貞観政要 / 納諫
陛下智周萬物,囊括四海。令之所行,何往不應?誌之所欲,何事不從?微臣竊思秦始皇之為君也,藉周室之餘,因六國之盛,將貽之萬葉,及其子而亡,諒由逞嗜奔欲,逆天害人者也。是知天下不可以力勝,神祇不可以親恃。惟當弘儉約,薄賦斂,慎終始,可以永固。
新字:陛下智周万物,嚢括四海。令之所行,何往不応?誌之所欲,何事不従?微臣窃思秦始皇之為君也,藉周室之余,因六国之盛,将貽之万葉,及其子而亡,諒由逞嗜奔欲,逆天害人者也。是知天下不可以力勝,神祇不可以親恃。惟当弘倹約,薄賦斂,慎終始,可以永固。
書き下し
陛下は智は万物に周(あまね)く、四海を囊括す。令の行う所、何くに往くとして応ぜざらん。志の欲する所、何事か従わざらん。微臣窃かに思うに、秦の始皇の君為るや、周室の余を藉り、六国の盛に因る。将に之を万葉に貽(のこ)さんとせしも、其の子に及びて亡ぶ。諒(まこと)に嗜を逞しくし欲に奔り、天に逆らい人を害するに由るなり。是を以て知る、天下は力を以て勝つべからず、神祇は親(みずか)ら恃むべからざるを。惟だ当に倹約を弘(ひろ)め、賦斂を薄くし、終始を慎むべし。以て永く固くすべし。
現代語訳
陛下の知は万物に及び、四海を包み込んでおられます。命令が下れば、どこであれ従わないところはなく、志すことに、応じないことはありません。しかし微臣がひそかに思いますに、秦の始皇帝が君主となった時、周王朝の遺産を借り、六国の繁栄を受け継ぎ、これを万世に伝えようとしました。ところがその子の代で滅びました。まことに欲望をほしいままにし、天に逆らい人を害したからです。ここから知られます。天下は力で勝ち取れるものではなく、神々の加護も自分の頼みにはできない、と。ただ倹約を広め、税を軽くし、始めと終わりを慎むべきです。それでこそ、永く固くできるのです。
解説
この章句が説くこと
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貞観政要・慎終貞観十四年、太宗侍臣に謂いて曰く、「天下を平定するは、朕は其の事有りと雖も、之を守るに図を失わば、功業も亦復た保ち難し。秦の始皇は初め亦た六国を平らげ、四海を拠有す。末年に及び、善く守る能わず。実に誡と為すべし。公等宜しく公を念い私を忘るべし。則ち栄名高位、以て克く其の美を終うべし」と。魏徴対えて曰く、「臣は之を聞く、戦い勝つは易く、勝ちを守るは難し、と。陛下は深く思い遠く慮り、安きに危うきを忘れず。功業は既に彰れ、徳教は復た洽(あまね)し。恒に此を以て政を為さば、宗社の傾敗するに由無し」と。
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貞観政要・征伐窃かに見るに、頃年より以来、力役は兼総す。東に遼海の軍有り、西に昆丘の役有り。士馬は甲冑に疲れ、舟車は転輸に倦む。且つ召募役戍は、去留に死生の痛みを懐く。風に因り浪に阻まれ、人と米とに漂溺の危有り。一夫、力めて耕すも、年に数十の獲無し。一船、損を致さば、則ち数百の糧を傾覆す。是れ猶お尽くる有るの農功を運びて、窮まり無きの巨浪を填(うず)むるがごとし。未だ獲ざるの他衆を図りて、已に成れるの我が軍を喪う。凶を除き暴を伐つは、国を有つの常規なりと雖も、然れども武を黷(けが)し兵を玩ぶは、先哲の戒むる所なり。昔、秦皇は六国を並吞す。反って危禍の基を速(まね)く。晋武は三方を奄有す。翻って覆敗の業を成す。豈に功を矜り大を恃み、徳を棄て邦を軽んじ、利を図りて害を忘れ、情を肆にし欲を縦にするに非ずや。遂に悠悠たる六合をして、広しと雖も其の亡を救わず、嗷嗷たる黎庶をして、弊に因りて以て其の禍を成さしむ。是れ知る、地の広きは常安の術に非ず、人の労するは乃ち乱れ易きの源なり。願わくは陛下、沢を布き人に流し、弊を矜れみ乏を恤(あわ)れみ、行役の煩を減じ、雨露の恵を増せ。
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貞観政要・奢縦臣は歴(あまね)く前代を睹(み)るに、夏・殷・周及び漢氏の天下を有するより、祚を伝えて相い継ぐこと、多き者は八百余年、少なき者も猶お四五百年なり。皆な徳を積み業を累ね、恩は人心に結ぶと為す。豈に僻王無からんや。前哲に頼りて以て免るるのみ。魏・晋より以還、降りて周・隋に及ぶまでは、多き者も五六十年に過ぎず、少なき者は才(わず)かに二三十年にして亡ぶ。良に創業の君の恩化を広むるに務めず、当時は僅かに能く自ら守るも、後に遺徳の思うべき無きに由る。故に伝嗣の主は政教少しく衰え、一夫大呼して天下土崩す。今、陛下は大功を以て天下を定むと雖も、而れども積徳は日浅し。固より当に禹・湯・文・武の道を崇び、広く徳化を施し、恩をして余地有らしめ、子孫の為に万代の基を立つべし。豈に但だ政教をして失無からしめ、以て当年を持するのみを欲せんや。且つ古より明王聖主は、人に因りて教えを設け、寛猛は時に随うと雖も、而れども大要は身に節倹し、恩を人に加うるの二者を以て是れ務む。故に其の下は之を愛すること父母の如く、之を仰ぐこと日月の如く、之を敬すること神明の如く、之を畏るること雷霆の如し。此れ其の祚を卜すること遐長にして禍乱作らざる所以なり。
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史記 秦始皇本紀秦海内を并せ、諸侯を兼ね、南面して帝と称し、以て四海を養ふ。天下の士斐然として風に郷ふ。是の若きは何ぞや。曰く、近古の王無きこと久し。周室卑微にして、五霸既に歿し、令天下に行はれず。是を以て諸侯力政し、彊は弱を侵し、衆は寡を暴し、兵革休まず、士民罷敝す。今秦南面して天下に王たり、是れ上に天子有るなり。既に元元の民其の性命を安んずるを得んことを冀ひ、心を虚しくして上を仰がざる莫し。此の時に当たり、威を守り功を定むるは、安危の本此に在り。秦王貪鄙の心を懐き、自奮の智を行ひ、功臣を信ぜず、士民に親しまず、王道を廃し、私権を立て、文書を禁じて刑法を酷にし、詐力を先にして仁義を後にし、暴虐を以て天下の始めと為す。夫れ并兼する者は詐力を高び、安定する者は順権を貴ぶ。此れ取ると守ると術を同じくせざるを言ふなり。秦戦国を離れて天下に王たるも、其の道易へず、其の政改めず。是れ其の之を取る所以と之を守る所以と異なる無きなり。孤独にして之を有つ、故に其の亡ぶこと立ちて待つ可し。借使秦王上世の事を計り、殷周の跡を并せ、以て其の政を制御せば、後に淫驕の主有りと雖も、未だ傾危の患ひ有らざるなり。故に三王の天下を建つるや、名号顕美にして、功業長久なり。今秦の二世立つや、天下領を引きて其の政を観ざる莫し。夫れ寒ゆる者は裋褐を利とし、饑うる者は糟糠を甘しとす。天下の嗷嗷たるは、新主の資なり。此れ労民の仁を為し易きを言ふなり。
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貞観政要・辨興亡貞観の初め、太宗従容として侍臣に謂いて曰く、「周の武は紂の乱を平らげ、以て天下を有す。秦皇は周の衰うるに因り、遂に六国を吞む。其の天下を得るは殊ならざるに、祚運の長短は此くの若く相い懸(へだ)たるは何ぞや」と。尚書右僕射蕭瑀進みて曰く、「紂は無道を為す。天下之に苦しむ。故に八百の諸侯は期せずして会す。周室は微なり。六国に罪無し。秦氏は専ら智力に任じ、諸侯を蚕食す。平定は同じと雖も、人情は則ち異なる」と。太宗曰く、「然らず。周は既に殷に克ち、務めて仁義を弘む。秦は既に志を得て、専ら詐力を行う。但だ之を取るに異有るのみに非ず、抑(そもそ)も亦た之を守るに同じからず。祚の修短は、意は茲に在るか」と。
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貞観政要・慎終臣は自古の帝王の図を受け鼎を定むるを観るに、皆な之を万代に伝え、厥(そ)の孫謀を貽(のこ)さんと欲す。故に其の巌廊に垂拱し、政を天下に布く。其の道を語るや、必ず淳朴を先にして浮華を抑う。其の人を論ずるや、必ず忠良を貴びて邪佞を鄙(いや)しむ。制度を言うや、則ち奢靡を絶ちて倹約を崇ぶ。物産を談ずるや、則ち穀帛を重んじて珍奇を賤しむ。然れども命を受くるの初めは、皆な之に遵いて以て治を成す。稍(やや)安んずるの後は、多く之に反して俗を敗る。其の故は何ぞや。豈に万乗の尊に居り、四海の富を有し、言を出して己に逆らう莫く、為す所は人必ず従うを以て、公道は私情に溺れ、礼節は嗜欲に虧くるが故ならずや。語に曰く、「之を知るは難きに非ず。之を行うは難しと為す。之を行うは難きに非ず。之を終うるは斯れ難し」と。言う所は信なり。
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