貞観政要 / 規諫太子
臣以愚蔽,竊位兩宮,在臣有江海之潤,於國無秋毫之益,是用必竭愚誠,思盡臣節者也。伏惟儲君之寄,荷戴殊重,如其積德不弘,何以嗣守成業?聖上以殿下親則父子,事兼家國,所應用物不爲節限。恩旨未逾六旬,用物已過七萬,驕奢之極,孰云過此?龍樓之下,惟聚工匠;望苑之内,不睹賢良。今言孝敬,則闕侍膳問豎之禮;語恭顺,則違君父慈訓之方;求風聲,則無學古好道之實;觀擧措,則有因緣誅戮之罪。宮臣正士,未嘗在側,群邪淫巧,昵近深宮。愛好者皆游伎雜色,施與者並圖畫雕鏤。在外瞻仰,已有此失;居中隱密,寧可勝計哉!宣猷禁門,不異闤闠,朝入暮出,惡聲漸遠。右庶子趙弘智經明行修,當今善士,臣每請望數召進,與之談論,庶廣徽猷。令旨反有猜嫌,謂臣妄相推引。從善如流,尚恐不逮;飾非拒諫,必是招損。古人云:「苦藥利病,苦口利行。」伏願居安思危,日慎一日。
新字:臣以愚蔽,竊位両宮,在臣有江海之潤,於国無秋毫之益,是用必竭愚誠,思尽臣節者也。伏惟儲君之寄,荷戴殊重,如其積徳不弘,何以嗣守成業?聖上以殿下親則父子,事兼家国,所応用物不為節限。恩旨未逾六旬,用物已過七万,驕奢之極,孰云過此?竜楼之下,惟聚工匠;望苑之内,不睹賢良。今言孝敬,則闕侍膳問豎之礼;語恭顺,則違君父慈訓之方;求風声,則無學古好道之実;観挙措,則有因縁誅戮之罪。宮臣正士,未嘗在側,群邪淫巧,昵近深宮。愛好者皆游伎雑色,施与者並図画雕鏤。在外瞻仰,已有此失;居中隠密,寧可勝計哉!宣猷禁門,不異闤闠,朝入暮出,悪声漸遠。右庶子趙弘智経明行修,当今善士,臣毎請望数召進,与之談論,庶広徽猷。令旨反有猜嫌,謂臣妄相推引。従善如流,尚恐不逮;飾非拒諫,必是招損。古人云:「苦薬利病,苦口利行。」伏願居安思危,日慎一日。
書き下し
臣は愚蔽を以て、位を両宮に窃む。臣に在りては江海の潤い有るも、国に於ては秋毫の益無し。是を用て必ず愚誠を竭くし、臣節を尽くさんことを思う者なり。伏して惟うに儲君の寄は、荷戴すること殊に重し。如し其れ徳を積むこと弘からずんば、何を以て成業を嗣ぎ守らん。聖上は殿下を以て、親しくは則ち父子、事は家国を兼ぬ。応(まさ)に用うべき所の物は節限を為さず。恩旨は未だ六旬を逾えざるに、用物は已に七万を過ぐ。驕奢の極み、孰か此に過ぐと云わんや。龍楼の下、惟だ工匠を聚む。望苑の内、賢良を睹(み)ず。今、孝敬を言えば、則ち侍膳問豎の礼を闕く。恭順を語れば、則ち君父慈訓の方に違う。風声を求むれば、則ち学古好道の実無し。挙措を観れば、則ち縁に因りて誅戮するの罪有り。宮臣正士は、未だ嘗て側に在らず。群邪淫巧は、深宮に昵近す。愛好する者は皆な游伎雑色。施与する者は並びに図画雕鏤。外に在りて瞻仰するに、已に此の失有り。中に居りて隠密なるは、寧ぞ勝げて計うべけんや。宣猷の禁門は、闤闠(かんかい)に異ならず。朝に入りて暮に出づ。悪声漸く遠し。右庶子趙弘智は経明らかに行い修まる。当今の善士なり。臣は毎に数々召し進め、之と談論し、庶(ちか)くは徽猷を広めんことを請い望む。令旨は反って猜嫌有り、臣が妄りに相い推引すと謂う。善に従うこと流るるが如きも、尚お逮ばざるを恐る。非を飾り諫を拒まば、必ず是れ損を招かん。古人云う、「苦薬は病に利あり。苦口は行に利あり」と。伏して願わくは安きに居りて危うきを思い、日に一日を慎め。
現代語訳
臣は愚かで見識に乏しいまま、二つの宮に位を盗んでおります。臣にとっては江海のような潤いですが、国にとっては毛筋ほどの益もありません。だからこそ、必ず愚かな誠を尽くし、臣下の節を尽くしたいと思うのです。伏して思いますに、太子の任は、担うところが特に重い。もし徳を積むことが広くなければ、どうして成った業を継ぎ守れましょう。陛下は殿下を、親としては父子、事としては家と国を兼ねる者とされ、用いる物に制限を設けられません。ご恩の沙汰から六十日も経たないのに、用いた物はすでに七万を超えています。驕りと奢りの極み、これを超えるものがあるでしょうか。東宮の下には、ただ職人が集まるばかり。庭園の内には、賢良な人が見えません。今、孝敬を言えば、食膳を看て安否を問う礼を欠いている。恭順を語れば、父君の慈しみ深い教えに背いている。名声を求めても、古を学び道を好む実がない。行いを見れば、縁故によって人を誅する罪がある。宮の正しい臣は、そばにいたことがない。邪でよこしまな者たちが、奥深い宮に近づいています。愛好されるのはみな遊芸や雑技。与えられるのはみな絵画や彫刻。外から見上げてさえ、これほどの過ちがある。内の隠された所は、どうして数え切れましょう。宣猷門は、市場と変わりません。朝に入って夕に出る。悪い評判が次第に広まります。右庶子の趙弘智は、経学に明るく行いが修まっている。今の世の善き士です。臣はたびたび召してお話しさせ、良き計を広げていただきたいと願いました。ところがお言葉はかえって猜疑に満ち、臣がみだりに引き立てていると仰る。善に従うことは流れるようであっても、なお及ばないことを恐れます。非を飾って諫めを拒めば、必ず損を招きます。古人は「苦い薬は病に効く。苦い言葉は行いに効く」と言いました。伏して願わくは、安きにいて危うきを思い、日々慎んでください。