貞観政要 / 刑法
今來古往,俯察仰觀,惟辟作福,為君實難。宅普天之下,處王公之上,任土貢其所有,具僚和其所唱。是故恐懼之心日弛,邪僻之情轉放。豈知事起乎所忽,禍生乎無妄。故以聖人受命,拯溺亨屯,歸罪於己,推恩於民。大明無偏照,至公無私親。故以一人治天下,不以天下奉一人。禮以禁其奢,樂以防其佚。左言而右事,出警而入蹕。四時調其慘舒,三光同其得失。故身為之度,而聲為之律。勿謂無知,居高聽卑;勿謂何害,積小成大。樂不可極,極樂成哀;欲不可縱,縱欲成災。壯九重於內,所居不過容膝;彼昏不知,瑤其臺而瓊其室。羅八珍於前,所食不過適口;惟狂罔念,丘其糟而池其酒。勿內荒於色,勿外荒於禽;勿貴難得之貨,勿聽亡國之音。內荒伐人性,外荒蕩人心;難得之物侈,亡國之聲淫。勿謂我尊而傲賢侮士,勿謂我智而拒諫矜己。聞之夏後,據饋頻起;亦有魏帝,牽裾不止。安彼反側,如春陽秋露;巍巍蕩蕩,推漢高大度。撫茲庶事,如履薄臨深;戰戰栗栗,用周文小心。
新字:今来古往,俯察仰観,惟辟作福,為君実難。宅普天之下,処王公之上,任土貢其所有,具僚和其所唱。是故恐懼之心日弛,邪僻之情転放。豈知事起乎所忽,禍生乎無妄。故以聖人受命,拯溺亨屯,歸罪於己,推恩於民。大明無偏照,至公無私親。故以一人治天下,不以天下奉一人。礼以禁其奢,楽以防其佚。左言而右事,出警而入蹕。四時調其惨舒,三光同其得失。故身為之度,而声為之律。勿謂無知,居高聴卑;勿謂何害,積小成大。楽不可極,極楽成哀;欲不可縦,縦欲成災。壮九重於內,所居不過容膝;彼昏不知,瑤其台而瓊其室。羅八珍於前,所食不過適口;惟狂罔念,丘其糟而池其酒。勿內荒於色,勿外荒於禽;勿貴難得之貨,勿聴亡国之音。內荒伐人性,外荒蕩人心;難得之物侈,亡国之声淫。勿謂我尊而傲賢侮士,勿謂我智而拒諫矜己。聞之夏後,拠饋頻起;亦有魏帝,牽裾不止。安彼反側,如春陽秋露;巍巍蕩蕩,推漢高大度。撫茲庶事,如履薄臨深;戦戦栗栗,用周文小心。
書き下し
今来古往、俯察仰観するに、惟だ辟(きみ)のみ福を作す。君と為るは実に難し。普天の下に宅し、王公の上に処る。土に任じて其の有する所を貢し、具僚は其の唱うる所に和す。是の故に恐懼の心は日に弛み、邪僻の情は転た放(ほしいまま)なり。豈に知らんや、事は忽(ゆるが)せにする所に起こり、禍は無妄より生ずるを。故に聖人の命を受くるを以て、溺を拯(すく)い屯(なや)みを亨(とお)す。罪を己に帰し、恩を民に推す。大明は偏照する無く、至公は私親する無し。故に一人を以て天下を治む。天下を以て一人に奉ぜず。礼は以て其の奢を禁じ、楽は以て其の佚を防ぐ。左に言い右に事あり、出でては警め入りては蹕す。四時は其の慘舒を調え、三光は其の得失を同じくす。故に身は之が度と為り、声は之が律と為る。無知と謂う勿かれ、高きに居りて卑きを聴く。何の害あらんと謂う勿かれ、小を積みて大を成す。楽しみは極むべからず。楽を極むれば哀と成る。欲は縦(ほしいまま)にすべからず。欲を縦にすれば災と成る。九重を内に壮んにするも、居る所は膝を容るるに過ぎず。彼の昏は知らず、其の台を瑤にし其の室を瓊にす。八珍を前に羅(つら)ぬるも、食らう所は口に適するに過ぎず。惟だ狂は念う罔(な)く、其の糟を丘にし其の酒を池にす。内は色に荒(すさ)む勿かれ、外は禽に荒む勿かれ。得難きの貨を貴ぶ勿かれ、亡国の音を聴く勿かれ。内荒めば人性を伐り、外荒めば人心を蕩かす。得難きの物は侈、亡国の声は淫なり。我は尊しと謂いて賢に傲り士を侮る勿かれ。我は智なりと謂いて諫を拒み己を矜る勿かれ。之を夏后に聞く、饋(き)に拠りて頻りに起つ。亦た魏帝有り、裾を牽きて止まず。彼の反側を安んずること、春陽秋露の如し。巍巍蕩蕩たり、漢高の大度を推す。茲の庶事を撫すること、薄きを履み深きに臨むが如し。戦戦栗栗として、周文の小心を用う。
現代語訳
今も昔も、俯し仰いで察するに、ただ君主だけが福を作る。君主となることは実に難しい。天下に住まい、王公の上に立つ。土地に応じて産物が貢がれ、官僚は唱えることに和する。だから恐れの心は日々緩み、邪な思いは次第に放埒になる。知らないのだ、事は軽んじたところから起こり、禍は思いがけないところから生じることを。だから聖人は天命を受け、溺れる者を救い、苦しみを通す。罪を自分に帰し、恩を民に及ぼす。大いなる光は偏って照らさず、至高の公は私的に親しまない。だから一人で天下を治めるのであって、天下をもって一人に奉じさせるのではない。礼はその奢りを禁じ、楽はその怠惰を防ぐ。左に言葉あり右に事あり、出るには警め入るには先払いする。四季はその厳しさと緩やかさを調え、日月星はその得失を同じくする。だから身は法度となり、声は音律となる。知る者はいないと言うな、高い所にいて低い所の声を聴くのだ。何の害があろうと言うな、小を積んで大を成すのだ。楽しみは極めてはならない。楽を極めれば哀となる。欲はほしいままにしてはならない。欲をほしいままにすれば災となる。九重の宮を壮麗にしても、住むのは膝を容れるだけ。あの暗愚な者は知らず、台を玉で飾り、室を瓊で飾る。八つの珍味を前に並べても、食べるのは口に合うだけ。狂った者だけが思慮なく、酒粕を丘とし酒を池とする。内では色に溺れるな、外では狩りに溺れるな。得難い品を貴ぶな、亡国の音を聴くな。内に溺れれば人の性を損ない、外に溺れれば人の心を蕩かす。得難い物は奢りであり、亡国の音はみだらである。自分は尊いと思って賢者に驕り士を侮るな。自分は賢いと思って諫めを拒み自らを誇るな。禹は食事の最中に何度も立ち上がったと聞く。また魏の文帝は、裾を引かれて止められた。動揺する者を安んじることは、春の陽、秋の露のようであれ。広大な度量は、漢の高祖の大度に倣え。もろもろの事に臨むことは、薄氷を踏み深淵に臨むようであれ。戦々恐々として、周の文王の小心に倣え。