留情墳典,屬意篇什,筆邁鐘、張,詞窮賈、馬。文鋒既振,則宮徵自諧;輕翰暫飛,則花葩競發。撫萬姓以慈,遇群臣以禮。褒秋毫之善,解吞州之網。逆耳之諫必聽,膚受之訴斯絕。好生之德,禁障塞於江湖;惡殺之仁,息鼓刀於屠肆。鳧鶴荷稻粱之惠,犬馬蒙帷蓋之恩。降尊吮思摩之瘡,登堂臨魏徵之柩。哭戰亡之卒,則哀動六軍;負填道之薪,則情感天地。重黔黎之大命,特盡心於庶獄。臣心識昏憒,豈足論聖功之深遠,談天德之高大哉?陛下兼眾美而有之,靡不備具,微臣深為陛下惜之重之,愛之寶之。
新字:且陛下仁風被於率土,孝徳彰於配天。睹夷狄之将亡,則指期数歳;授将帥之節度,則決機万里。屈指而候駅,視景而望書,符応若神,筭無遺策。擢将於行伍之中,取士於凡庸之末。遠夷単使,一見不忘;小臣之名,未嘗再問。箭穿七劄,弓貫六鈞。加以留情墳典,属意篇什,筆邁鐘、張,詞窮賈、馬。文鋒既振,則宮徴自諧;軽翰暫飛,則花葩競発。撫万姓以慈,遇群臣以礼。褒秋毫之善,解呑州之網。逆耳之諫必聴,膚受之訴斯絶。好生之徳,禁障塞於江湖;悪殺之仁,息鼓刀於屠肆。鳧鶴荷稲粱之恵,犬馬蒙帷蓋之恩。降尊吮思摩之瘡,登堂臨魏徴之柩。哭戦亡之卒,則哀動六軍;負填道之薪,則情感天地。重黔黎之大命,特尽心於庶獄。臣心識昏憒,豈足論聖功之深遠,談天徳之高大哉?陛下兼衆美而有之,靡不備具,微臣深為陛下惜之重之,愛之宝之。
書き下し
且つ陛下の仁風は率土に被り、孝徳は配天に彰る。夷狄の将に亡びんとするを睹(み)れば、則ち期を数歳に指す。将帥の節度を授くれば、則ち機を万里に決す。指を屈して駅を候(うかが)い、景を視て書を望む。符応は神の若く、筭に遺策無し。将を行伍の中に擢(ぬきん)で、士を凡庸の末に取る。遠夷の単使も、一たび見れば忘れず。小臣の名も、未だ嘗て再び問わず。箭は七劄を穿ち、弓は六鈞を貫く。加うるに情を墳典に留め、意を篇什に属す。筆は鍾・張に邁(こ)え、詞は賈・馬を窮む。文鋒既に振るえば、則ち宮徴自ら諧(ととの)う。軽翰暫く飛べば、則ち花葩競い発す。万姓を撫するに慈を以てし、群臣に遇するに礼を以てす。秋毫の善を褒め、吞州の網を解く。逆耳の諫は必ず聴き、膚受の訴は斯に絶つ。好生の徳は、障を江湖に禁ず。悪殺の仁は、鼓刀を屠肆に息(や)ましむ。鳧鶴は稲粱の恵を荷い、犬馬は帷蓋の恩を蒙る。尊きを降して思摩の瘡を吮(す)い、堂に登りて魏徴の柩に臨む。戦亡の卒を哭すれば、則ち哀は六軍を動かす。道を填(うず)むるの薪を負えば、則ち情は天地を感ぜしむ。黔黎の大命を重んじ、特に心を庶獄に尽くす。臣は心識昏憒(こんかい)す。豈に聖功の深遠を論じ、天徳の高大を談ずるに足らんや。陛下は衆美を兼ねて之を有し、備具せざる靡(な)し。微臣は深く陛下の為に之を惜しみ之を重んじ、之を愛し之を宝とす。
現代語訳
それに陛下の仁の風は国中に及び、孝の徳は天に届いています。異民族の滅びを見れば、数年のうちと言い当てられる。将帥に指揮を授ければ、万里の彼方の機を決められる。指を折って駅使を待ち、日影を見て文書を待たれる。予測は神のごとく、計算に誤りがない。将を兵の中から抜擢し、士を凡庸の末から取られる。遠方の異民族の使者でも、一度会えば忘れない。下級の臣の名も、二度尋ねられたことがない。矢は七枚の甲を貫き、弓は六鈞を引く。加えて古典に心を留め、詩文に意を寄せられる。筆は鍾繇や張芝を超え、詞は賈誼や司馬相如を極める。文の鋒が振るえば、調べは自ずと整う。軽やかな筆が飛べば、花が競って開く。万民を慈しみで撫で、群臣を礼で遇される。わずかな善も褒め、大きな網を解かれる。耳に逆らう諫めは必ず聴き、根拠のない訴えは退けられる。生を好む徳は、川や湖の漁の障りを禁じた。殺しを憎む仁は、屠殺場の刃を止めた。鳥は餌の恵みを受け、犬や馬は覆いの恩を被る。尊い身を屈して李思摩の傷口の血を吸い、堂に登って魏徴の柩に臨まれた。戦死者を哭すれば、哀しみは全軍を動かす。道を埋める薪を背負えば、情は天地を感じさせる。民の命を重んじ、とりわけ裁判に心を尽くされる。臣は心も知も乱れております。どうして聖なる功の深遠さを論じ、天の徳の高大さを語れましょう。陛下はあらゆる美点を兼ね備え、欠けるところがない。微臣は深く陛下のために惜しみ、重んじ、愛し、宝とします。
解説
この章句が説くこと
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貞観政要・封建陛下、聖慈に仰ぎ順い、宝暦を嗣膺(しよう)せしより、情は治を致すに深く、前王を綜覈(そうかく)す。至道は名無く、言象の紀す所と雖も、略ぼ梗概を陳ぶるに、実に庶幾(ちか)き所なり。愛敬烝烝として、労して倦まざるは、大舜の孝なり。安を内豎に訪い、親しく御膳を嘗むるは、文王の徳なり。憲司の罪を讞(さだ)め、尚書の獄を奏する毎に、大小必ず察し、枉直咸な挙ぐ。趾を断つの法を以て、大辟の刑に易(か)う。仁心隠惻、幽顕に貫徹するは、大禹の辜(つみ)に泣くなり。色を正し直言し、心を虚しくして受納し、鄙訥を簡(えら)ばず、芻蕘を棄つる無きは、帝堯の諫を求むるなり。名教を弘奨し、学徒を勧励す。既に明経を青紫に擢(ぬきん)で、将に碩儒を卿相に升(のぼ)せんとするは、聖人の善誘なり。群臣は宮中の暑湿にして、寝饍或いは乖(そむ)くを以て、御を高明に移し、一小閣を営まんことを請う。遂に十家の産を惜しみ、竟に子来の願いを抑う。陰陽の感を吝(お)しまず、以て卑陋の居に安んず。頃歳、霜倹にして、普天饑饉なり。喪乱甫(はじ)めて爾(しか)り、倉廩は空虚なり。聖情矜湣(きょうびん)し、勤めて賑恤を加う。竟に一人の道路に流離する無し。猶お且つ食は惟だ藜藿(れいかく)、楽は簨虡(しんきょ)を徹す。言えば必ず淒動し、貌は臒痩(かくそう)を成す。公旦は重訳を喜び、文命は其の即叙を矜(ほこ)る。陛下は四夷の款附し、万里の仁に帰するを見る毎に、必ず退きて思い進みて省み、神を凝らし慮を動かす。妄りに中国を労して、以て遠方を求め、万古の英声を藉らずして、以て一時の茂実を存せんことを恐る。心は憂労に切に、志は遊幸を絶つ。旦毎に朝を視、聴受して倦むこと無し。智は万物に周く、道は天下に済(な)る。朝を罷むるの後、名臣を引進し、是非を討論し、備さに肝膈を尽くす。惟だ政事に及び、更に異辞無し。才(わず)かに日昃(かたむ)けば、必ず才学の士に命じ、賜うに清閑を以てす。高く典籍を談じ、雑うるに文詠を以てし、間(まじ)うるに玄言を以てす。乙夜に疲れを忘れ、中宵に寐ねず。此の四道は、独り往初に邁(こ)ゆ。斯れ実に生民より以来、一人のみ。茲の風化を弘め、四方に昭示せば、信に期月の間を以て、天壌に弥綸すべし。而れども淳粋尚お阻まれ、浮詭未だ移らざるは、此れ習うこと久しきに由る。卒(にわか)に変じ難し。請う、雕を斫(き)りて器と成し、質を以て文に代え、刑措の教一たび行われ、登封の礼云に畢(お)わるを待ちて、然る後に疆理の制を定め、山河の賞を議せば、未だ晩しと為さざるなり。『易』に称す、「天地は盈虚し、時と消息す。況んや人に於てをや」と。美なるかな、斯の言や。
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貞観政要・尊敬師傅伏して惟うに、陛下は睿を誕(う)み図に膺(あた)り、登庸して歴試す。多才多芸、道は時を匡すに著る。允(まこと)に文允に武、功は祀を纂(つ)ぐに成る。万方即ち叙し、九囲清晏なり。尚お且つ休(よ)しと雖も休しとする勿く、日に一日を慎み、異聞を振古に求め、睿思を当年に労す。乙夜に書を観るは、事は漢帝より高し。馬上に巻を披(ひら)くは、勤は魏王に過ぐ。陛下の自ら励むこと此くの如し。而るに太子をして優遊して日を棄て、図書を習わざらしむ。臣の未だ諭(さと)らざる一なり。加うるに暫く機務を屏(しりぞ)くれば、即ち雕虫に寓す。宝思を天文に紆(めぐ)らせば、則ち長河も映を韜(つつ)む。玉華を仙札に摛(の)ぶれば、則ち流霞も彩を成す。固より万代を錙銖(ししゅ)とし、百王に冠冕たり。屈・宋も以て堂に升るに足らず。鍾・張も何ぞ室に入るに階せんや。陛下の自ら好むこと此くの如し。而るに太子は悠然として静処し、篇翰を尋ねず。臣の未だ諭らざる二なり。陛下は衆妙を備え該(か)ね、独り寰中に秀(ひい)ず。猶お天聡を晦(くら)まし、俯して凡識に詢(と)う。聴朝の隟(ひま)に、群官を引見し、降すに温顔を以てし、訪ぬるに今古を以てす。故に朝廷の是非、閭里の好悪、凡そ巨細有るは、必ず聞聴に関す。陛下の自ら行うこと此くの如し。而るに太子をして久しく趨りて入侍せしめ、正人に接せしめず。臣の未だ諭らざる三なり。陛下若し益無しと謂わば、則ち何事ぞ神を労せん。若し成る有りと謂わば、則ち宜しく厥(そ)れを貽(のこ)すを申(の)ぶべし。蔑(な)みして急とせざるは、未だ其の可なるを見ず。伏して願わくは俯して睿範を推し、訓を儲君に及ぼし、授くるに良書を以てし、之を娯しますに嘉客を以てせよ。朝には経史を披き、成敗を前蹤に観る。晩には賓遊に接し、得失を当代に訪う。間(まじ)うるに書札を以てし、継ぐに篇章を以てせば、則ち日に未だ聞かざる所を聞き、日に未だ見ざる所を見ん。副德は愈々光り、群生の福なり。
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