貞観政要 / 刑法
夫守之則易,取之實難。既能得其所以難,豈不能保其所以易?其或保之不固,則驕奢淫泆動之也。慎終如始,可不勉歟!《易》曰:「君子安不忘危,存不忘亡,治不忘亂,是以身安而國家可保也。」誠哉斯言,不可以不深察也。伏惟陛下欲善之誌,不減於昔時,聞過必改,少虧於曩日。若以當今之無事,行疇昔之恭儉,則盡善盡美矣,固無得而稱焉。
新字:夫守之則易,取之実難。既能得其所以難,豈不能保其所以易?其或保之不固,則驕奢淫泆動之也。慎終如始,可不勉歟!《易》曰:「君子安不忘危,存不忘亡,治不忘乱,是以身安而国家可保也。」誠哉斯言,不可以不深察也。伏惟陛下欲善之誌,不減於昔時,聞過必改,少虧於曩日。若以当今之無事,行疇昔之恭倹,則尽善尽美矣,固無得而称焉。
書き下し
夫れ之を守るは則ち易く、之を取るは実に難し。既に能く其の難き所以を得たり。豈に其の易き所以を保つ能わざらんや。其れ或いは之を保つこと固からずんば、則ち驕奢淫泆の之を動かせばなり。終わりを慎むこと始めの如くす。勉めざるべけんや。『易』に曰く、「君子は安くして危うきを忘れず、存して亡ぶるを忘れず、治まりて乱るるを忘れず。是を以て身は安くして国家は保つべきなり」と。誠なるかな斯の言。以て深く察せざるべからざるなり。伏して惟うに、陛下の善を欲するの志は、昔時に減ぜず。過ちを聞きて必ず改むるは、曩日に少しく虧く。若し当今の無事を以て、疇昔の恭倹を行わば、則ち尽善尽美なり。固より得て称する無し。
現代語訳
そもそも守ることは易しく、取ることは実に難しい。すでに難しいほうを成し遂げられた。どうして易しいほうを保てないでしょう。もし保つことが固くないなら、驕り奢り淫らに溺れることが、それを動かすのです。終わりを始めのように慎む。努めずにいられましょうか。『易経』に「君子は安らかにあって危うきを忘れず、存続していて滅亡を忘れず、治まっていて乱を忘れない。だから身は安く、国家は保たれる」とあります。まことにこの言葉のとおりです。深く察せずにいられません。伏して思いますに、陛下の善を望む志は、昔と変わりません。しかし過ちを聞いて必ず改める点は、以前より少し欠けています。もし今の平穏な時に、昔の恭しく倹しい姿を行われれば、善を尽くし美を尽くします。それ以上、称えるものはありません。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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貞観政要・征伐貞観已来、二十有余載。風は調い雨は順い、年は登り歳は稔る。人に水旱の弊無く、国に饑饉の災無し。昔、漢の武帝は、守文の常主なり。猶お刻玉の符に登る。斉の桓公は、小国の庸君なり。尚お泥金の事を塗る。望むらくは陛下、功を推して己を損じ、徳を譲りて居らざれ。億兆は心を傾くるも、猶お告成の礼を闕(か)く。雲・亭は謁を佇(ま)つも、未だ升中の儀を展べず。此の功徳は、以て百王を咀嚼し、千代を網羅するに足る者なり。然れども古人に云える有り、「休(よ)しと雖も休しとする勿かれ」と。良に以有るなり。初めを守り末を保つは、聖哲も罕(まれ)に兼ぬ。是れ知る、業の大なる者は驕り易し。願わくは陛下、之を難しとせよ。善く始むる者は終わり難し。願わくは陛下、之を易しとせよ。
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貞観政要・慎終貞観十四年、太宗侍臣に謂いて曰く、「天下を平定するは、朕は其の事有りと雖も、之を守るに図を失わば、功業も亦復た保ち難し。秦の始皇は初め亦た六国を平らげ、四海を拠有す。末年に及び、善く守る能わず。実に誡と為すべし。公等宜しく公を念い私を忘るべし。則ち栄名高位、以て克く其の美を終うべし」と。魏徴対えて曰く、「臣は之を聞く、戦い勝つは易く、勝ちを守るは難し、と。陛下は深く思い遠く慮り、安きに危うきを忘れず。功業は既に彰れ、徳教は復た洽(あまね)し。恒に此を以て政を為さば、宗社の傾敗するに由無し」と。
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貞観政要・慎終貞観五年、太宗侍臣に謂いて曰く、「古より帝王も亦た常には化する能わず。仮令(たと)い内安からば、必ず外擾有り。当今、遠夷は率服し、百穀は豊稔なり。盗賊は作(おこ)らず、内外は寧静なり。此れ朕一人の力に非ず。実に公等の共に相い匡輔するに由る。然れども安きに危うきを忘れず、治に乱を忘れず。今日、事無きを知ると雖も、亦た須らく其の終始を思うべし。常に此くの如きを得ば、始めて是れ貴ぶべきなり」と。魏徴対えて曰く、「古より已来、元首と股肱と備具する能わず。或いは時に君は聖と称せらるるも、臣は即ち賢ならず。或いは賢臣に遇うも、即ち聖主無し。今、陛下は明なり。所以に治を致す。向(も)し若し直だ賢臣有るのみにして、君は化を思わずんば、亦た益する所無し。天下は今、太平なりと雖も、臣等は猶お未だ以て喜と為さず。惟だ願わくは陛下、安きに居りて危うきを思い、孜孜として怠らざれ」と。
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貞観政要・慎終貞観十二年、太宗侍臣に謂いて曰く、「朕は書を読みて前王の善事を見る。皆な力行して倦まず。其の任用する所の公輩数人は、誠に以て賢と為す。然れども理を致すこと三・五の代に比すれば、猶お逮ばずと為す。何ぞや」と。魏徴対えて曰く、「今、四夷は賓服し、天下は事無し。誠に曠古の未だ有らざる所なり。然れども古より帝王の初めて位に即く者は、皆な精を励まして政を為し、跡を堯・舜に比せんと欲す。其の安楽なるに及ぶや、則ち驕奢放逸にして、能く其の善を終うる莫し。人臣の初めて任用せらるる者は、皆な主を匡し時を済(すく)い、縦(あと)を稷・契に追わんと欲す。其の富貴なるに及ぶや、則ち苟も官爵を全うせんことを思い、能く其の忠節を尽くす莫し。若し君臣をして常に懈怠無く、各々其の終わりを保たしめば、則ち天下は理まらざるを憂うる無く、自ら前古を超邁すべし」と。太宗曰く、「誠に卿の言の如し」と。
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貞観政要・征伐夫れ珍玩技巧は、喪国の斧斤と為る。珠玉錦繡は、実に迷心の酖毒なり。窃かに見るに、服玩は鮮靡にして、自然に変化するが如し。職貢の奇珍は、神仙の制する所の若し。華を季俗に馳すと雖も、実に素を淳風に敗る。是れ知る、漆器は叛を延(まね)くの方に非ざるも、桀は之を造りて人叛す。玉杯は豈に亡を招くの術ならんや、紂は之を用いて国亡ぶ。方に験す、侈麗の源は、遏(とど)めざるべからざるを。夫れ法を倹に作るも、猶お其の奢を恐る。法を奢に作らば、何を以て後を制せんや。伏して惟うに陛下、明は未形を照らし、智は無際に周し。奥秘を麟閣に窮め、探賾(たんさく)を儒林に尽くす。千王の治乱の蹤、百代の安危の跡、興亡衰乱の数、得失成敗の機は、固より亦た心府の中に包吞し、目囲の内に循環す。乃ち宸衷久しく察す。一二の言を假らず。惟だ之を知るは難きに非ず、之を行うは易からず。志は業の著るるに驕り、体は時の安きに逸す。伏して願わくは志を抑え心を裁し、終わりを慎み始めを成し、軽過を削りて以て重徳を添え、今の是を択びて以て前の非に替えば、則ち鴻名は日月と窮まり無く、盛業は乾坤と永く泰からん。
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