貞観政要 / 貪鄙
貞觀十年,治書侍御史權萬紀上言:「宣、饒二州諸山大有銀坑,采之極是利益,每歲可得錢數百萬貫。」太宗曰:「朕貴為天子,是事無所少之。惟須納嘉言,進善事,有益於百姓者。且國家剩得數百萬貫錢,何如得一有才行人?不見卿推賢進善之事,又不能按舉不法,震肅權豪,惟道稅鬻銀坑以為利益。昔堯、舜抵璧於山林,投珠於淵谷,由是崇名美號,見稱千載。後漢桓、靈二帝好利賤義,為近代庸暗之主。卿遂欲將我比桓、靈耶?」是日敕放令萬紀還第。
新字:貞観十年,治書侍御史権万紀上言:「宣、饒二州諸山大有銀坑,采之極是利益,毎歲可得銭数百万貫。」太宗曰:「朕貴為天子,是事無所少之。惟須納嘉言,進善事,有益於百姓者。且国家剰得数百万貫銭,何如得一有才行人?不見卿推賢進善之事,又不能按舉不法,震粛権豪,惟道税鬻銀坑以為利益。昔堯、舜抵璧於山林,投珠於淵谷,由是崇名美号,見稱千載。後漢桓、靈二帝好利賤義,為近代庸暗之主。卿遂欲将我比桓、靈耶?」是日勅放令万紀還第。
書き下し
貞観十年、治書侍御史権万紀上言す、「宣・饒二州の諸山に大いに銀坑有り。之を采らば極めて是れ利益あり。毎歳、銭数百万貫を得べし」と。太宗曰く、「朕は貴きこと天子と為る。是の事に少なくする所無し。惟だ須らく嘉言を納れ、善事を進め、百姓に益有る者のみなるべし。且つ国家、剰(あま)つさえ数百万貫の銭を得るは、何ぞ一の才行有る人を得るに如かんや。卿が賢を推し善を進むるの事を見ず。又た不法を按挙し、権豪を震粛する能わず。惟だ税を道(い)い銀坑を鬻(ひさ)ぎて以て利益と為す。昔、堯・舜は璧を山林に抵(なげう)ち、珠を淵谷に投ず。是に由りて崇名美号、千載に称せらる。後漢の桓・霊二帝は利を好み義を賤しむ。近代の庸暗の主と為る。卿は遂に我を将(もっ)て桓・霊に比せんと欲するか」と。是の日、勅して万紀を放ちて第に還らしむ。
現代語訳
貞観十年、治書侍御史の権万紀が上言した。「宣州と饒州の山々に、大きな銀の鉱脈があります。採掘すれば極めて利益があり、毎年数百万貫の銭が得られます」。太宗は言った。「私は天子として貴い。物に不足はない。ただ良い言葉を受け入れ、善き事を進め、民に益することだけが必要だ。それに国家が数百万貫の銭を余分に得ることが、一人の才能と行いのある人を得ることに及ぶだろうか。あなたが賢者を推し、善を進めた事を見たことがない。また不法を摘発し、権勢家を引き締めることもできない。ただ税を語り、銀の鉱脈を売って利益とすることだけを言う。昔、堯と舜は玉を山林に投げ捨て、珠を谷底に投げ入れた。だから高い名声を得て、千年にわたって称えられた。後漢の桓帝と霊帝は利を好み義を賤しみ、近代の暗愚な君主となった。あなたは私を桓帝や霊帝に比べようというのか」。この日、勅して権万紀を罷免し、屋敷に帰らせた。