貞観政要 / 規諫太子
又鄭、衛之樂,古謂淫聲。昔朝歌之鄉,回車者墨翟;夾穀之會,揮劍者孔丘。先聖既以爲非,通賢將以爲失。頃聞宮内,屢有鼓聲,大樂伎兒,入便不出。聞之者股栗,言之者心戰。往年口敕,伏請重尋,聖旨殷勤,明誡懇切。在於殿下,不可不思;至於微臣,不得無懼。
新字:又鄭、衛之楽,古謂淫声。昔朝歌之鄉,回車者墨翟;夾穀之会,揮剣者孔丘。先聖既以為非,通賢将以為失。頃聞宮内,屢有鼓声,大楽伎児,入便不出。聞之者股栗,言之者心戦。往年口勅,伏請重尋,聖旨殷勤,明誡懇切。在於殿下,不可不思;至於微臣,不得無懼。
書き下し
又た鄭・衛の楽は、古に淫声と謂う。昔、朝歌の郷は、車を回らす者は墨翟なり。夾谷の会は、剣を揮う者は孔丘なり。先聖既に以て非と為し、通賢は将に以て失と為さんとす。頃(このごろ)聞く、宮内に屢々鼓声有り。大楽の伎児、入りて便ち出でず、と。之を聞く者は股栗し、之を言う者は心戦く。往年の口敕、伏して重ねて尋ねんことを請う。聖旨は殷勤にして、明誡は懇切なり。殿下に於ては、思わざるべからず。微臣に至りては、懼るる無きを得ず。
現代語訳
また鄭や衛の音楽は、古来みだらな音と言われます。昔、朝歌という村では、墨翟が車を引き返しました。夾谷の会盟では、孔子が剣を振るいました。先の聖人はこれを非とし、識者は過ちとしました。近頃、宮中でしばしば太鼓の音が聞こえると聞きます。宮廷楽団の芸人が、入ったきり出てこないとも。これを聞く者は足が震え、これを言う者は心が震えます。先年の陛下のお言葉を、重ねて調べてくださるようお願いします。ご意向は懇ろで、戒めは切実でした。殿下におかれては、思わずにいられないはずです。微臣としても、恐れずにいられません。
解説
「これを聞く者は足が震え、これを言う者は心が震える」。この一句が印象的です。宮中に芸人が入ったきり出てこない。それを口にすること自体が、命がけなのです。にもかかわらず言う。恐れながら、なお言う。恐れがないから言うのではありません。恐れながら言うことが、勇気なのです。