貞観政要 / 尊敬師傅
伏惟陛下誕睿膺圖,登庸歷試。多才多藝,道著於匡時;允文允武,功成於纂祀。萬方即敘,九圍清晏。尚且雖休勿休,日慎一日,求異聞於振古,勞睿思於當年。乙夜觀書,事高漢帝;馬上披卷,勤過魏王。陛下自勵如此,而令太子優遊棄日,不習圖書,臣所未諭一也。加以暫屏機務,即寓雕蟲。紆寶思於天文,則長河韜映;摛玉華於仙劄,則流霞成彩。固以錙銖萬代,冠冕百王,屈、宋不足以升堂,鍾、張何階於入室。陛下自好如此,而太子悠然靜處,不尋篇翰,臣所未諭二也。陛下備該眾妙,獨秀寰中,猶晦天聰,俯詢凡識。聽朝之隟,引見群官,降以溫顏,訪以今古。故得朝廷是非,閭里好惡,凡有巨細,必關聞聽。陛下自行如此,而令太子久趨入侍,不接正人,臣所未諭三也。陛下若謂無益,則何事勞神;若謂有成,則宜申貽厥。蔑而不急,未見其可。伏願俯推睿範,訓及儲君,授以良書,娛之嘉客。朝披經史,觀成敗於前蹤;晚接賓遊,訪得失於當代。間以書劄,繼以篇章,則日聞所未聞,日見所未見。副德愈光,群生之福也。
新字:伏惟陛下誕睿膺図,登庸歴試。多才多芸,道著於匡時;允文允武,功成於纂祀。万方即敘,九囲清晏。尚且雖休勿休,日慎一日,求異聞於振古,労睿思於当年。乙夜観書,事高漢帝;馬上披巻,勤過魏王。陛下自励如此,而令太子優遊棄日,不習図書,臣所未諭一也。加以暫屏機務,即寓雕虫。紆宝思於天文,則長河韜映;摛玉華於仙劄,則流霞成彩。固以錙銖万代,冠冕百王,屈、宋不足以升堂,鍾、張何階於入室。陛下自好如此,而太子悠然静処,不尋篇翰,臣所未諭二也。陛下備該衆妙,独秀寰中,猶晦天聰,俯詢凡識。聴朝之隟,引見群官,降以温顔,訪以今古。故得朝廷是非,閭里好悪,凡有巨細,必関聞聴。陛下自行如此,而令太子久趨入侍,不接正人,臣所未諭三也。陛下若謂無益,則何事労神;若謂有成,則宜申貽厥。蔑而不急,未見其可。伏願俯推睿範,訓及儲君,授以良書,娯之嘉客。朝披経史,観成敗於前蹤;晩接賓遊,訪得失於当代。間以書劄,継以篇章,則日聞所未聞,日見所未見。副徳愈光,群生之福也。
書き下し
伏して惟うに、陛下は睿を誕(う)み図に膺(あた)り、登庸して歴試す。多才多芸、道は時を匡すに著る。允(まこと)に文允に武、功は祀を纂(つ)ぐに成る。万方即ち叙し、九囲清晏なり。尚お且つ休(よ)しと雖も休しとする勿く、日に一日を慎み、異聞を振古に求め、睿思を当年に労す。乙夜に書を観るは、事は漢帝より高し。馬上に巻を披(ひら)くは、勤は魏王に過ぐ。陛下の自ら励むこと此くの如し。而るに太子をして優遊して日を棄て、図書を習わざらしむ。臣の未だ諭(さと)らざる一なり。加うるに暫く機務を屏(しりぞ)くれば、即ち雕虫に寓す。宝思を天文に紆(めぐ)らせば、則ち長河も映を韜(つつ)む。玉華を仙札に摛(の)ぶれば、則ち流霞も彩を成す。固より万代を錙銖(ししゅ)とし、百王に冠冕たり。屈・宋も以て堂に升るに足らず。鍾・張も何ぞ室に入るに階せんや。陛下の自ら好むこと此くの如し。而るに太子は悠然として静処し、篇翰を尋ねず。臣の未だ諭らざる二なり。陛下は衆妙を備え該(か)ね、独り寰中に秀(ひい)ず。猶お天聡を晦(くら)まし、俯して凡識に詢(と)う。聴朝の隟(ひま)に、群官を引見し、降すに温顔を以てし、訪ぬるに今古を以てす。故に朝廷の是非、閭里の好悪、凡そ巨細有るは、必ず聞聴に関す。陛下の自ら行うこと此くの如し。而るに太子をして久しく趨りて入侍せしめ、正人に接せしめず。臣の未だ諭らざる三なり。陛下若し益無しと謂わば、則ち何事ぞ神を労せん。若し成る有りと謂わば、則ち宜しく厥(そ)れを貽(のこ)すを申(の)ぶべし。蔑(な)みして急とせざるは、未だ其の可なるを見ず。伏して願わくは俯して睿範を推し、訓を儲君に及ぼし、授くるに良書を以てし、之を娯しますに嘉客を以てせよ。朝には経史を披き、成敗を前蹤に観る。晩には賓遊に接し、得失を当代に訪う。間(まじ)うるに書札を以てし、継ぐに篇章を以てせば、則ち日に未だ聞かざる所を聞き、日に未だ見ざる所を見ん。副德は愈々光り、群生の福なり。
現代語訳
伏して思いますに、陛下は聡明さを生まれ持ち、天命に当たり、登用され試練を経てこられました。多才多芸で、道は時代を正すことに現れています。まことに文にも武にも秀で、功は帝業を継ぐことに成りました。四方は治まり、天下は清く安らかです。それでもなお、良しとせず、日々慎み、聞いたことのない教えを古に求め、思いを今の世に労しておられる。夜更けまで書を読むのは、漢の文帝より上です。馬上で巻物を開くのは、勤めが魏の武帝を超えています。陛下ご自身がこれほど励んでおられる。それなのに太子には、のんびりと日を過ごさせ、書物を学ばせない。臣が理解できない第一です。加えて、政務を離れれば、すぐ詩文に心を寄せられる。思いを天の文に巡らせれば、天の川もその光を隠す。玉のような言葉を綴れば、流れる霞も彩りを成す。万代を軽んじ、百王に冠たるものです。屈原や宋玉も及ばず、鍾繇や張芝も足元にも及ばない。陛下ご自身がこれほど好んでおられる。それなのに太子は悠然として静かに過ごし、文章を求めない。臣が理解できない第二です。陛下はあらゆる妙を備え、天下に独り秀でておられる。それでも聡明さを隠し、凡人に問われる。朝政の合間に群臣を引見し、和やかな顔を向け、今と昔を尋ねられる。だから朝廷の是非、里の好悪、大小すべてが耳に入る。陛下ご自身がこう行っておられる。それなのに太子には、久しく側に侍らせ、正しい人に接させない。臣が理解できない第三です。陛下がもし益がないと思われるなら、なぜご自身は心を労されるのですか。もし成果があると思われるなら、それを伝えるべきです。軽んじて急がないのは、よろしくありません。伏して願わくは、ご自身の模範を推し及ぼし、教えを太子にまで及ぼし、良書を授け、良き客と楽しませてください。朝には経書と史書を開き、成敗を過去の跡に見る。夕べには客人と交わり、得失を今の世に問う。間に手紙を交わし、文章を書けば、日々まだ聞かぬことを聞き、まだ見ぬことを見るでしょう。太子の徳はますます輝き、万民の幸いとなります。
解説
この章句が説くこと
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貞観政要・尊敬師傅窃かに以えらく、良娣の選は、中国に遍し。仰ぎ惟うに聖旨は、本と内を典(つかさど)るを求む。微を防ぎ、遠慮を慎まんことを冀う。臣下の知る所なり。人物を徴簡するに暨(およ)びては、則ち聘納と相い違う。監撫二周なるも、未だ一士に近づかず。愚謂えらく、内は既に彼くの如し。外も亦た宜しく然るべし、と。恐らくは物議を招き、陛下は内を重んじて外を軽んずと謂わん。古の太子は、安を問いて退く。敬を君父に広むる所以なり。宮を異にして処る。嫌疑を分別する所以なり。今、太子は一たび天闈に侍すれば、動もすれば旬朔を移す。師傅已下、接見する由無し。仮令(たと)い供奉に隟有り、暫く東朝に還るも、拝謁既に疏に、且つ事は俯仰す。規諫の道、固より未だ暇あらざる所なり。陛下は以て親しく教うべからず。宮寀は因りて以て進言する無し。具寮有りと雖も、竟に将た何をか補わん。
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貞観政要・規諫太子臣聞く、上天は蓋(けだ)し高し。日月は其の徳を光らす。明君は聖に至る。輔佐は其の功を讃(たす)く。是を以て周の誦は儲に升り、毛・畢に匡さるるを見る。漢の盈は震に居り、黄・綺に資を取る。姫旦は法を伯禽に抗し、賈生は事を文帝に陳ぶ。咸な端士に殷勤にして、皆な正人に懇切なり。歴代の賢君、太子に丁寧ならざるは莫し。良(まこと)に地は上嗣に膺り、位は儲君に処るを以てなり。善なれば則ち率土は其の恩に沾(うるお)い、悪なれば則ち海内は其の禍に罹る。近ごろ聞く、僕寺・司馭・駕士・獣医は、春の初めより始めて、茲の夏の晩に迄(いた)るまで、常に内役に居り、分番に放たず、と。或いは家に尊親有るも、温凊(おんせい)を闕(か)く。或いは室に幼弱有るも、撫養を絶つ。春は既に其の耕墾を廃し、夏は又た其の播殖を妨ぐ。事は存育に乖(そむ)く。恐らくは怨嗟を致さん。倘(も)し天聴に聞こえなば、後悔何ぞ及ばん。又た突厥の達哥支等は、咸な是れ人面獣心なり。豈に礼義を以て期すべけんや。仁信を以て待すべからず。心は則ち未だ忠孝を識らず。言は則ち其の是非を辨ずる莫し。之に近づけば英声に損有り。之に昵(したし)めば盛徳に益無し。之を引きて閤に入るれば、人は皆な驚駭す。豈に臣が庸識のみ、独り不安を用(もっ)てせんや。殿下は必ず須らく上は至尊の聖情に副(そ)い、下は黎元の本望に允(かな)うべし。軽微の悪を以て避けざるべからず。小善を略して為さざるを容るる無かれ。理は漸を杜(ふさ)ぐの方を敦くし、須らく萌を防ぐの術有るべし。不肖を屏退し、賢良に狎近せよ。此くの如くんば則ち善道は日に隆く、徳音は自ら遠からん。
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