貞観政要 / 規諫太子
下臣側聞先聖之格言,嘗覽載籍之遺則,伊天地之玄造,洎皇王之建國,曰人紀與人綱,資立言與立德。履之則率性成道,違之則罔念作忒。望興廢如從鈞,視吉凶如糾餧。至乃受圖膺籙,握鏡君臨。因萬物之思化,以百姓而爲心。體大儀之潛運,閱往古於來今。盡爲善於乙夜,惜勤勞於寸陰。故能釋層冰於瀚海,變寒穀於蹛林。總人靈以胥悦,極穹壤而懷音。
新字:下臣側聞先聖之格言,嘗覧載籍之遺則,伊天地之玄造,洎皇王之建国,曰人紀与人綱,資立言与立徳。履之則率性成道,違之則罔念作忒。望興廃如従鈞,視吉凶如糾餧。至乃受図膺籙,握鏡君臨。因万物之思化,以百姓而為心。体大儀之潜運,閲往古於来今。尽為善於乙夜,惜勤労於寸陰。故能釈層冰於瀚海,変寒穀於蹛林。総人霊以胥悦,極穹壤而懐音。
書き下し
下臣は側らに先聖の格言を聞き、嘗て載籍の遺則を覧る。伊(こ)れ天地の玄造、皇王の建国に洎(およ)ぶ。曰く、人紀と人綱は、立言と立徳とに資る、と。之を履めば則ち性に率いて道を成す。之に違えば則ち念(おも)う罔(な)くして忒(たが)いを作す。興廃を望むこと鈞(きん)に従うが如く、吉凶を視ること糾餧(きゅうい)の如し。乃ち図を受け籙に膺(あた)り、鏡を握りて君臨するに至る。万物の化を思うに因り、百姓を以て心と為す。大儀の潜運を体し、往古を来今に閲す。善を乙夜に尽くし、勤労を寸陰に惜しむ。故に能く層氷を瀚海に釈き、寒谷を蹛林(たいりん)に変ず。人霊を総べて以て胥(あ)い悦び、穹壌を極めて音を懐(なつ)かしむ。
現代語訳
下臣はかたわらで先聖の格言を聞き、かつて書物に残された規範を読みました。天地の玄妙な造化から、皇王が国を建てるまで。人の綱紀は、言葉を立て徳を立てることによる、といいます。これを踏めば、本性に従って道を成す。これに背けば、思慮なく過ちを犯す。興廃を望むことは陶工の轆轤に従うようであり、吉凶を見ることは縄を綯うようです。やがて天命を受け、鏡を握って君臨する。万物の教化を思い、百姓の心を自分の心とする。大いなる法則の運行を体し、過去を今に照らす。夜更けまで善を尽くし、わずかな時間の勤労を惜しむ。だからこそ、大海の厚い氷を溶かし、寒い谷を暖かい林に変えられる。人々の心を集めて共に喜び、天地の果てまで音を慕わせるのです。
解説
この章句が説くこと
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貞観政要・規諫太子赫たり聖唐、大なるかな霊命。時は維(こ)れ大始、運は上聖に鍾(あつ)まる。天は皇儲を縦(ゆる)し、本を固くし正に居らしむ。機悟は宏遠、神姿は凝映す。三善を顧みて必ず弘め、四徳を祗(つつし)みて行と為す。趨庭する毎に礼を聞き、常に寝を問いて敬に資(と)る。聖訓を奉じて以て周旋し、天文の明命を誕(の)ぶ。喬を観るを邁(すす)め梓を望む。即ち元亀と明鏡なり。大道の革(あらた)まりてより、礼教斯に起こる。以て君臣を正し、以て父子を篤くす。君臣の礼、父子の親、情義を尽くして以て兼ね極む。諒(まこと)に道を弘むるは人に在り。豈に夏の啓と周の誦、亦た丹朱と商均のみならんや。既に雕り且つ琢き、故きを温めて新しきを知る。惟れ忠と敬、曰く孝と仁。則ち以て下は四海を光らし、上は三辰を燭(て)らすべし。昔、三王の子を教うるや、四時を兼ねて以て学に齒す。将に中外に交々(こもごも)発せんとす。乃ち之に先んずるに礼楽を以てす。楽は以て風を移し俗を易(か)え、礼は以て上を安んじ人を化す。鐘鼓に悦ぶ有るに非ず。将に志を宣べて以て神を和せんとす。寧ぞ玉帛に懐う有らんや。将に己に克ちて以て身を庇わんとす。深宮の中に生まれ、群后の上に処る。未だ深く王業を思わず、自ら匕鬯(ひちょう)を珍とせず。富貴を自然と謂い、崇高を恃みて矜尚す。必ず驕狠を恣にし、動もすれば礼譲に愆(たが)う。師傅を軽んじて礼儀を慢(あなど)り、奸諂に狎(な)れて淫放を縦(ほしいまま)にす。前星の耀き遽(にわ)かに隠れ、少陽の道斯に諒(うす)し。天下を家と為すと雖も、夷倹を蹈むこと一に非ず。或いは才を以て升(のぼ)らるるを見、或いは讒を見て黜(しりぞ)けを受く。足れり以て厥(そ)の休咎を省み、其の得失を観るに。請う、粗ぼ略して之を陳べん。文を披(ひら)きて相い質さんことを覬(こいねが)う。
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貞観政要・規諫太子惟だ聖上の慈愛のみ、義方を至道に訓う。政を漢幄に論ずるに同じく、致戒を京鄗に修む。『韓子』の賜う所を鄙とし、経術を重んじて以て宝と為す。政理の美悪を咨(と)い、亦た文身の黼藻(ほそう)とす。庶(ちか)くは愚夫に択ぶ有り、遺老に言を乞うに慚ず。庶績を咸寧に致すは、先ず人を得るを盛と為す。帝堯は則哲を以て謨を垂れ、文王は多士を以て詠を興す。之を正人に取り、之を霊鏡に鑒(かんが)む。其の器能を量り、其の検行を審らかにす。必ず宜しく機を度りて職を分かつべし。方に違いて以て政に従うべからず。若し其れ聴受に惑い、人を知るに暗ければ、則ち有道の者は咸な屈し、無用の者は必ず伸ぶ。讒諛は競い進みて以て媚を求め、玩好は召さずして自ら臻(いた)る。直言正諫は、忠信を以てして罪を穫(え)、売官鬻獄(いくごく)は、貨賄を以てして親(したし)まる。是に於て我が王度を虧き、我が彜倫を斁(やぶ)る。九鼎は奸回に遇いて遠く逝き、万姓は我を撫するを望みて仁に帰す。蓋し造化の至育、惟だ人霊を貴しと為す。獄訟理まらずんば、生死の異塗有り。冤結伸びずんば、陰陽の和気に乖(そむ)く。士の通塞は、之を属するに深文を以てす。命の修短は、之を懸くるに酷吏を以てす。是の故に帝堯は像を画き、恤隠の言を陳ぶ。夏禹は辜(つみ)に泣き、哀矜の志を尽くす。象を『大壮』に取るに因り、乃ち宇を峻(たか)くして牆を雕(ほ)る。瑤台と瓊室とを将(もっ)てす。豈に画棟と虹梁のみならんや。或いは雲を凌ぎて以て遐(はる)かに観、或いは天に通じて涼を納る。醉飽を極めて人力を刑し、痿蹶(いけつ)を命じて身殃を受く。是を以て言うに十家の産を惜しみ、漢帝は倹を昭らかにして裕を垂る。百里の囿を成すと雖も、周文は子来を以て克く昌ゆ。彼の嘉会にして礼通ず、旨酒の徳為るを重んず。帰るを忘れて祉(さいわい)を受くるに至るは、斉聖にして温克なるに在り。若し其れ酗醟して以て昏を致し、酖湎(ちんめん)して忒(とく)を成さば、痛ましきかな殷受と灌夫、亦た身を亡ぼして国を喪う。是を以て伊尹は酣歌を以て戒を作り、周公は邦を乱すを以て則を貽(のこ)す。咨(ああ)幽閑の令淑、実に君子の好逑なり。玉輦を辞して愛を割くは、固より班姫の恥ずる所なり。簪珥を脱して愆を思うは、亦た宣姜の美と為す。乃ち晋を禍せし驪姫、周を喪ぼせし褒姒有り。妖妍を図画に尽くし、凶悖を人理に極む。城を傾け国を傾く。後王に昭示せんことを思う。麗質冶容、宜しく永く前史に鑒むべし。復た蒐狩の礼、弛射の場有り。之を節するに正義を以てせずんば、必ず自ら禽荒を致さん。匪(ひ)とり外形の疲極するのみならず、亦た中心も発狂す。夫れ高深を懼れざるは、胥靡の徒なり。韝緤(こうせつ)を娯しみと為すは、小豎の事なり。宗社の崇重を以て、先王の名器を持ち、鷹犬と並び駆け、艱険を凌ぎて轡を逸す。馬に銜橛(かんけつ)の理有り、獣は駭(おどろ)きて存せざるの地なり。猶お獲多きに靦(は)ずる有らんや。独り情無くして内に愧じざるか。
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貞観政要・規諫太子小臣の愚鄙を以て、不赀(ふし)の恩栄を忝(かたじけな)くす。無庸を草沢に擢(ぬきん)で、陋質を簪纓に齒す。大道行われて両儀泰(やす)きに遇い、元良会して万国貞なるを喜ぶ。監撫の暇多きを以て、講論する毎に肅(つつし)みて成る。仰ぎ惟うに神の敏速なる、将聖の聡明を歎ず。賢を秋実に礼してより、道を春卿に帰するに足る。芳年淑景、時和し気清し。華殿は邃(ふか)くして簾幃は静かなり。灌木は森として風雲は軽し。花は香を飄(ひるがえ)して笑日を動かし、嬌鶯は囀(さえず)りて相い哀鳴す。物華の繁靡なるを以て、尚お思いを将迎に絶つ。猶お允(まこと)に蹈みて倦まず、耽玩を極めて研精す。庸才に命じて筆を載せしめ、藻を天庭に摛(の)ぶるを謝す。洞簫の娯侍に異なり、飛蓋の縁情に殊なり。雅言を闕(か)きて以て徳を讃う。恩に報いんことを思いて生を軽んず。敢えて下拝して稽首し、永く風声を樹てんことを願う。皇霊の遐寿を奉じ、振古の鴻名に冠たらんことを。
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貞観政要・規諫太子臣聞く、上天は蓋(けだ)し高し。日月は其の徳を光らす。明君は聖に至る。輔佐は其の功を讃(たす)く。是を以て周の誦は儲に升り、毛・畢に匡さるるを見る。漢の盈は震に居り、黄・綺に資を取る。姫旦は法を伯禽に抗し、賈生は事を文帝に陳ぶ。咸な端士に殷勤にして、皆な正人に懇切なり。歴代の賢君、太子に丁寧ならざるは莫し。良(まこと)に地は上嗣に膺り、位は儲君に処るを以てなり。善なれば則ち率土は其の恩に沾(うるお)い、悪なれば則ち海内は其の禍に罹る。近ごろ聞く、僕寺・司馭・駕士・獣医は、春の初めより始めて、茲の夏の晩に迄(いた)るまで、常に内役に居り、分番に放たず、と。或いは家に尊親有るも、温凊(おんせい)を闕(か)く。或いは室に幼弱有るも、撫養を絶つ。春は既に其の耕墾を廃し、夏は又た其の播殖を妨ぐ。事は存育に乖(そむ)く。恐らくは怨嗟を致さん。倘(も)し天聴に聞こえなば、後悔何ぞ及ばん。又た突厥の達哥支等は、咸な是れ人面獣心なり。豈に礼義を以て期すべけんや。仁信を以て待すべからず。心は則ち未だ忠孝を識らず。言は則ち其の是非を辨ずる莫し。之に近づけば英声に損有り。之に昵(したし)めば盛徳に益無し。之を引きて閤に入るれば、人は皆な驚駭す。豈に臣が庸識のみ、独り不安を用(もっ)てせんや。殿下は必ず須らく上は至尊の聖情に副(そ)い、下は黎元の本望に允(かな)うべし。軽微の悪を以て避けざるべからず。小善を略して為さざるを容るる無かれ。理は漸を杜(ふさ)ぐの方を敦くし、須らく萌を防ぐの術有るべし。不肖を屏退し、賢良に狎近せよ。此くの如くんば則ち善道は日に隆く、徳音は自ら遠からん。
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貞観政要・規諫太子臣聞く、皇天に親無し。惟だ徳のみ是れ輔く。苟も天道に違わば、人神同じく棄つ。然れども古の三駆の礼は、殺を教うるを欲するに非ず。将に百姓の為に害を除かんとす。故に湯は一面を羅(あみ)し、天下は仁に帰す。今、苑内の娯猟は、名は游畋に異なりと雖も、若し之を行いて恒無くんば、終に雅度を虧かん。且つ傅説曰く、「学びて古を師とせずんば、説の聞く攸(ところ)に匪ず」と。然らば則ち道を弘むるは古を学ぶに在り。古を学ぶは必ず師訓に資る。既に恩詔を奉じ、孔穎達をして侍講せしむ。望むらくは数々顧問を存し、以て万一を補え。仍お博く名行有る学士を選び、兼ねて朝夕に侍奉せしめよ。聖人の遺教を覧、既往の行事を察せば、日に其の足らざる所を知り、月に其の能くする所を忘るる無し。此れ則ち尽く善く尽く美なり。夏の啓・周の誦も焉(いず)くんぞ言うに足らんや。夫れ人上と為る者、未だ其の善を求めざる有らず。但だ性は情に勝たず、耽惑して乱を成すを以てなり。耽惑既に甚だしければ、忠言は尽く塞がる。所以に臣下は苟も順い、君道は漸く虧く。古人に言有り、「小悪を以て去らずということ勿かれ。小善を以て為さずということ勿かれ」と。故に知る、禍福の来たるは、皆な漸より起こるを。殿下は地は儲貳に居る。当に須らく広く嘉猷を樹つべし。既に好畋の淫有らば、何を以て斯の匕鬯を主らんや。終わりを慎むこと始めの如くするも、猶お漸く衰えんことを恐る。始めすら尚お慎まずんば、終わり将た安くんぞ保たん。
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貞観政要・尊敬師傅臣聞く、四方を郊迎するは、孟侯の徳を成す所以なり。学に齒して三たび譲るは、元良の是に由りて貞を作す。斯れ皆な主祀の尊を屈し、下交の義を申(の)ぶ。故に芻言も咸な薦むるを得、睿問も旁く通ず。軒庭を出でずして、坐して天壌を知る。茲の道に率由し、永く鴻基を固くする者なり。生まれて深宮の中に在り、長じて婦人の手に在るが若きに至りては、未だ曾て憂懼を識らず、風雅を暁(さと)る由無し。復た神機測られず、天縦の生知なりと雖も、而も物を開き務を成すは、終に外の獎(すす)めに由る。夫の彼の干籥を崇び、茲の謡頌を聴くに匪(あら)ずんば、何を以て庶類を辨章し、彜倫を甄覈(けんかく)せんや。歴(あまね)く聖賢を考うるに、咸な玉を琢くに資る。是の故に周の儲は上哲なるも、望・奭を師として裕(ゆたか)さを加う。漢の嗣は深仁なるも、園・綺を引きて徳を昭らかにす。原(たず)ぬるに夫れ太子は、宗祧の是れ係る所なり。善悪の際、興亡斯に在り。始めに勤めずんば、将に終わりに悔いん。是を以て晁錯は書を上りて、政術に通ぜしめんとす。賈誼は策を献じて、礼教を知るに務む。窃かに惟うに、皇太子は玉裕挺生し、金声夙に振るう。明允篤誠の美、孝友仁義の方、皆な天姿より挺(ぬき)んず。審諭を労するに非ず。固より華夷は徳を仰ぎ、翔泳も風を希(ねが)う。然らば則ち寝門に膳を視るは、已に三朝に表る。芸宮に道を論ずるは、宜しく四術に弘むべし。春秋に富むと雖も、躬を飭(つつし)むこと漸有り。実に恐る、歳月は往き易く、業を墮ちて譏りを興し、適を晏安に取ること、此より始まらんことを。臣は愚短を以て、幸いに侍従に参ず。儲明を広めんことを思い、暫く聞徹せんことを願う。敢えて曲げて故事を陳べず。切に請う、聖徳を以て之を言わん。
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