貞観政要 / 貪鄙
貞觀初,太宗謂侍臣曰:「人有明珠,莫不貴重。若以彈雀,豈非可惜?況人之性命甚於明珠,見金錢財帛不懼刑網,徑即受納,乃是不惜性命。明珠是身外之物,尚不可彈雀,何況性命之重,乃以博財物耶?群臣若能備盡忠直,益國利人,則官爵立至。皆不能以此道求榮,遂妄受財物,贓賄既露,其身亦殞,實可為笑。帝王亦然。恣情放逸,勞役無度,信任群小,疏遠忠正,有一於此,豈不滅亡?隋煬帝奢侈自賢,身死匹夫之手,亦為可笑。」
新字:貞観初,太宗謂侍臣曰:「人有明珠,莫不貴重。若以弾雀,豈非可惜?況人之性命甚於明珠,見金銭財帛不懼刑網,径即受納,乃是不惜性命。明珠是身外之物,尚不可弾雀,何況性命之重,乃以博財物耶?群臣若能備尽忠直,益国利人,則官爵立至。皆不能以此道求栄,遂妄受財物,贓賄既露,其身亦殞,実可為笑。帝王亦然。恣情放逸,労役無度,信任群小,疏遠忠正,有一於此,豈不滅亡?隋煬帝奢侈自賢,身死匹夫之手,亦為可笑。」
書き下し
貞観の初め、太宗侍臣に謂いて曰く、「人に明珠有らば、貴重せざる莫し。若し以て雀を弾(う)たば、豈に惜しむべきに非ずや。況んや人の性命は明珠より甚だし。金銭財帛を見て刑網を懼れず、径(ただ)ちに即ち受納するは、乃ち是れ性命を惜しまざるなり。明珠は是れ身外の物なり。尚お以て雀を弾つべからず。何ぞ況んや性命の重き、乃ち以て財物に博(か)えんや。群臣若し能く備さに忠直を尽くし、国に益し人に利あらば、則ち官爵は立ちどころに至らん。皆な此の道を以て栄を求むる能わず、遂に妄りに財物を受く。贓賄既に露われ、其の身も亦た殞(お)つ。実に笑いを為すべし。帝王も亦た然り。情を恣にし放逸し、労役すること度無く、群小を信任し、忠正を疎遠にす。一も此に有らば、豈に滅亡せざらんや。隋の煬帝は奢侈にして自ら賢とし、身は匹夫の手に死す。亦た笑うべきと為す」と。
現代語訳
貞観の初め、太宗が側近の臣に言った。「人が明珠を持っていれば、貴重に思わない者はない。もしそれで雀を撃ったら、惜しいことではないか。まして人の命は、明珠よりも重い。金銭や財物を見て刑罰を恐れず、すぐに受け取るのは、命を惜しまないということだ。明珠は身の外の物であり、それでも雀を撃つべきではない。まして命の重さを、財物と引き換えにしてよいのか。臣下がもし忠実と正直を尽くし、国に益し人に利をもたらせば、官爵はたちどころに来る。それができずに、みだりに財物を受け取る。汚職が露見すれば、身も滅びる。まことに笑うべきことだ。帝王も同じである。情をほしいままにし気ままに振る舞い、労役に節度がなく、小人を信任し、忠正な者を遠ざける。一つでもあれば、どうして滅びずにいられよう。隋の煬帝は奢侈にして自らを賢いとし、身は一介の男の手にかかって死んだ。これも笑うべきことだ」。