貞観政要 / 公平
貞觀元年,有上封事者,請秦府舊兵並授以武職,追入宿衛。太宗謂曰:「朕以天下為家,不能私於一物,惟有才行是任,豈以新舊為差?況古人云:『兵猶火也,弗戢將自焚。』汝之此意,非益政理。」
新字:貞観元年,有上封事者,請秦府旧兵並授以武職,追入宿衛。太宗謂曰:「朕以天下為家,不能私於一物,惟有才行是任,豈以新旧為差?況古人云:『兵猶火也,弗戢将自焚。』汝之此意,非益政理。」
書き下し
貞観元年、封事を上る者有り。秦府の旧兵に並びに授くるに武職を以てし、追いて宿衛に入れんことを請う。太宗謂いて曰く、「朕は天下を以て家と為す。一物に私する能わず。惟だ才行のみ是れ任ず。豈に新旧を以て差と為さんや。況んや古人云う、『兵は猶お火のごとし。戢(おさ)めずんば将に自ら焚かん』と。汝の此の意は、政理に益するに非ず」と。
現代語訳
貞観元年、封をして意見を上る者があった。秦王府の旧兵にみな武職を授け、宮中の警護に入れるよう願い出た。太宗は言った。「私は天下をもって家としている。一つの物に私心を持つことはできない。ただ才能と行いによって任ずるだけだ。どうして新旧で差をつけようか。まして古人は『兵は火のようなものだ。収めなければ、自らを焼く』と言った。あなたのこの考えは、政治の道理に益がない」。
解説
自分の古くからの部下たちを、宮中を守る警護の役目に就けてほしい、という願い出がありました。長年連れ添った顔なじみなら安心だ、という理由です。しかし太宗はこれを退けます。「昔の人は、兵は火のようなものだ、抑えなければいずれ自分自身を焼くと言った」というのです。忠実だから安全だ、身内で固めておけば安心だ、という思い込みは、実はそれ自体が危ういものです。身内だけで力を固めれば、その力はいつか思わぬ形で持ち主自身に向かうこともあります。家族で営む店や、気心の知れた仲間内だけで固めた集まりでも、なじみの深さだけを理由に大事な役目を任せてしまうと、後になって思わぬ綻びが出ることがあるので、注意が必要です。
この章句が説くこと
兵猶火也弗戢将自焚朕以天下為家身内で固める危うさ