貞観政要 / 直諫
貞觀三年,詔關中免二年租稅,關東給復一年。尋有敕:已役已納,並遣輸納,明年總為準折。給事中魏徵上書曰:「伏見八月九日詔書,率土皆給復一年。老幼相歡,或歌且舞。又聞有敕,丁已配役,即令役滿折造,餘物亦遣輸了,待明年總為準折。道路之人,咸失所望。此誠平分百姓,均同七子。但下民難與圖始,日用不足,皆以國家追悔前言,二三其德。臣竊聞之,天之所輔者仁,人之所助者信。今陛下初膺大寶,億兆觀德。始發大號,便有二言。生八表之疑心,失四時之大信。縱國家有倒懸之急,猶必不可。況以泰山之安,而輒行此事!為陛下為此計者,於財利小益,於德義大損。臣誠智識淺短,竊為陛下惜之。伏願少覽臣言,詳擇利益。冒昧之罪。臣所甘心。」
新字:貞観三年,詔関中免二年租税,関東給復一年。尋有勅:已役已納,並遣輸納,明年総為準折。給事中魏徴上書曰:「伏見八月九日詔書,率土皆給復一年。老幼相歓,或歌且舞。又聞有勅,丁已配役,即令役満折造,余物亦遣輸了,待明年総為準折。道路之人,咸失所望。此誠平分百姓,均同七子。但下民難与図始,日用不足,皆以国家追悔前言,二三其徳。臣竊聞之,天之所輔者仁,人之所助者信。今陛下初膺大宝,億兆観徳。始発大号,便有二言。生八表之疑心,失四時之大信。縦国家有倒懸之急,猶必不可。況以泰山之安,而輒行此事!為陛下為此計者,於財利小益,於徳義大損。臣誠智識浅短,竊為陛下惜之。伏願少覧臣言,詳択利益。冒昧之罪。臣所甘心。」
書き下し
貞観三年、詔して関中は二年の租税を免じ、関東は復(ふく)を給うこと一年とす。尋いで勅有り、已に役し已に納むるは、並びに輸納せしめ、明年に総べて準折を為す、と。給事中魏徴書を上りて曰く、「伏して八月九日の詔書を見るに、率土皆な復を給うこと一年。老幼相い歓び、或いは歌い且つ舞う。又た勅有りと聞く。丁は已に役に配せば、即ち役を満たしめ折造せしむ。余物も亦た輸し了(お)えしめ、明年を待ちて総べて準折を為す、と。道路の人、咸な望みを失う。此れ誠に百姓を平分し、七子に均同するなり。但だ下民は与に始めを図り難し。日用足らざれば、皆な以為えらく、国家は前言を追悔し、其の徳を二三にすと。臣窃かに之を聞く、天の輔くる所は仁、人の助くる所は信、と。今、陛下は初めて大宝に膺(あた)る。億兆は徳を観る。始めて大号を発するに、便ち二言有り。八表の疑心を生じ、四時の大信を失う。縦(たと)い国家に倒懸の急有るも、猶お必ず不可なり。況んや泰山の安きを以てして、輒(すなわ)ち此の事を行わんや。陛下の為に此の計を為す者は、財利に於て小しく益あるも、徳義に於て大いに損なう。臣は誠に智識浅短なるも、窃かに陛下の為に之を惜しむ。伏して願わくは少しく臣の言を覧て、詳らかに利益を択べ。冒昧の罪は、臣の甘心する所なり」と。
現代語訳
貞観三年、詔を下して関中は二年の租税を免じ、関東は一年の課役免除を与えた。まもなく勅が出た。すでに労役に就き、すでに納めた分は、そのまま納めさせ、翌年にまとめて差し引く、と。給事中の魏徴が上書して言った。「伏して八月九日の詔書を拝見しますに、国中すべてに一年の免除を与えるとありました。老いも若きも喜び合い、歌い舞う者さえありました。ところがまた勅があり、すでに労役に配された者は、そのまま役を務め終えさせ、残りの物も納め終えさせ、翌年にまとめて差し引くとのこと。道行く人々は、みな失望しています。これはたしかに、民を公平に扱い、我が子のように等しく遇するお考えでしょう。しかし下々の民とは、初めから事を図りにくいものです。日々の暮らしが足りなければ、みな、国家が前言を悔いて、その徳を二転三転させたと思うのです。臣はこう聞いております。天が助けるのは仁、人が助けるのは信、と。今、陛下は初めて大位に就かれ、億兆の民がその徳を見ています。初めて大号令を発したのに、すぐ二つの言葉が出た。天下に疑いの心を生じさせ、四季にわたる大きな信を失いました。たとえ国家に逆さ吊りのような急難があっても、なおしてはなりません。まして泰山のように安らかな時に、どうしてこんなことをなさるのか。陛下のためにこの計を立てた者は、財政上わずかに益はあっても、徳義において大きく損なっています。臣は知識が浅いのですが、ひそかに陛下のためにこれを惜しみます。伏して願わくは、少しでも臣の言葉をご覧になり、詳しく利害をお選びください。無礼の罪は、臣の甘んじて受けるところです」。