貞観政要 / 尊敬師傅
竊以良娣之選,遍於中國。仰惟聖旨,本求典內,冀防微,慎遠慮,臣下所知。暨乎徵簡人物,則與聘納相違,監撫二周,未近一士。愚謂內既如彼,外亦宜然者。恐招物議,謂陛下重內而輕外也。古之太子,問安而退,所以廣敬於君父;異宮而處,所以分別於嫌疑。今太子一侍天闈,動移旬朔,師傅已下,無由接見。假令供奉有隟,暫還東朝,拜謁既疏,且事俯仰,規諫之道,固所未暇。陛下不可以親教,宮寀無因以進言,雖有具寮,竟將何補?
新字:窃以良娣之選,遍於中国。仰惟聖旨,本求典内,冀防微,慎遠慮,臣下所知。暨乎徴簡人物,則与聘納相違,監撫二周,未近一士。愚謂内既如彼,外亦宜然者。恐招物議,謂陛下重内而軽外也。古之太子,問安而退,所以広敬於君父;異宮而処,所以分別於嫌疑。今太子一侍天闈,動移旬朔,師傅已下,無由接見。仮令供奉有隟,暫還東朝,拝謁既疏,且事俯仰,規諫之道,固所未暇。陛下不可以親教,宮寀無因以進言,雖有具寮,竟将何補?
書き下し
窃かに以えらく、良娣の選は、中国に遍し。仰ぎ惟うに聖旨は、本と内を典(つかさど)るを求む。微を防ぎ、遠慮を慎まんことを冀う。臣下の知る所なり。人物を徴簡するに暨(およ)びては、則ち聘納と相い違う。監撫二周なるも、未だ一士に近づかず。愚謂えらく、内は既に彼くの如し。外も亦た宜しく然るべし、と。恐らくは物議を招き、陛下は内を重んじて外を軽んずと謂わん。古の太子は、安を問いて退く。敬を君父に広むる所以なり。宮を異にして処る。嫌疑を分別する所以なり。今、太子は一たび天闈に侍すれば、動もすれば旬朔を移す。師傅已下、接見する由無し。仮令(たと)い供奉に隟有り、暫く東朝に還るも、拝謁既に疏に、且つ事は俯仰す。規諫の道、固より未だ暇あらざる所なり。陛下は以て親しく教うべからず。宮寀は因りて以て進言する無し。具寮有りと雖も、竟に将た何をか補わん。
現代語訳
ひそかに思いますに、太子妃の選定は、国中に及んでいます。仰ぎ思いますに、陛下のご意向は、もともと内をつかさどる者を求め、微細な兆しを防ぎ、遠い先を慎重に考えようとされたのでしょう。臣下の知るところです。ところが人物を選ぶ段になると、迎え入れる基準と食い違います。太子となって二年、まだ一人の士にも近づいていません。愚かに思いますに、内をあれほど慎重にされるなら、外もそうあるべきです。おそらく世の議論を招き、陛下は内を重んじて外を軽んじると言われるでしょう。昔の太子は、安否を問うて退きました。父君への敬を広めるためです。宮を別にして住みました。疑いを分けるためです。今、太子は一度宮中に侍ると、十日も一ヶ月も動かない。師傅以下は、会う手立てがありません。たとえお仕えの合間に、しばらく東宮に戻っても、拝謁はまばらで、事は形ばかり。諫める道など、余裕がありません。陛下は自ら教えることができない。東宮の官も、進言する手立てがない。官僚が揃っていても、いったい何の補いになりましょう。
解説
この章句が説くこと
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貞観政要・尊敬師傅臣聞く、四方を郊迎するは、孟侯の徳を成す所以なり。学に齒して三たび譲るは、元良の是に由りて貞を作す。斯れ皆な主祀の尊を屈し、下交の義を申(の)ぶ。故に芻言も咸な薦むるを得、睿問も旁く通ず。軒庭を出でずして、坐して天壌を知る。茲の道に率由し、永く鴻基を固くする者なり。生まれて深宮の中に在り、長じて婦人の手に在るが若きに至りては、未だ曾て憂懼を識らず、風雅を暁(さと)る由無し。復た神機測られず、天縦の生知なりと雖も、而も物を開き務を成すは、終に外の獎(すす)めに由る。夫の彼の干籥を崇び、茲の謡頌を聴くに匪(あら)ずんば、何を以て庶類を辨章し、彜倫を甄覈(けんかく)せんや。歴(あまね)く聖賢を考うるに、咸な玉を琢くに資る。是の故に周の儲は上哲なるも、望・奭を師として裕(ゆたか)さを加う。漢の嗣は深仁なるも、園・綺を引きて徳を昭らかにす。原(たず)ぬるに夫れ太子は、宗祧の是れ係る所なり。善悪の際、興亡斯に在り。始めに勤めずんば、将に終わりに悔いん。是を以て晁錯は書を上りて、政術に通ぜしめんとす。賈誼は策を献じて、礼教を知るに務む。窃かに惟うに、皇太子は玉裕挺生し、金声夙に振るう。明允篤誠の美、孝友仁義の方、皆な天姿より挺(ぬき)んず。審諭を労するに非ず。固より華夷は徳を仰ぎ、翔泳も風を希(ねが)う。然らば則ち寝門に膳を視るは、已に三朝に表る。芸宮に道を論ずるは、宜しく四術に弘むべし。春秋に富むと雖も、躬を飭(つつし)むこと漸有り。実に恐る、歳月は往き易く、業を墮ちて譏りを興し、適を晏安に取ること、此より始まらんことを。臣は愚短を以て、幸いに侍従に参ず。儲明を広めんことを思い、暫く聞徹せんことを願う。敢えて曲げて故事を陳べず。切に請う、聖徳を以て之を言わん。
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貞観政要・尊敬師傅伏して惟うに、陛下は睿を誕(う)み図に膺(あた)り、登庸して歴試す。多才多芸、道は時を匡すに著る。允(まこと)に文允に武、功は祀を纂(つ)ぐに成る。万方即ち叙し、九囲清晏なり。尚お且つ休(よ)しと雖も休しとする勿く、日に一日を慎み、異聞を振古に求め、睿思を当年に労す。乙夜に書を観るは、事は漢帝より高し。馬上に巻を披(ひら)くは、勤は魏王に過ぐ。陛下の自ら励むこと此くの如し。而るに太子をして優遊して日を棄て、図書を習わざらしむ。臣の未だ諭(さと)らざる一なり。加うるに暫く機務を屏(しりぞ)くれば、即ち雕虫に寓す。宝思を天文に紆(めぐ)らせば、則ち長河も映を韜(つつ)む。玉華を仙札に摛(の)ぶれば、則ち流霞も彩を成す。固より万代を錙銖(ししゅ)とし、百王に冠冕たり。屈・宋も以て堂に升るに足らず。鍾・張も何ぞ室に入るに階せんや。陛下の自ら好むこと此くの如し。而るに太子は悠然として静処し、篇翰を尋ねず。臣の未だ諭らざる二なり。陛下は衆妙を備え該(か)ね、独り寰中に秀(ひい)ず。猶お天聡を晦(くら)まし、俯して凡識に詢(と)う。聴朝の隟(ひま)に、群官を引見し、降すに温顔を以てし、訪ぬるに今古を以てす。故に朝廷の是非、閭里の好悪、凡そ巨細有るは、必ず聞聴に関す。陛下の自ら行うこと此くの如し。而るに太子をして久しく趨りて入侍せしめ、正人に接せしめず。臣の未だ諭らざる三なり。陛下若し益無しと謂わば、則ち何事ぞ神を労せん。若し成る有りと謂わば、則ち宜しく厥(そ)れを貽(のこ)すを申(の)ぶべし。蔑(な)みして急とせざるは、未だ其の可なるを見ず。伏して願わくは俯して睿範を推し、訓を儲君に及ぼし、授くるに良書を以てし、之を娯しますに嘉客を以てせよ。朝には経史を披き、成敗を前蹤に観る。晩には賓遊に接し、得失を当代に訪う。間(まじ)うるに書札を以てし、継ぐに篇章を以てせば、則ち日に未だ聞かざる所を聞き、日に未だ見ざる所を見ん。副德は愈々光り、群生の福なり。
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貞観政要・規諫太子臣は愚蔽を以て、位を両宮に窃む。臣に在りては江海の潤い有るも、国に於ては秋毫の益無し。是を用て必ず愚誠を竭くし、臣節を尽くさんことを思う者なり。伏して惟うに儲君の寄は、荷戴すること殊に重し。如し其れ徳を積むこと弘からずんば、何を以て成業を嗣ぎ守らん。聖上は殿下を以て、親しくは則ち父子、事は家国を兼ぬ。応(まさ)に用うべき所の物は節限を為さず。恩旨は未だ六旬を逾えざるに、用物は已に七万を過ぐ。驕奢の極み、孰か此に過ぐと云わんや。龍楼の下、惟だ工匠を聚む。望苑の内、賢良を睹(み)ず。今、孝敬を言えば、則ち侍膳問豎の礼を闕く。恭順を語れば、則ち君父慈訓の方に違う。風声を求むれば、則ち学古好道の実無し。挙措を観れば、則ち縁に因りて誅戮するの罪有り。宮臣正士は、未だ嘗て側に在らず。群邪淫巧は、深宮に昵近す。愛好する者は皆な游伎雑色。施与する者は並びに図画雕鏤。外に在りて瞻仰するに、已に此の失有り。中に居りて隠密なるは、寧ぞ勝げて計うべけんや。宣猷の禁門は、闤闠(かんかい)に異ならず。朝に入りて暮に出づ。悪声漸く遠し。右庶子趙弘智は経明らかに行い修まる。当今の善士なり。臣は毎に数々召し進め、之と談論し、庶(ちか)くは徽猷を広めんことを請い望む。令旨は反って猜嫌有り、臣が妄りに相い推引すと謂う。善に従うこと流るるが如きも、尚お逮ばざるを恐る。非を飾り諫を拒まば、必ず是れ損を招かん。古人云う、「苦薬は病に利あり。苦口は行に利あり」と。伏して願わくは安きに居りて危うきを思い、日に一日を慎め。
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貞観政要・尊敬師傅貞観十八年、高宗初めて立ちて皇太子と為る。尚お未だ賢を尊び道を重んぜず。太宗又た嘗て太子をして寝殿の側に居らしめ、絶えて東宮に往かしめず。散騎常侍劉洎、書を上りて曰く、
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貞観政要・規諫太子臣聞く、上天は蓋(けだ)し高し。日月は其の徳を光らす。明君は聖に至る。輔佐は其の功を讃(たす)く。是を以て周の誦は儲に升り、毛・畢に匡さるるを見る。漢の盈は震に居り、黄・綺に資を取る。姫旦は法を伯禽に抗し、賈生は事を文帝に陳ぶ。咸な端士に殷勤にして、皆な正人に懇切なり。歴代の賢君、太子に丁寧ならざるは莫し。良(まこと)に地は上嗣に膺り、位は儲君に処るを以てなり。善なれば則ち率土は其の恩に沾(うるお)い、悪なれば則ち海内は其の禍に罹る。近ごろ聞く、僕寺・司馭・駕士・獣医は、春の初めより始めて、茲の夏の晩に迄(いた)るまで、常に内役に居り、分番に放たず、と。或いは家に尊親有るも、温凊(おんせい)を闕(か)く。或いは室に幼弱有るも、撫養を絶つ。春は既に其の耕墾を廃し、夏は又た其の播殖を妨ぐ。事は存育に乖(そむ)く。恐らくは怨嗟を致さん。倘(も)し天聴に聞こえなば、後悔何ぞ及ばん。又た突厥の達哥支等は、咸な是れ人面獣心なり。豈に礼義を以て期すべけんや。仁信を以て待すべからず。心は則ち未だ忠孝を識らず。言は則ち其の是非を辨ずる莫し。之に近づけば英声に損有り。之に昵(したし)めば盛徳に益無し。之を引きて閤に入るれば、人は皆な驚駭す。豈に臣が庸識のみ、独り不安を用(もっ)てせんや。殿下は必ず須らく上は至尊の聖情に副(そ)い、下は黎元の本望に允(かな)うべし。軽微の悪を以て避けざるべからず。小善を略して為さざるを容るる無かれ。理は漸を杜(ふさ)ぐの方を敦くし、須らく萌を防ぐの術有るべし。不肖を屏退し、賢良に狎近せよ。此くの如くんば則ち善道は日に隆く、徳音は自ら遠からん。
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貞観政要・規諫太子臣聞く、皇子の学に入りて胄を齒(よわい)すと称するは、太子をして君臣・父子・尊卑・長幼の道を知らしめんと欲すればなり。然らば則ち君臣の義、父子の親、尊卑の序、長幼の節は、之を方寸の内に用い、之を四海の外に弘むる者は、皆な行いに因りて以て遠く聞こえ、言を仮りて以て光被す。伏して惟うに殿下は、睿質已に隆し。尚お須らく学文して以て其の表を飾るべし。窃かに見るに孔穎達・趙弘智等は、惟だ宿徳の鴻儒なるのみに非ず、亦た兼ねて政要に達す。望むらくは数々侍講を得しめ、物理を開釈し、古を覧て今を論じ、睿徳を増輝せしめよ。騎射畋游、酣歌妓玩の如きに至りては、苟も耳目を悦ばすも、終に心神を穢す。漸染既に久しければ、必ず情性を移す。古人に言有り、「心は万事の主為り。動きて節無くんば即ち乱る」と。恐らくは殿下の徳を敗るの源は、此に在らんか。
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