貞観政要 / 規諫太子
惟聖上之慈愛,訓義方於至道。同論政於漢幄,修致戒於京鄗。鄙《韓子》之所賜,重經術以爲寶。咨政理之美惡,亦文身之黼藻。庶有擇於愚夫,慚乞言於遺老。致庶績於咸寧,先得人而爲盛。帝堯以則哲垂謨,文王以多士興詠。取之於正人,鑒之於靈鏡。量其器能,審其檢行。必宜度機而分職,不可違方以從政。若其惑於聽受,暗於知人,則有道者咸屈,無用者必伸。讒諛競進以求媚,玩好不召而自臻。直言正諫,以忠信而穫罪;賣官鬻獄,以貨賄而見親。於是虧我王度,斁我彝倫。九鼎遇奸回而遠逝,萬姓望撫我而歸仁。蓋造化之至育,惟人靈之爲貴。獄訟不理,有生死之異塗,冤結不伸,乖陰陽之和氣。士之通塞,屬之以深文;命之修短,懸之於酷吏。是故帝堯畫像,陳恤隱之言;夏禹泣辜,盡哀矜之志。因取象於《大壯》,乃峻宇而雕牆。將瑤台以瓊室,豈畫棟以虹梁。或凌雲以遐觀,或通天而納涼。極醉飽而刑人力,命痿蹶而受身殃。是以言惜十家之產,漢帝以昭儉而垂裕;雖成百里之囿,周文以子來而克昌。彼嘉會而禮通,重旨酒之爲德。至忘歸而受祉,在齊聖而溫克。若其酗醟以致昏,酖湎而成忒,痛殷受與灌夫,亦亡身而喪國。是以伊尹以酣歌而作戒,周公以亂邦而貽則。咨幽閑之令淑,實好逑於君子。辭玉輦而割愛,固班姬之所恥;脱簪餌而思愆,亦宣薑之爲美。乃有禍晉之驪姬,喪周之褒姒。盡妖妍於圖畫,極凶悖於人理。傾城傾國,思昭示於後王;麗質冶容,宜永鑒於前史。復有蒐狩之禮,弛射之場,不節之以正義,必自致於禽荒。匪外形之疲極,亦中心而發狂。夫高深不懼,胥靡之徒;韝緤爲娛,小豎之事。以宗社之崇重,持先王之名器,與鷹犬而並驅,凌艱險而逸轡。馬有銜橛之理,獸駭不存之地,猶有靦於穫多,獨無情而内愧?
新字:惟聖上之慈愛,訓義方於至道。同論政於漢幄,修致戒於京鄗。鄙《韓子》之所賜,重経術以為宝。咨政理之美悪,亦文身之黼藻。庶有択於愚夫,慚乞言於遺老。致庶績於咸寧,先得人而為盛。帝堯以則哲垂謨,文王以多士興詠。取之於正人,鑒之於霊鏡。量其器能,審其検行。必宜度機而分職,不可違方以従政。若其惑於聴受,暗於知人,則有道者咸屈,無用者必伸。讒諛競進以求媚,玩好不召而自臻。直言正諫,以忠信而穫罪;売官鬻獄,以貨賄而見親。於是虧我王度,斁我彝倫。九鼎遇奸回而遠逝,万姓望撫我而帰仁。蓋造化之至育,惟人霊之為貴。獄訟不理,有生死之異塗,冤結不伸,乖陰陽之和気。士之通塞,属之以深文;命之修短,懸之於酷吏。是故帝堯画像,陳恤隠之言;夏禹泣辜,尽哀矜之志。因取象於《大壮》,乃峻宇而雕牆。将瑤台以瓊室,豈画棟以虹梁。或凌雲以遐観,或通天而納涼。極酔飽而刑人力,命痿蹶而受身殃。是以言惜十家之産,漢帝以昭倹而垂裕;雖成百里之囿,周文以子来而克昌。彼嘉会而礼通,重旨酒之為徳。至忘帰而受祉,在斉聖而温克。若其酗醟以致昏,酖湎而成忒,痛殷受与灌夫,亦亡身而喪国。是以伊尹以酣歌而作戒,周公以乱邦而貽則。咨幽閑之令淑,実好逑於君子。辞玉輦而割愛,固班姫之所恥;脱簪餌而思愆,亦宣薑之為美。乃有禍晋之驪姫,喪周之褒姒。尽妖妍於図画,極凶悖於人理。傾城傾国,思昭示於後王;麗質冶容,宜永鑒於前史。復有蒐狩之礼,弛射之場,不節之以正義,必自致於禽荒。匪外形之疲極,亦中心而発狂。夫高深不懼,胥靡之徒;韝緤為娯,小豎之事。以宗社之崇重,持先王之名器,与鷹犬而並駆,凌艱険而逸轡。馬有銜橛之理,獣駭不存之地,猶有靦於穫多,独無情而内愧?
書き下し
惟だ聖上の慈愛のみ、義方を至道に訓う。政を漢幄に論ずるに同じく、致戒を京鄗に修む。『韓子』の賜う所を鄙とし、経術を重んじて以て宝と為す。政理の美悪を咨(と)い、亦た文身の黼藻(ほそう)とす。庶(ちか)くは愚夫に択ぶ有り、遺老に言を乞うに慚ず。庶績を咸寧に致すは、先ず人を得るを盛と為す。帝堯は則哲を以て謨を垂れ、文王は多士を以て詠を興す。之を正人に取り、之を霊鏡に鑒(かんが)む。其の器能を量り、其の検行を審らかにす。必ず宜しく機を度りて職を分かつべし。方に違いて以て政に従うべからず。若し其れ聴受に惑い、人を知るに暗ければ、則ち有道の者は咸な屈し、無用の者は必ず伸ぶ。讒諛は競い進みて以て媚を求め、玩好は召さずして自ら臻(いた)る。直言正諫は、忠信を以てして罪を穫(え)、売官鬻獄(いくごく)は、貨賄を以てして親(したし)まる。是に於て我が王度を虧き、我が彜倫を斁(やぶ)る。九鼎は奸回に遇いて遠く逝き、万姓は我を撫するを望みて仁に帰す。蓋し造化の至育、惟だ人霊を貴しと為す。獄訟理まらずんば、生死の異塗有り。冤結伸びずんば、陰陽の和気に乖(そむ)く。士の通塞は、之を属するに深文を以てす。命の修短は、之を懸くるに酷吏を以てす。是の故に帝堯は像を画き、恤隠の言を陳ぶ。夏禹は辜(つみ)に泣き、哀矜の志を尽くす。象を『大壮』に取るに因り、乃ち宇を峻(たか)くして牆を雕(ほ)る。瑤台と瓊室とを将(もっ)てす。豈に画棟と虹梁のみならんや。或いは雲を凌ぎて以て遐(はる)かに観、或いは天に通じて涼を納る。醉飽を極めて人力を刑し、痿蹶(いけつ)を命じて身殃を受く。是を以て言うに十家の産を惜しみ、漢帝は倹を昭らかにして裕を垂る。百里の囿を成すと雖も、周文は子来を以て克く昌ゆ。彼の嘉会にして礼通ず、旨酒の徳為るを重んず。帰るを忘れて祉(さいわい)を受くるに至るは、斉聖にして温克なるに在り。若し其れ酗醟して以て昏を致し、酖湎(ちんめん)して忒(とく)を成さば、痛ましきかな殷受と灌夫、亦た身を亡ぼして国を喪う。是を以て伊尹は酣歌を以て戒を作り、周公は邦を乱すを以て則を貽(のこ)す。咨(ああ)幽閑の令淑、実に君子の好逑なり。玉輦を辞して愛を割くは、固より班姫の恥ずる所なり。簪珥を脱して愆を思うは、亦た宣姜の美と為す。乃ち晋を禍せし驪姫、周を喪ぼせし褒姒有り。妖妍を図画に尽くし、凶悖を人理に極む。城を傾け国を傾く。後王に昭示せんことを思う。麗質冶容、宜しく永く前史に鑒むべし。復た蒐狩の礼、弛射の場有り。之を節するに正義を以てせずんば、必ず自ら禽荒を致さん。匪(ひ)とり外形の疲極するのみならず、亦た中心も発狂す。夫れ高深を懼れざるは、胥靡の徒なり。韝緤(こうせつ)を娯しみと為すは、小豎の事なり。宗社の崇重を以て、先王の名器を持ち、鷹犬と並び駆け、艱険を凌ぎて轡を逸す。馬に銜橛(かんけつ)の理有り、獣は駭(おどろ)きて存せざるの地なり。猶お獲多きに靦(は)ずる有らんや。独り情無くして内に愧じざるか。
現代語訳
ただ陛下の慈愛だけが、正しい道を至高の教えとして訓えられます。政治を漢の帷幄で論じたように、戒めを都に整えられる。『韓非子』を賜るような教えを卑しみ、経学を重んじて宝とされる。政治の美醜を問い、それを身の飾りとされる。愚かな者の言葉さえ選び、老人に教えを乞うことを恥じない。多くの功績を安らかに実現するには、まず人を得ることが第一です。帝堯は人を見る明で謀を垂れ、文王は多くの士を得て詠を興しました。正しい人から取り、澄んだ鏡に照らす。その器量を量り、その行いを審らかにする。必ず機を計って職を分けるべきで、方向を誤って政治を行ってはならない。もし聞くことに惑い、人を知ることに暗ければ、道ある者はみな屈し、役に立たない者が必ず伸びる。へつらう者は競って媚びを売り、玩具は招かずとも自ずと集まる。直言と正しい諫めは、忠信でありながら罪となり、官職や裁判を売る者は、賄賂によって親しまれる。こうして王の法度は欠け、人倫は破れる。九鼎は奸邪に遭って遠く去り、万民は撫でてくれる者を望んで仁に帰する。造化が育んだもののうち、人の霊性が最も貴い。訴訟が正しく裁かれなければ、生死の道が分かれる。冤罪が晴れなければ、陰陽の和が乱れる。士の栄達は、厳しい法文に委ねられる。命の長短は、酷吏に懸けられる。だから帝堯は絵を描いて、憐れみの言葉を述べた。夏の禹は罪人に涙し、哀れみの志を尽くした。『大壮』の卦に象を取って、屋根を高くし壁を彫る。瑤の台と玉の室。彩色の梁ばかりではない。雲を凌いで遠くを見、天に通じて涼をとる。酔いと満腹を極めて人の力を苦しめ、病に倒れて禍を受ける。だから漢の文帝は十家分の財を惜しんで倹約を示し、豊かさを残しました。百里の庭園を造っても、周の文王は民が自ら来たので栄えました。良き会合では礼が通じ、美酒の徳を重んじる。帰るのを忘れて幸いを受けるのは、聡明で節度があるからです。もし酔い狂って昏迷し、酒に溺れて過ちを成せば、痛ましいかな、殷の紂王と灌夫のように、身を滅ぼし国を失います。だから伊尹は酒宴の歌を戒めとし、周公は国を乱すことを教訓としました。ああ、奥ゆかしく淑やかな女性こそ、君子の良き伴侶です。玉の輦を辞して愛を断ったのは、班婕妤が恥じたからです。簪と耳飾りを外して過ちを思ったのは、宣姜の美点です。ところが晋を禍した驪姫、周を滅ぼした褒姒がいます。妖しい美を絵に尽くし、凶悪を人の道に極めた。城を傾け国を傾ける。後の王に示したいのです。麗しい姿は、永く前の史書に鑑みるべきです。また狩りの礼、射の場があります。正義をもって節度を保たなければ、必ず狩りに溺れます。外形が疲れ果てるだけでなく、心も狂います。高さや深さを恐れないのは、労役の徒です。鷹の紐や犬の綱を楽しむのは、下僕のすることです。宗廟の重き身で、先王の名器を持ち、鷹や犬と共に駆け、険しい所を越えて手綱を放つ。馬には轡の道理があり、獣は驚いて留まらない。それでも獲物の多さを恥じないのか。ひとり心なく、内に愧じないのか。
解説
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貞観政要・封建陛下、聖慈に仰ぎ順い、宝暦を嗣膺(しよう)せしより、情は治を致すに深く、前王を綜覈(そうかく)す。至道は名無く、言象の紀す所と雖も、略ぼ梗概を陳ぶるに、実に庶幾(ちか)き所なり。愛敬烝烝として、労して倦まざるは、大舜の孝なり。安を内豎に訪い、親しく御膳を嘗むるは、文王の徳なり。憲司の罪を讞(さだ)め、尚書の獄を奏する毎に、大小必ず察し、枉直咸な挙ぐ。趾を断つの法を以て、大辟の刑に易(か)う。仁心隠惻、幽顕に貫徹するは、大禹の辜(つみ)に泣くなり。色を正し直言し、心を虚しくして受納し、鄙訥を簡(えら)ばず、芻蕘を棄つる無きは、帝堯の諫を求むるなり。名教を弘奨し、学徒を勧励す。既に明経を青紫に擢(ぬきん)で、将に碩儒を卿相に升(のぼ)せんとするは、聖人の善誘なり。群臣は宮中の暑湿にして、寝饍或いは乖(そむ)くを以て、御を高明に移し、一小閣を営まんことを請う。遂に十家の産を惜しみ、竟に子来の願いを抑う。陰陽の感を吝(お)しまず、以て卑陋の居に安んず。頃歳、霜倹にして、普天饑饉なり。喪乱甫(はじ)めて爾(しか)り、倉廩は空虚なり。聖情矜湣(きょうびん)し、勤めて賑恤を加う。竟に一人の道路に流離する無し。猶お且つ食は惟だ藜藿(れいかく)、楽は簨虡(しんきょ)を徹す。言えば必ず淒動し、貌は臒痩(かくそう)を成す。公旦は重訳を喜び、文命は其の即叙を矜(ほこ)る。陛下は四夷の款附し、万里の仁に帰するを見る毎に、必ず退きて思い進みて省み、神を凝らし慮を動かす。妄りに中国を労して、以て遠方を求め、万古の英声を藉らずして、以て一時の茂実を存せんことを恐る。心は憂労に切に、志は遊幸を絶つ。旦毎に朝を視、聴受して倦むこと無し。智は万物に周く、道は天下に済(な)る。朝を罷むるの後、名臣を引進し、是非を討論し、備さに肝膈を尽くす。惟だ政事に及び、更に異辞無し。才(わず)かに日昃(かたむ)けば、必ず才学の士に命じ、賜うに清閑を以てす。高く典籍を談じ、雑うるに文詠を以てし、間(まじ)うるに玄言を以てす。乙夜に疲れを忘れ、中宵に寐ねず。此の四道は、独り往初に邁(こ)ゆ。斯れ実に生民より以来、一人のみ。茲の風化を弘め、四方に昭示せば、信に期月の間を以て、天壌に弥綸すべし。而れども淳粋尚お阻まれ、浮詭未だ移らざるは、此れ習うこと久しきに由る。卒(にわか)に変じ難し。請う、雕を斫(き)りて器と成し、質を以て文に代え、刑措の教一たび行われ、登封の礼云に畢(お)わるを待ちて、然る後に疆理の制を定め、山河の賞を議せば、未だ晩しと為さざるなり。『易』に称す、「天地は盈虚し、時と消息す。況んや人に於てをや」と。美なるかな、斯の言や。
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貞観政要・規諫太子赫たり聖唐、大なるかな霊命。時は維(こ)れ大始、運は上聖に鍾(あつ)まる。天は皇儲を縦(ゆる)し、本を固くし正に居らしむ。機悟は宏遠、神姿は凝映す。三善を顧みて必ず弘め、四徳を祗(つつし)みて行と為す。趨庭する毎に礼を聞き、常に寝を問いて敬に資(と)る。聖訓を奉じて以て周旋し、天文の明命を誕(の)ぶ。喬を観るを邁(すす)め梓を望む。即ち元亀と明鏡なり。大道の革(あらた)まりてより、礼教斯に起こる。以て君臣を正し、以て父子を篤くす。君臣の礼、父子の親、情義を尽くして以て兼ね極む。諒(まこと)に道を弘むるは人に在り。豈に夏の啓と周の誦、亦た丹朱と商均のみならんや。既に雕り且つ琢き、故きを温めて新しきを知る。惟れ忠と敬、曰く孝と仁。則ち以て下は四海を光らし、上は三辰を燭(て)らすべし。昔、三王の子を教うるや、四時を兼ねて以て学に齒す。将に中外に交々(こもごも)発せんとす。乃ち之に先んずるに礼楽を以てす。楽は以て風を移し俗を易(か)え、礼は以て上を安んじ人を化す。鐘鼓に悦ぶ有るに非ず。将に志を宣べて以て神を和せんとす。寧ぞ玉帛に懐う有らんや。将に己に克ちて以て身を庇わんとす。深宮の中に生まれ、群后の上に処る。未だ深く王業を思わず、自ら匕鬯(ひちょう)を珍とせず。富貴を自然と謂い、崇高を恃みて矜尚す。必ず驕狠を恣にし、動もすれば礼譲に愆(たが)う。師傅を軽んじて礼儀を慢(あなど)り、奸諂に狎(な)れて淫放を縦(ほしいまま)にす。前星の耀き遽(にわ)かに隠れ、少陽の道斯に諒(うす)し。天下を家と為すと雖も、夷倹を蹈むこと一に非ず。或いは才を以て升(のぼ)らるるを見、或いは讒を見て黜(しりぞ)けを受く。足れり以て厥(そ)の休咎を省み、其の得失を観るに。請う、粗ぼ略して之を陳べん。文を披(ひら)きて相い質さんことを覬(こいねが)う。
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貞観政要・規諫太子臣聞く、皇天に親無し。惟だ徳のみ是れ輔く。苟も天道に違わば、人神同じく棄つ。然れども古の三駆の礼は、殺を教うるを欲するに非ず。将に百姓の為に害を除かんとす。故に湯は一面を羅(あみ)し、天下は仁に帰す。今、苑内の娯猟は、名は游畋に異なりと雖も、若し之を行いて恒無くんば、終に雅度を虧かん。且つ傅説曰く、「学びて古を師とせずんば、説の聞く攸(ところ)に匪ず」と。然らば則ち道を弘むるは古を学ぶに在り。古を学ぶは必ず師訓に資る。既に恩詔を奉じ、孔穎達をして侍講せしむ。望むらくは数々顧問を存し、以て万一を補え。仍お博く名行有る学士を選び、兼ねて朝夕に侍奉せしめよ。聖人の遺教を覧、既往の行事を察せば、日に其の足らざる所を知り、月に其の能くする所を忘るる無し。此れ則ち尽く善く尽く美なり。夏の啓・周の誦も焉(いず)くんぞ言うに足らんや。夫れ人上と為る者、未だ其の善を求めざる有らず。但だ性は情に勝たず、耽惑して乱を成すを以てなり。耽惑既に甚だしければ、忠言は尽く塞がる。所以に臣下は苟も順い、君道は漸く虧く。古人に言有り、「小悪を以て去らずということ勿かれ。小善を以て為さずということ勿かれ」と。故に知る、禍福の来たるは、皆な漸より起こるを。殿下は地は儲貳に居る。当に須らく広く嘉猷を樹つべし。既に好畋の淫有らば、何を以て斯の匕鬯を主らんや。終わりを慎むこと始めの如くするも、猶お漸く衰えんことを恐る。始めすら尚お慎まずんば、終わり将た安くんぞ保たん。
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貞観政要・尊敬師傅臣聞く、四方を郊迎するは、孟侯の徳を成す所以なり。学に齒して三たび譲るは、元良の是に由りて貞を作す。斯れ皆な主祀の尊を屈し、下交の義を申(の)ぶ。故に芻言も咸な薦むるを得、睿問も旁く通ず。軒庭を出でずして、坐して天壌を知る。茲の道に率由し、永く鴻基を固くする者なり。生まれて深宮の中に在り、長じて婦人の手に在るが若きに至りては、未だ曾て憂懼を識らず、風雅を暁(さと)る由無し。復た神機測られず、天縦の生知なりと雖も、而も物を開き務を成すは、終に外の獎(すす)めに由る。夫の彼の干籥を崇び、茲の謡頌を聴くに匪(あら)ずんば、何を以て庶類を辨章し、彜倫を甄覈(けんかく)せんや。歴(あまね)く聖賢を考うるに、咸な玉を琢くに資る。是の故に周の儲は上哲なるも、望・奭を師として裕(ゆたか)さを加う。漢の嗣は深仁なるも、園・綺を引きて徳を昭らかにす。原(たず)ぬるに夫れ太子は、宗祧の是れ係る所なり。善悪の際、興亡斯に在り。始めに勤めずんば、将に終わりに悔いん。是を以て晁錯は書を上りて、政術に通ぜしめんとす。賈誼は策を献じて、礼教を知るに務む。窃かに惟うに、皇太子は玉裕挺生し、金声夙に振るう。明允篤誠の美、孝友仁義の方、皆な天姿より挺(ぬき)んず。審諭を労するに非ず。固より華夷は徳を仰ぎ、翔泳も風を希(ねが)う。然らば則ち寝門に膳を視るは、已に三朝に表る。芸宮に道を論ずるは、宜しく四術に弘むべし。春秋に富むと雖も、躬を飭(つつし)むこと漸有り。実に恐る、歳月は往き易く、業を墮ちて譏りを興し、適を晏安に取ること、此より始まらんことを。臣は愚短を以て、幸いに侍従に参ず。儲明を広めんことを思い、暫く聞徹せんことを願う。敢えて曲げて故事を陳べず。切に請う、聖徳を以て之を言わん。
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貞観政要・公平陛下は聡明神武、天姿英睿なり。志は泛愛に存し、引納すること多塗なり。善を好むも甚だしくは人を択ばず。悪を疾(にく)むも未だ佞を遠ざくる能わず。又た言を出すに隠す無く、悪を疾むこと太(はなは)だ深し。人の善を聞くも或いは未だ全くは信ぜず。人の悪を聞けば以て必然と為す。独見の明有りと雖も、猶お恐らくは理は或いは未だ尽くさざらん。何となれば、君子は人の善を揚げ、小人は人の悪を訐(あば)く。悪を聞きて必ず信ぜば、則ち小人の道長ぜん。善を聞きて或いは疑わば、則ち君子の道消えん。国家を為むる者は、君子を進めて小人を退くるに急なり。乃ち君子の道をして消えしめ、小人の道をして長ぜしめば、則ち君臣は序を失い、上下は否隔す。乱亡を恤(うれ)えずんば、将た何を以て治めんや。且つ世俗常人は、心に遠慮無く、情は告訐に在り、好んで朋党を言う。夫れ善を以て相い成すを同徳と謂い、悪を以て相い済(な)すを朋党と謂う。今は則ち清濁共に流れ、善悪別無し。告訐を以て誠直と為し、同徳を以て朋党と為す。之を朋党と為さば、則ち事は信ずべき無しと謂う。之を誠直と為さば、則ち言は皆な取るべしと謂う。此れ君恩の下に結ばれざる所以、臣忠の上に達せざる所以なり。大臣は辯正する能わず、小臣は之を敢えて論ずる莫し。遠近は風を承け、混然として俗を成す。国家の福に非ず、治を為むるの道に非ず。適(まさ)に以て奸邪を長じ、視聴を乱し、人君をして信ずる所を知らざらしめ、臣下をして相い安んずるを得ざらしむるに足る。若し遠慮せず、深く其の源を絶たずんば、則ち後患は未だ之れ息(や)まざるなり。今の幸いにして未だ敗れざるは、君に遠慮有りて、始めに之を失うと雖も、必ず終わりに之を得るに由る故なり。若し時に少しく隳(くず)るるに逢い、往きて返らずんば、之を悔いんと欲すと雖も、必ず及ぶ所無からん。既に以て諸を後嗣に伝うべからず。復た何を以て法を将来に垂れんや。且つ夫れ善を進め悪を黜(しりぞ)くるは、人に施す者なり。古を以て鑑と作すは、己に施す者なり。貌を鑑るは止水に在り、己を鑑るは哲人に在り。能く古の哲王を以て、己の行事に鑑みば、則ち貌の妍醜は宛然として目に在り、事の善悪は自ら心に得ん。司過の史を労する無く、芻蕘の議を仮らず、巍巍の功は日に著れ、赫赫の名は弥々遠からん。人君と為る者、務めざるべけんや。
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