貞観政要 / 君道
君人者,誠能見可欲,則思知足以自戒;將有作,則思知止以安人;念高危,則思謙沖而自牧;懼滿溢,則思江海下百川;樂盤遊,則思三驅以為度;憂懈怠,則思慎始而敬終;慮壅蔽,則思虛心以納下;想讒邪,則思正身以黜惡;恩所加,則思無因喜以謬賞;罰所及,則思無因怒而濫刑。總此十思,弘茲九德,簡能而任之,擇善而從之。則智者盡其謀,勇者竭其力,仁者播其惠,信者效其忠。文武爭馳,君臣無事,可以盡豫遊之樂,可以養松喬之壽,鳴琴垂拱,不言而化。何必勞神苦思,代下司職,役聰明之耳目,虧無為之大道哉?
新字:君人者,誠能見可欲,則思知足以自戒;将有作,則思知止以安人;念高危,則思謙沖而自牧;懼満溢,則思江海下百川;楽盤遊,則思三駆以為度;憂懈怠,則思慎始而敬終;慮壅蔽,則思虚心以納下;想讒邪,則思正身以黜悪;恩所加,則思無因喜以謬賞;罰所及,則思無因怒而濫刑。総此十思,弘茲九徳,簡能而任之,択善而従之。則智者尽其謀,勇者竭其力,仁者播其恵,信者効其忠。文武争馳,君臣無事,可以尽予遊之楽,可以養松喬之寿,鳴琴垂拱,不言而化。何必労神苦思,代下司職,役聰明之耳目,虧無為之大道哉?
書き下し
君人(くんじん)たる者、誠に能く可欲を見れば、則ち足るを知りて以て自ら戒むるを思う。将に作すこと有らんとせば、則ち止まるを知りて以て人を安んずるを思う。高危を念えば、則ち謙沖にして自ら牧するを思う。満溢を懼るれば、則ち江海の百川に下るを思う。盤遊を楽しめば、則ち三駆を以て度と為すを思う。懈怠を憂うれば、則ち始めを慎みて終わりを敬するを思う。壅蔽を慮れば、則ち心を虚しくして以て下を納るるを思う。讒邪を想えば、則ち身を正して以て悪を黜(しりぞ)くるを思う。恩の加うる所には、則ち喜びに因りて謬(あやま)り賞する無きを思う。罰の及ぶ所には、則ち怒りに因りて濫りに刑する無きを思う。此の十思を総べ、茲(こ)の九徳を弘め、能を簡(えら)びて之に任じ、善を択びて之に従わば、則ち智者は其の謀を尽くし、勇者は其の力を竭くし、仁者は其の恵を播(し)き、信者は其の忠を効(いた)さん。文武馳せを争い、君臣は事無し。以て豫遊の楽しみを尽くすべく、以て松喬(しょうきょう)の寿を養うべし。琴を鳴らし拱(きょう)を垂れ、言わずして化す。何ぞ必ずしも神を労し思いを苦しめ、下に代わりて職を司り、聡明の耳目を役し、無為の大道を虧(か)かんや。
現代語訳
君主たる者は、欲しいものを見たら、足るを知って自らを戒めることを思うべきです。何かを始めようとする時には、止まることを知って人を安んじることを思うべきです。高い位の危うさを思う時は、謙虚に自らを養うことを思うべきです。満ち溢れることを恐れる時は、大河や海が百の川より低いところにあることを思うべきです。狩りを楽しむ時は、三方だけを囲む節度を思うべきです。怠けることを憂える時は、始めを慎み終わりを敬うことを思うべきです。耳目が塞がれることを憂える時は、心を虚しくして下の意見を受け入れることを思うべきです。讒言を思う時は、身を正して悪を退けることを思うべきです。恩賞を与える時は、喜びに任せて誤った賞を与えないことを思うべきです。罰を下す時は、怒りに任せてみだりに刑を加えないことを思うべきです。この十の思いを束ね、九つの徳を広め、有能な者を選んで任せ、善い意見を択んで従えば、知恵ある者はその謀を尽くし、勇者はその力を尽くし、仁者はその恵みを施し、信ある者はその忠を尽くします。文官も武官も先を争って働き、君も臣も余計な事がなくなる。ゆったりと遊ぶ楽しみを尽くすこともでき、赤松子や王子喬のような長寿を養うこともできる。琴を鳴らし、手を組んで座っているだけで、何も言わずに天下は感化されます。どうして、精神をすり減らし、思いを苦しめ、下の者に代わって職務を執り、聡明な耳目を酷使し、無為の大いなる道を損なう必要がありましょうか。