貞観政要 / 尊敬師傅
臣聞郊迎四方,孟侯所以成德;齒學三讓,元良由是作貞。斯皆屈主祀之尊,申下交之義。故得芻言咸薦,睿問旁通,不出軒庭,坐知天壤,率由茲道,永固鴻基者焉。至若生乎深宮之中,長乎婦人之手,未曾識憂懼,無由曉風雅。雖復神機不測,天縱生知,而開物成務,終由外獎。匪夫崇彼幹籥,聽茲謠頌,何以辨章庶類,甄覈彜倫?歷考聖賢,咸資琢玉。是故周儲上哲,師望、奭而加裕;漢嗣深仁,引園、綺而昭德。原夫太子,宗祧是系,善惡之際,興亡斯在,不勤於始,將悔於終。是以晁錯上書,令通政術;賈誼獻策,務知禮教。竊惟皇太子玉裕挺生,金聲夙振,明允篤誠之美,孝友仁義之方,皆挺自天姿,非勞審諭,固以華夷仰德,翔泳希風矣。然則寢門視膳,已表於三朝;藝宮論道,宜弘於四術。雖富於春秋,飭躬有漸,實恐歲月易往,墮業興譏,取適晏安,言從此始。臣以愚短,幸參侍從,思廣儲明,暫願聞徹,不敢曲陳故事,切請以聖德言之。
新字:臣聞郊迎四方,孟侯所以成徳;齒學三譲,元良由是作貞。斯皆屈主祀之尊,申下交之義。故得芻言咸薦,睿問旁通,不出軒庭,坐知天壤,率由茲道,永固鴻基者焉。至若生乎深宮之中,長乎婦人之手,未曽識憂懼,無由暁風雅。雖復神機不測,天縦生知,而開物成務,終由外獎。匪夫崇彼幹籥,聴茲謡頌,何以辨章庶類,甄覈彜倫?歴考聖賢,咸資琢玉。是故周儲上哲,師望、奭而加裕;漢嗣深仁,引園、綺而昭徳。原夫太子,宗祧是系,善悪之際,興亡斯在,不勤於始,将悔於終。是以晁錯上書,令通政術;賈誼献策,務知礼教。竊惟皇太子玉裕挺生,金声夙振,明允篤誠之美,孝友仁義之方,皆挺自天姿,非労審諭,固以華夷仰徳,翔泳希風矣。然則寝門視膳,已表於三朝;芸宮論道,宜弘於四術。雖富於春秋,飭躬有漸,実恐歲月易往,堕業興譏,取適晏安,言従此始。臣以愚短,幸参侍従,思広儲明,暫願聞徹,不敢曲陳故事,切請以聖徳言之。
書き下し
臣聞く、四方を郊迎するは、孟侯の徳を成す所以なり。学に齒して三たび譲るは、元良の是に由りて貞を作す。斯れ皆な主祀の尊を屈し、下交の義を申(の)ぶ。故に芻言も咸な薦むるを得、睿問も旁く通ず。軒庭を出でずして、坐して天壌を知る。茲の道に率由し、永く鴻基を固くする者なり。生まれて深宮の中に在り、長じて婦人の手に在るが若きに至りては、未だ曾て憂懼を識らず、風雅を暁(さと)る由無し。復た神機測られず、天縦の生知なりと雖も、而も物を開き務を成すは、終に外の獎(すす)めに由る。夫の彼の干籥を崇び、茲の謡頌を聴くに匪(あら)ずんば、何を以て庶類を辨章し、彜倫を甄覈(けんかく)せんや。歴(あまね)く聖賢を考うるに、咸な玉を琢くに資る。是の故に周の儲は上哲なるも、望・奭を師として裕(ゆたか)さを加う。漢の嗣は深仁なるも、園・綺を引きて徳を昭らかにす。原(たず)ぬるに夫れ太子は、宗祧の是れ係る所なり。善悪の際、興亡斯に在り。始めに勤めずんば、将に終わりに悔いん。是を以て晁錯は書を上りて、政術に通ぜしめんとす。賈誼は策を献じて、礼教を知るに務む。窃かに惟うに、皇太子は玉裕挺生し、金声夙に振るう。明允篤誠の美、孝友仁義の方、皆な天姿より挺(ぬき)んず。審諭を労するに非ず。固より華夷は徳を仰ぎ、翔泳も風を希(ねが)う。然らば則ち寝門に膳を視るは、已に三朝に表る。芸宮に道を論ずるは、宜しく四術に弘むべし。春秋に富むと雖も、躬を飭(つつし)むこと漸有り。実に恐る、歳月は往き易く、業を墮ちて譏りを興し、適を晏安に取ること、此より始まらんことを。臣は愚短を以て、幸いに侍従に参ず。儲明を広めんことを思い、暫く聞徹せんことを願う。敢えて曲げて故事を陳べず。切に請う、聖徳を以て之を言わん。
現代語訳
臣はこう聞いております。四方の使者を郊外まで迎えたのは、周の成王が徳を成した理由です。学校で年齢の順に従い、三度譲ったのは、太子がそれによって正しさを成したのです。これらはみな、祭祀を主宰する尊い身を屈し、下の者と交わる義を示したものです。だから草刈りの言葉さえも献じられ、太子の問いは広く通じた。宮廷を出ずとも、座して天地を知った。この道に従って、永く大いなる基を固めたのです。深い宮中に生まれ、女性の手で育ち、憂いも恐れも知らず、風雅を悟る手立てもない者に至っては。たとえ心の働きが測りがたく、生まれつき知る者であっても、物事を開き務めを成すのは、結局は外からの励ましによります。あの音楽を尊び、この歌謡を聴くのでなければ、どうして万物を弁別し、人倫を見極められましょう。あまねく聖賢を調べれば、みな玉を磨くように学んでいます。だから周の太子は最上の賢者でありながら、太公望と召公を師として豊かさを加えました。漢の太子は仁が深くありながら、園公と綺里季を招いて徳を明らかにしました。そもそも太子は、宗廟の継承がかかっている。善悪の境目に、興亡がある。初めに努めなければ、終わりに悔いるでしょう。だから晁錯は上書して政治の術に通じさせようとし、賈誼は策を献じて礼教を知らせようと努めました。ひそかに思いますに、皇太子は玉のごとき資質が抜きん出て、金の音のような名声が早くから響いています。明晰で誠実な美点、孝と友愛と仁義の方向は、みな天性から抜きん出ている。教え諭す苦労は要りません。もとより内外は徳を仰ぎ、鳥も魚も風に憧れます。しかし寝室の門で食事を看ることは、すでに三朝に表れています。学問の場で道を論じることは、四つの学術に広げるべきです。年はお若いとはいえ、身を慎むことは順を追って進むもの。まことに恐れますのは、歳月は過ぎやすく、学業を怠って謗りを招き、安逸に安んじることが、ここから始まりはしないかということです。臣は愚かで浅い身ながら、幸いに侍従に加わっております。太子の明を広めたいと思い、しばらくお耳に入れたい。あえて故事を並べ立てはしません。切にお願いします。陛下ご自身の聖徳をもって語らせてください。