貞観政要 / 納諫
貞觀七年,太宗將幸九成宮,散騎常侍姚思廉進諫曰:「陛下高居紫極,寧濟蒼生,應須以欲從人,不可以人從欲。然則離宮遊幸,此秦皇、漢武之事,故非堯、舜、禹、湯之所為也。」言甚切至。太宗諭之曰:「朕有氣疾,熱便頓劇,故非情好遊幸,甚嘉卿意。」因賜帛五十段。
新字:貞観七年,太宗将幸九成宮,散騎常侍姚思廉進諫曰:「陛下高居紫極,寧済蒼生,応須以欲従人,不可以人従欲。然則離宮遊幸,此秦皇、漢武之事,故非堯、舜、禹、湯之所為也。」言甚切至。太宗諭之曰:「朕有気疾,熱便頓劇,故非情好遊幸,甚嘉卿意。」因賜帛五十段。
書き下し
貞観七年、太宗将に九成宮に幸せんとす。散騎常侍姚思廉進みて諫めて曰く、「陛下は高く紫極に居り、寧(やす)んじ蒼生を済(すく)う。応に須らく欲を以て人に従うべし。人を以て欲に従わしむべからず。然らば則ち離宮に遊幸するは、此れ秦皇・漢武の事なり。故に堯・舜・禹・湯の為す所に非ず」と。言は甚だ切至なり。太宗之に諭して曰く、「朕に気疾有り。熱すれば便ち頓(にわ)かに劇し。故に情として遊幸を好むに非ず。甚だ卿の意を嘉す」と。因りて帛五十段を賜う。
現代語訳
貞観七年、太宗が九成宮へ行幸しようとした。散騎常侍の姚思廉が進み出て諫めた。「陛下は高く天子の位にあり、民を安んじ救っておられます。まさに自分の欲を人々の意に従わせるべきで、人々を自分の欲に従わせてはなりません。であれば、離宮に遊びに行くのは、秦の始皇帝や漢の武帝のすることです。堯・舜・禹・湯のなさることではありません」。言葉はきわめて切実で厳しかった。太宗は説明して言った。「私には気の病があり、暑くなるとたちまち重くなる。だから好んで遊びに行くのではない。あなたの気持ちは大いに嬉しい」。そして絹五十段を賜った。
解説
太宗が避暑地の九成宮へ出かけようとした時、姚思廉という家臣が「君主が遊びのために出かけるのは、立派な昔の王のすることではない」と厳しく諫めた一段です。実は太宗には持病があり、暑さで体調を崩すため、避暑は遊びではなく必要なことでした。つまりこの諫めは的外れだったのです。それでも太宗は姚思廉を叱ることなく、事情を丁寧に説明したうえで、絹五十反もの褒美を与えます。「あなたの気持ちはとても嬉しい」と。意見の中身が正しいかどうかと、本音で言ってくれたこと自体をねぎらうかどうかは、別の話なのです。家庭でも、子供や部下の指摘が見当違いだったとき、内容だけを見て頭ごなしに否定してしまうと、次から誰も何も言わなくなってしまいます。
この章句が説くこと
以欲従人不可以人従欲的外れな諫言への応じ方内容と姿勢を分ける