貞観政要 / 封建
伏見詔書令宗室勛賢作鎮藩部,貽厥子孫,嗣守其政,非有大故,無或黜免。臣竊惟陛下封植之者,誠愛之重之,欲其緒裔承守,與國無疆。可則?以堯、舜之父,猶有朱、均之子?況下此以還,而欲以父取兒,恐失之遠矣。儻有孩童嗣職,萬一驕逸,則兆庶被其殃,而國家受其敗。政欲絕之也,則子文之理猶在;政欲留之也,而欒黡之惡已彰。與其毒害於見存之百姓,則寧使割恩於已亡之一臣,明矣。然則鄉之所謂愛之者,乃適所以傷之也。臣謂宜賦以茅土,疇其戶邑,必有材行,隨器方授,則翰翮非強,亦可以獲免尤累。昔漢光武不任功臣以吏事,所以終全其世者,良由得其術也。願陛下深思其宜,使夫得奉大恩,而子孫終其福祿也。
新字:伏見詔書令宗室勛賢作鎮藩部,貽厥子孫,嗣守其政,非有大故,無或黜免。臣窃惟陛下封植之者,誠愛之重之,欲其緒裔承守,与国無疆。可則?以堯、舜之父,猶有朱、均之子?況下此以還,而欲以父取児,恐失之遠矣。儻有孩童嗣職,万一驕逸,則兆庶被其殃,而国家受其敗。政欲絶之也,則子文之理猶在;政欲留之也,而欒黡之悪已彰。与其毒害於見存之百姓,則寧使割恩於已亡之一臣,明矣。然則郷之所謂愛之者,乃適所以傷之也。臣謂宜賦以茅土,疇其戸邑,必有材行,随器方授,則翰翮非強,亦可以獲免尤累。昔漢光武不任功臣以吏事,所以終全其世者,良由得其術也。願陛下深思其宜,使夫得奉大恩,而子孫終其福禄也。
書き下し
伏して詔書を見るに、宗室勲賢をして藩部に鎮を作(な)し、厥(そ)の子孫に貽(のこ)し、嗣ぎて其の政を守らしむ。大故有るに非ずんば、黜免する或(こと)無し、と。臣窃かに惟うに、陛下の之を封植するは、誠に之を愛し之を重んじ、其の緒裔をして承け守り、国と疆り無からしめんと欲すればなり。可(しか)らんか。堯・舜の父を以てすら、猶お朱・均の子有り。況んや此より下(くだ)りて還(かえ)って、父を以て児を取らんと欲するは、恐らくは之を失うこと遠からん。儻(も)し孩童の職を嗣ぐ有りて、万一驕逸ならば、則ち兆庶は其の殃を被り、而して国家は其の敗を受く。政(まさ)に之を絶たんと欲すれば、則ち子文の理は猶お在り。政に之を留めんと欲すれば、而して欒黶(らんえん)の悪は已に彰る。其の見存の百姓に毒害あらんよりは、則ち寧ろ已亡の一臣に恩を割かしむること、明らかなり。然らば則ち郷(さき)の所謂る之を愛する者は、乃ち適(まさ)に之を傷つくる所以なり。臣謂えらく、宜しく賦するに茅土を以てし、其の戸邑を疇(むく)い、必ず材行有らば、器に随いて方(まさ)に授くべし。則ち翰翮(かんかく)強からずとも、亦た以て尤累を免るるを獲べし。昔、漢の光武は功臣に吏事を任ぜず。終に其の世を全うする所以の者は、良に其の術を得たるに由るなり。願わくは陛下、深く其の宜しきを思い、夫れをして大恩を奉ずるを得しめ、而して子孫は其の福禄を終えしめよ。
現代語訳
伏して詔書を拝見しますに、皇族や功臣を地方の鎮守とし、その子孫に伝えさせ、代々その政を守らせる。大きな事故がなければ、罷免することはない、とあります。臣がひそかに思いますに、陛下がこれを封じ植えられるのは、まことに彼らを愛し重んじ、その子孫が受け継ぎ守り、国と共に永久であってほしいと願われるからでしょう。しかしそうでしょうか。堯や舜のような父でさえ、丹朱や商均のような子がありました。まして彼らより下の者が、父を見て子を選ぼうとするのは、おそらく大きく誤ります。もし幼い子が職を継ぎ、万一驕り高ぶれば、民はその災いを被り、国家はその敗れを受けます。断とうとすれば、子文の理がなお残る。留めようとすれば、欒黶の悪がすでに現れている。今生きている民に害を及ぼすより、すでに亡くなった一人の臣への恩を割くほうが、明らかによい。であれば、先に愛だと思ったことが、まさに彼らを傷つけることになるのです。臣が思いますに、領地を賦与し、その戸数に報いる。そして必ず才能と行いがあれば、器量に応じて授けるべきです。そうすれば、羽が強くなくとも、咎めを免れられます。昔、漢の光武帝は功臣に実務を任せませんでした。ついに彼らの一生を全うさせられたのは、まさにその術を得たからです。願わくは陛下、深くその適切さを考え、彼らが大恩を受け、子孫がその福禄を全うできるようにしてください。
解説
この章句が説くこと
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貞観政要・封建封君列国は、其の門資を藉り、其の先業の艱難を忘れ、其の自然の崇貴を軽んず。世を増して淫虐ならざる莫く、代を益して驕侈ならざる莫し。離宮別館は、漢に切(せま)り雲を凌ぐ。或いは人力を刑して将に尽きんとし、或いは諸侯を召して共に楽しむ。陳の霊は則ち君臣礼に悖り、共に徴舒を侮る。衛の宣は則ち父子麀(ゆう)を聚め、終に寿・朔を誅す。乃ち己が為に治を思うと云うも、豈に是くの若くならんや。内外の群官は、朝廷より選ぶ。士庶を擢(ぬきん)でて以て之に任じ、水鏡を澄まして以て之を鑒(かんが)む。年労は其の階品を優にし、考績は其の黜陟を明らかにす。進取の事は切に、砥礪の情は深し。或いは俸禄は私門に入らず、妻子は官舎に之(ゆ)かず。班条の貴きも、食に火を挙げず。剖符の重きも、居ること惟だ水を飲むのみ。南陽の太守は、弊布もて身を裹(つつ)む。莱蕪の県長は、凝塵は甑(こしき)に生ず。専ら利の為に物を図ると云うは、何ぞ其れ爽(たが)えるや。総じて之を言えば、爵は世及に非ずんば、賢を用うるの路は斯に広し。民に定主無くんば、下に附くの情は固からず。此れ乃ち愚知の弁ずる所なり。安くんぞ惑うべけんや。滅国弑君、常を乱し紀を干(おか)すが如きに至りては、春秋二百年の間、略ぼ寧歳無し。次睢に咸秩し、遂に玉帛の君を用う。魯道蕩たる有り、等(ひと)しく衣裳の会を毎(つね)にす。縦(たと)い西漢の哀・平の際、東洛の桓・霊の時、下吏の淫暴なるも、必ず此に至らず。政を為むるの理は、一言を以て之を蔽うべし。
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貞観政要・封建伏して惟うに、陛下は紀を握りて天を御し、期に膺(あた)りて聖を啓く。億兆の焚溺を救い、氛祲(ふんしん)を寰区に掃う。業を創め統を垂れ、二儀に配して以て徳を立つ。号を発し令を施し、万物に妙にして言を為す。独り神衷を照らし、永く前古を懐う。将に五等を復して旧制を修め、万国を建てて以て諸侯を親しくせんとす。窃かに以えらく、漢・魏より還(このかた)、余風の弊は未だ尽きず。勲華既に往き、至公の道は斯に乖く。況んや晋氏は馭を失い、宇県は崩離す。後魏は時に乗じ、華夷雑処す。重ぬるに関河は分かれ阻たり、呉・楚は懸隔す。文を習う者は長短従横の術を学び、武を習う者は尽く干戈戦争の心あり。畢(ことごと)く狙詐の階と為り、弥々澆浮の俗を長ず。開皇は運に在り、外家に因藉す。群英を駆御し、雄猜の数に任ず。坐して明運を移すも、克定の功に非ず。年は二紀を逾ゆるも、民は徳を見ず。大業の嗣立するに及び、世道は交々(こもごも)喪う。一時の人物、地を掃いて将に尽きんとす。天は神武を縦(ゆる)し、寇虐を削平すと雖も、兵威は息(や)まず、労止は未だ康からず。
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貞観政要・太子諸王定分貞観十一年、侍御史馬周疏を上りて曰く、「漢・晋より以来、諸王は皆な樹置の宜しきを失い、預め定分を立てざるが為に、以て滅亡に至る。人主は熟(つらつ)ら其の然るを知るも、但だ私愛に溺る。故に前車既に覆るも、後車は轍を改めざるなり。今、諸王の寵遇の恩を承くること、厚きに過ぐる者有り。臣の愚慮は、惟だ其の恩を恃みて驕矜するを慮るのみに非ず。昔、魏の武帝は陳思を寵樹す。文帝の即位するに及び、防守禁閉して、獄囚に同じきこと有り。先帝の恩を加うること太(はなは)だ多きを以て、故に嗣王は従いて之を畏るるなり。此れ則ち武帝の陳思を寵するは、適(まさ)に之を苦しむる所以なり。且つ帝子は何ぞ富貴ならざるを患えんや。身は大国を食(は)み、封戸は少なからず。好衣美食の外、更に何の須(もと)むる所ぞ。而るに毎年別に優賜を加え、会(かつ)て紀極無し。俚語に曰く、『貧は倹を学ばず、富は奢を学ばず』と。自然なるを言うなり。今、陛下は大聖を以て業を創む。豈に惟だ見在の子弟を処置するのみならんや。当に須らく長久の法を制し、万代をして遵行せしむべし」と。疏奏す。太宗甚だ之を嘉し、物百段を賜う。
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貞観政要・教戒太子諸王観るに夫れ期に膺(あた)り命を受け、図を握りて宇を御し、咸な懿親を建て、王室を藩屏す。方策に布在す。得て言うべし。軒より二十五子を分かち、舜は一十六族を挙ぐるより、爰(ここ)に周・漢を歴、以て陳・隋に逮(およ)ぶまで、山河を分裂し、大いに磐石を啓く者は衆し。或いは王家を保乂(ほうがい)し、時と升降す。或いは其の土宇を失い、祀られずして忽ち諸(こ)れ亡ぶ。然れども其の隆替を考え、其の興滅を察するに、功成り名立つは、咸な始封の君に資(と)る。国喪び身亡ぶは、多く継体の後に因る。其の故は何ぞや。始封の君は、時に草昧に逢い、王業の艱阻を見、父兄の憂勤を知る。是を以て上に在りて驕らず、夙夜に懈らず。或いは醴を設けて以て賢を求め、或いは飱を吐きて以て士に接す。故に忠言の耳に逆らうを甘しとし、百姓の懽心を得たり。至徳を生前に樹て、遺愛を身後に流す。夫の子孫の体を継ぐに暨(およ)びては、多く隆平に属す。深宮の中に生まれ、婦人の手に長ず。高危を以て憂懼と為さず。豈に稼穡の艱難を知らんや。小人に昵近し、君子を疎遠にす。哲婦に綢繆(ちゅうびゅう)し、明徳に傲狠す。義を犯し礼に悖り、淫荒にして度無し。典憲に遵わず、僣差して等を越ゆ。一顧の権寵を恃み、便ち匹嫡の心を懐く。一事の微労を矜り、遂に無厭の望有り。忠貞の正路を棄て、奸宄(かんき)の迷塗を蹈む。諫に愎(もと)り卜に違い、往きて返らず。梁孝・斉冏の勲庸、淮南・東阿の才俊と雖も、霄を摩するの逸翮を摧(くだ)き、窮轍の涸鱗と成る。桓・文の大功を棄て、梁・董の顕戮に就く。垂れて炯戒と為す。惜しむべからずや。皇帝は聖哲の資を以て、傾危の運を拯(すく)い、七徳を耀かして以て六合を清くし、万国を総べて百霊を朝せしむ。四荒を懐柔し、九族を親睦す。華萼を『棠棣』に念い、維城を宗子に寄す。心に愛するかな、日として思わざる無し。爰に下臣に命じて、載籍を考覧し、博く鑒鏡を求め、厥の孫謀を貽(のこ)さしむ。臣輒(すなわ)ち愚誠を竭くし、諸を前訓に稽(かんが)う。凡そ藩と為り翰と為り、国有り家有る者、其の興るや必ず善を積むに由る。其の亡ぶるや皆な悪を積むに在り。故に知る、善は積まずんば以て名を成すに足らず、悪は積まずんば以て身を滅ぼすに足らざるを。然らば則ち禍福に門無く、吉凶は己に由る。惟だ人の召く所なり。豈に徒言ならんや。今、古よりの諸王の行事の得失を録し、其の善悪を分かちて各々一篇と為し、名づけて曰く、『諸王善悪録』と。善を見ては斉しからんことを思い、以て名を揚げて朽ちざるに足らしめ、悪を聞きては能く改め、庶(ちか)くは大過を免るるを得しめんと欲す。善に従わば則ち誉有り、過ちを改むれば則ち咎無し。興亡は是れ係る。勉めざるべけんや。
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