貞観政要 / 求諫
貞觀三年,太宗謂司空裴寂曰:「比有上書奏事,條數甚多,朕總黏之屋壁,出入觀省。所以孜孜不倦者,欲盡臣下之情。每一思政理,或三更方寢。亦望公輩用心不倦,以副朕懷也。」
新字:貞観三年,太宗謂司空裴寂曰:「比有上書奏事,条数甚多,朕総黏之屋壁,出入観省。所以孜孜不倦者,欲尽臣下之情。毎一思政理,或三更方寝。亦望公輩用心不倦,以副朕懐也。」
書き下し
貞観三年、太宗司空裴寂(はいじゃく)に謂いて曰く、「比(このごろ)書を上りて事を奏する有り。条数甚だ多し。朕は総べて之を屋壁に黏(は)り、出入に観省す。孜孜として倦まざる所以の者は、臣下の情を尽くさんと欲すればなり。一たび政理を思う毎に、或いは三更にして方(はじ)めて寝ぬ。亦た公輩の心を用いて倦まず、以て朕の懐に副わんことを望む」と。
現代語訳
貞観三年、太宗が司空の裴寂に言った。「近頃、上書して政事を奏する者がある。その条項は極めて多い。私はそれをすべて部屋の壁に貼り、出入りのたびに眺めて省みている。ひたすら倦むことなくそうしているのは、臣下の思いを汲み尽くしたいからだ。ひとたび政治の道理を考え始めると、真夜中になってようやく寝ることもある。諸君も心を用いて倦むことなく、私の思いに応えてほしい」。
解説
太宗が、家臣たちの意見書をすべて壁に貼り、部屋の出入りのたびに眺めていた、という話です。読んで終わりにせず、目に入る場所へ貼っておく。これは今で言えば、忘れてはいけない用事を紙に書いて冷蔵庫や玄関に貼っておくのと同じ工夫です。人は一度読んだだけでは、行動を変えられません。何度も目に触れるからこそ、少しずつ心に染み込み、実際の振る舞いが変わっていくのです。太宗は「夜中まで政治のことを考えて寝られないこともある」とまで言っています。人の上に立つ人ほど、聞いた意見を聞きっぱなしにせず、忘れないための工夫を自分に課すべきだ、という教えです。家庭でも、家族の言葉を聞き流さず、書き留めて何度も見返す習慣が、信頼を築く土台になります。
この章句が説くこと
総黏之屋壁出入観省忘れない工夫聞くだけでは変わらない